第7話

「なるほど。ありがとうございます」

「あの……」

 母親の視線が御子柴先輩の持つ封筒に向いていた。よほど成績通知書が気になるようだ。

「ああ。これ、お渡しします」

「あ、いや……出来ればそれを処分してほしいんです」彼女は気まずそうに目を逸らした。「千枝ちえが教室に行かないのは、自分の成績を他のクラスメイトと比べていることが原因かもしれないですし……」

「なるほど」そう言って御子柴は自分のバッグに封筒をしまった。

「それじゃあ、僕たちはそろそろ帰ります」

「そうですか。今日は本当にありがとうございました」

「百瀬さんにもよろしくお伝えください」

 そうして私たちは百瀬家を後にした。御子柴先輩はメモを眺めながら何かを考えている。

「……ふむ。有賀さんと百瀬の呪われる時期がほとんど一致しているね。同一犯の可能性が高い。保科、もう一個行くべき場所ができた。一緒に来てくれるかい?」

「ええ、構わないですけど。どこへ?」

「保健室さ。彼女の身体に現れている呪いの内容を知りたい」

「なるほど。分かりました」


    *


「すみません。3年3組の御子柴です。どなたかいらっしゃいますでしょうか?」

 保健室の入り口から声をかけると、奥から白衣姿の女性がやって来た。

「はい、どうしたの?」

「百瀬さんのお話を伺いたいと思い来ました。今、保健室に居るのははま先生だけですか?」

「ええ。私だけだけど」

「それは都合がいい。入ってもよろしいですか?」

「いいけど……野次馬気分で来てるなら、帰りなさい」

「その逆です。僕達は解決しに来ました」

「解決って……貴方、百瀬さんが今どういう状況か分かって言ってる?」

 浜先生の語気が強くなり、思わず少し怯んだ。しかし御子柴先輩は相変わらずのトーンと語調で話を続ける。

「ええ。ついさっき、百瀬さん宅にお邪魔して事情も伺いました。僕なら解決できます」

「貴方に出来るわけないでしょう。だって彼女の身体──」

「生理学や生物学上、有り得ないことが起こった。ですよね?」

「……知ってるの?」

 先生は驚きを超えて、少し怖がるような表情を浮かべた。

「はい」

「だったら尚更、私から言うことはないわ」彼女はため息をついた。「私が知っているのは、彼女の左腕や右足が蔦になっている。ただそれだけ」

「蔦ですか」

 なるほど。有賀とまったく同じだ。

「ええ。実際に見せてもらったの。病院に行くべきだって言ったら、『無駄です』って言ってたわ。下手に薬剤を投与して悪影響があっても困るとは思うけど、でもあのままじゃ……」

「無駄だと、彼女は確かにそう言ったんですね?」

 私にも御子柴先輩にも、その言葉に何か引っかかるものがあった。

「ええ。まるで自分に何が起きているか知っているような口調だった。少し引っかかるわよね」

「そうですね。ありがとうございます」

「……あまり深入りはしない方がいいわよ。子どもがどうにか出来る問題じゃない」

「ご忠告感謝します。では」

「あ、ちょっと待って」立ち去ろうとする私と御子柴先輩に、浜先生が声をかけてきた。「もうひとつ思い出したの。彼女の引っかかる言動。『後は確かめるだけ』。そう言ってたわ」

「……ふむ。メモしておきます。それでは」

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