7月25日

第6話

「エリから連絡があったよ。良好な関係を築けているそうじゃないか」

 写真部の部室で、御子柴先輩が少し嬉しそうに話しかけてきた。

「話してみたら、色々と一致することがあって。それで意気投合って感じです」

「そうか。それじゃあ、これからエリの所に訪ねるのを君に任せてもいいかな?」

「ああ、いいですよ」

「ありがとう。それで、今日は君にもう一つお願いがある」

「何です?」

 彼はバッグの中から茶封筒を一つ取り出した。成績通知書のようだ。

「この部の副部長を知っているだろう?」

「え……」

 写真部の副部長の話は、部内ではタブーの話題だ。まさか部長の御子柴先輩からその話が出るとは。

 彼女は不登校になる前、元気で明るい人だった。どんな人にもその砕けた口調で話しかけていて、友人も多かった。

「一応学校には来ているみたいなんだ。保健室登校ってやつだね。だから成績を彼女の家に届けて欲しいって、先生から頼まれてね」

「……本当に私、行かなきゃ駄目ですか?」

「僕の予想だが、彼女の不登校は呪い絡みだ。それに、保科は僕の呪い研究の手伝いをすると言ってくれただろう?」

 それを言われると何も言い返せない。『言葉には責任を持て』。これは昔から母親に教え込まれたことだ。

「分かりました……」

「よし。出発しよう」


    *


 閑静な住宅街だ。鳥のさえずりが聞こえる程度で、人の気配もない。

「まるでゴーストタウンですね……」

「そんなことを言ったら、誰かの恨みを買って呪われるかもしれないよ?」

 御子柴先輩はインターホンを押した。少ししてからはい、という疲れているような返事が聞こえる。

「杉尾崎高校の御子柴です。成績通知書を届けに来ました」

「あ、ありがとうございます。すみません。少しお待ちください」

 女性の声だった。恐らく母親だろう。

 しばらくして、玄関が開き母親が現れた。身なりは整えられているが、目の下の隈やその口調から疲弊していることが容易に読み取れる。

「ああ、すみません。わざわざありがとうございます。ここで立ち話もなんですし、中に入ってどうぞ」

 外の気温は27度。少しずつ蝉が鳴き始める頃だ。私たちはその言葉に甘え、中に入らせてもらった。

「どうぞ座ってください。あとこれ、粗茶ですが」

 粗茶ですが、なんて言われるのは初めてだ。冷たいお茶を飲みながら居間を見渡す。それなりに裕福な家庭であることが見て取れる。

百瀬ももせさんに何があったんですか?」

「ああ、えっと……」

 百瀬先輩の母親は言うのを躊躇ためらっていた。無理もない。不登校の理由なんて言いたくはないだろう。

「朝、急に起きてこなくなったんです。寝坊かと思い部屋のドアをノックしたら『入らないで』って叫ばれて……」

「それはいつの出来事ですか?」

「春休みに入って数日後ですから、多分3月の中旬から下旬辺りだった気がします」

 御子柴先輩は逐一メモをしていた。本当に探偵の調査みたいだ。

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