7月28日

第14話

 日曜日。今日は写真部の活動日だ。とはいえ、実際に来るのは私と御子柴先輩くらいで、あとは幽霊部員なのだが。

「彼女から連絡があったよ。もう立派な呪い研究の助手だね。僕にも解けなかった呪いを、まさか一人で解決してしまうとは」

 彼は写真を数枚見つくろいながら、心底嬉しそうに話しかけてきた。

「ええ、まあ」

 少し複雑な気分だ。前までは手放しで喜べたのだろうが、を使ったあとでは、素直に喜べない。御子柴先輩の心は、今や叶芽さんのものだ。

「どうだい?呪いに更に興味が湧かないかい?」

「いや、そんなにですかね……」

「そうか。有賀さんが素晴らしい発見をしたから、今日見に行く予定なんだが。君はまた楽しめないかもしれないね」

「……そうだ。私、クッキー作って来たんですよ。母はお菓子作りが趣味なので」

「お、いいね。何味だい?」

「チョコです」

「素晴らしい。僕はチョコクッキーが一番好きなんだ」

「本当ですか!それは良かったです」

 勿論、チョコクッキーが好きなのはリサーチ済みだ。

「うん。良い味だ。砂糖も控えめで僕好みだ」

 私はクッキーを食べる彼を眺めていた。これがきっかけで私を振り向いてくれたりしないだろうか。

 私はまだ御子柴先輩を諦めきれずにいた。まだチャンスはあるんじゃないかと、ひそかに様子を窺っている。先輩。そのクッキーに何が入ってると思います?これもまた呪法の一つですよね?焼く時きちんと唱えましたよ。『呪われてあれ』って。

「良し。次のコンクールの作品は決めた。有賀さんの所へ行こうか、助手」

「……分かりました」


    *


 ここに来るのはもう三回目だ。もう慣れてしまった。不気味な廃診療所も、異様な暗さも、背中に刺さる謎の視線も。

 いつもの部屋で、いつもの面持ちで彼は待っていた。一つ変わったことと言えば、左の上腕に黒百合くろゆりが巻き付いていることだけだ。

 地面にも机にも本がばらまかれており、そのどれもが何度もめくられて変な癖がついている。それと、なぜかからすの入ったかごがあった。

「お、来てくれたか。俺の素晴らしい研究発表会に」

 彼の振る舞いといい口調といい、まさにマッドサイエンティストという言葉がよくお似合いだ。

「今日はどんな発表があるんです?」

 私たちは有賀と相対するように椅子に座った。有賀がまたチョークを取り出し、床に何かを書き始める。

「今回の俺の発見は偉大だ。簡易呪法の在り方を根底からくつがせるぞ」

 床には『簡易呪法の代償の代替』と書かれていた。

「まさか、本当に見つけてしまったんですか?」

「ああ」

 彼は嬉しそうに藁人形と釘、金槌を用意していた。よく見る典型的な呪い用のアイテムだ。

「呪いがまるで生物のように意思を持つことは教えたかな?」

「はい。だから交信をしてみたいという話もしていましたね」

「実はね、判明したのだよ。我々は既に呪いと交信する手段を手にしていた」

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