第11話
そこで彼はチョークを置き、まるで演説をするかのように両手を左右に大きく広げた。
「そして俺は、度重なる研究と書物の読み込みにより新しい発見をしたのだ」
その表情は
「その発見とは、呪いに意思があるということだ」
「意思ですか。確かに僕も効いたことのない話ですね」
「君たちは代償として失うものがどのように決められているか分かるか?」
「ランダムだと思ってましたが……」
「恐らくランダムではない。盲腸という器官を知ってるだろう?消化器官として機能してない、人間には不必要な器官だ。そして、呪いの代償として盲腸を失ったという前例がどこにもないんだ」
「つまり、呪いは人間が失ったら困るものを選択し代償として払わせている……」
御子柴先輩が少し楽しそうな表情でそう呟いた。
「そうだ。呪いとは人を害するためだけに生きている、
「凄い……とんでもない咒学の発展ですよ!」
「ああ。この事実が確かなら、私たちが次にやるべきは呪いとの交信だな」
私には何が何だか分からない。二人でなんか盛り上がっているし、御子柴先輩を取られたみたいで嫌な気分だ。そもそも私のものでもないけれど。
私は議論を白熱させている二人を尻目に、廃診療所を出た。
*
「また来ちゃいました」
廃墟の部屋を覗くと、エリさんはまだ眠っているようだった。いつものように隣の椅子に座る。
「……やっぱり、そうだよね」
明らかにエリさんの花の量が増えている。初めて会った時は口元もはっきり見えていたのに、今やその部分もほとんど花で覆われている。これでは呼吸もままならない。
よく見れば、首にも腹部にもエリンジウムが咲き始めていた。
そろそろ潮時なのだろうか。確かに最近、彼女の食べる量が増えていた。花が増えれば増えるほど栄養不足になるのだから、当然だ。
しばらくして、ガサガサという花と葉が擦れる音を立てながら、エリさんがゆっくりと動き始めた。相変わらずエリンジウムの花束を
「おはようございます、エリさん」
「お……はよ……」
様子が変だ。上手く声が出ない感じ。もしや発声器官さえも花に
「大丈夫ですか……?」
「う……」
返事とも取れない声だけが返ってきた。そんな自分の声を聞いて何かを考えたのか、彼女は泣き始めた。
出会ってから一週間弱、初めて見る彼女の涙だった。
私はそんな彼女の、花だらけの背中をさすることしかできなかった。気の利いた言葉の一つも絞り出せなくて、そんな情けない自分が嫌になって、思わず涙が零れた。
嫌なほどの快晴が私たちを見下ろしていた。
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