卒業式の夜。

 学校から帰宅した玉穂達は職場兼自宅へ戻り仕事着に着替え自分たちの仕事を始める。

 常連客達は彼女たちの学校や学年を知っている者が多く、接客をする度に卒業を祝う言葉が鳴りやまなかった。

 それは、ここ数日は変わらないものなのだろうと三人は思った。


 勤務終了後。

 玉穂、伊久実、こむぎの三人は早めに営業を終了したむぎまめ製麵家で行われる三人とその親しい人達との謝恩会が行われる。

 各自持ち寄った食べ物などを集めて行われる。特に飯森食堂の伊久実は食堂でも幅広い料理を取り扱っている。そのため、玉穂やこむぎからも期待があつい。


 むぎまめ製麺家の前に着いた玉穂は出入口を目の前にして、左手で扉を左に引いた。

「ごめんくださ~~い」

「はぁ! 玉ちゃん、いらっしゃい!」

「食後のデザート持ってきたよ」

「ありがとう! あとは伊久実ちゃんを待つだけだね」

「心配ね。伊久実、張り切ってたから」

「たぶん大丈夫だよ。お父さんの車で来るって言ってたから」

 二人は伊久実への期待感が高まっていた。

「あら~~、玉穂ちゃん。いらっしゃ~~い」

「ご無沙汰しております」

 こむぎのお母さんが裏から出てきた。普段は本社で代表取締役社長をしている父の第一秘書をやっている。

 こむぎのお父さんは仕事の為遅れてくるとのことだった。


「は~~、お待たせ~~」

 遅れて伊久実が到着した。両手にはオードブル用の容器にまとめられた料理達が続々と運び込まれた。

「伊久実ちゃん! お疲れ様!」

 こむぎが両手に持っていた料理を運んでいく。

「おおう! あ、むぎ! 刑事さんも来たよ」

 出入口からイケメンの刑事さんが出てきた。

「はぁ! 刑事さん」

 その他にも、都合の合った友人とその家族の数組が来た。


 一同に揃い玉穂達独自の小学校卒業記念の謝恩会が始まった。

 玉穂は中華、洋食、和食と様々な料理がまとめられている卓上に目移りしてしまっている。

「玉~~大丈夫か~~?」

「美味しいものが多すぎて目が痛いよ~~!!」

「それは昼間に玉が号泣していたからだ」

「玉穂ちゃん、卒業おめでとう」

 後ろから声を掛けられたのは伊久実の両親だった。

「ありがとうございます」

「これからも伊久実にビシバシと指導してあげてね」

 働き者の伊久実の母から熱望された。

「はい! もちろんです」

「ちょっとー!」

「でも、こむぎちゃんもこんなに大きくなるだなんてな~~。お父さんもう、死んじゃうのかな~~」

「死ぬなんて冗談はやめてください」

「そうだよ。痛がっても、生かすから……」

「俺みんなに愛されてるな~~」

(何か勘違いをしていないだろうか……)


 参加者の食事が進み、小学校の思い出を語りあいながら会は終わった。


 数か月後。

 進学後も変わらず、玉穂はお店を経営する。

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しらたま物語 -白月玉穂の章- 忽那 和音 @waonkutsuna

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