第16話
「がっ……!」
有賀が必死で包丁を刺す腕をどかそうとするが、体勢を崩し転倒した彼は今や百瀬先輩に馬乗りにされている状態だ。彼女は微動だにしない。声も出さず、有賀の胸に刺さる包丁を更に奥へ刺そうとしている。
「百瀬!」
御子柴先輩が百瀬先輩の左腕を掴み、引っ張って体勢を崩したところで床に組み伏せた。その衝撃でフードが脱げる。間違いなく百瀬先輩だ。しかし、顔の右半分が全て蔦になっていた。
「――離せ!」
彼女が初めて発した怒号だった。その低い声には憎悪が満ちている。しかし右腕と左足がない状態では上手く暴れられないようだ。
私は手を震わせそれを見ていることしかできなかった。
「保科!有賀さんを!」
「あ、え……はい!」
私は携帯で救急車を呼んだあと、有賀の傍に寄った。目を見開き、浅く連続的な呼吸をしている。救急車が来るまで持つか分からない。
「刃物は抜かないで。恐らく心臓に達しているから、抜いたら大出血して死期が早まる」
「わ……分かりました」
すると、御子柴先輩に抑えられている百瀬先輩が笑った。
「まだ死んでねえんだな?その男。好都合だ。あんたらの話、しっかり聞いてたよ。優等生として生きるよう親に言われてるからな。優等生はしっかり人の話を聞くもんだ。代償の代替、だっけか?」
「保科。百瀬は今なんて言った?」
「え?あ、えっと有賀が死んでないなら好都合だってことと、代償の代替の話を」
「――まずい」
「もう遅いよ」
彼女は御子柴先輩の隙を突き地面を包丁で削り、そこに口から出した何かを入れた。植物の種のようだった。
「『
その言葉とほぼ同時に有賀の体が
「有賀さん!……もう、遅いか」
「……はっ。ははっ!まさか、本当に成功した?……呪いが馬鹿で助かったよ。こんなんでも本当にできるもんなんだな」彼女は再び笑い始めた。「救急車が来るまで――まあ待っても無駄だけど、ネタばらししてやるよ。私が親に呪われてるのは知ってんだろ?私、聞いちゃったんだよ。『本当にあの子を呪い殺せるのね?』『大丈夫だ。彼は信用できる』って会話がさ。私が夜中に起きたのに気づかず、あの二人は私を呪ってたんだ」
彼女は笑いながらも、左目から涙を流し始めた。
「そのあと必死にゴミ箱漁って、ばらばらに千切られた呪いの方法が書いてある紙繋ぎ合わせたんだ。そしたら有賀ってそこに書いてあった。『こいつが私の親に呪いを教えたんだ』って分かって、それから私にかけられた呪いを有賀にかけてやった。でもまあ、あんたらも分かる通り失敗したんだ。殺せなかった。当時は完全に殺せたもんだと思い込んでたよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます