卒業式当日。

 玉穂はいつも通り身支度を整え、学校へ向かう。

 啓蟄が過ぎ、虫が働き始めた銀月神宮には卒業式前の稲荷餅小学校、中学校の卒業生達が学校へ向かう前に記念写真を撮っていた。

 玉穂の両親は海外へ行ったりと自宅にいないことが多い。今回の卒業式にも来ない。

 事前に友人の伊久実やこむぎの両親に玉穂の写真撮影をお願いしている。


 毎日、一人で小学校へ登校していたこの道も今日で歩くのが最後だと考えるとこれまで卒業という寂しさがさらに上増しされたような締め付けられる気持ちになった。

 十五分ほど歩いて、ついに小学校へ着いてしまった。

(大丈夫。伊久実とこむぎちゃんがいるから……)

 玉穂は学校の敷地へ足を進めた。


 教室には早めに学校へ来た卒業生達がいた。

「お! 玉、おはよう~~。登校しながら泣いてるかと思ったけど安心したよ」

 玉穂よりも先に登校した伊久実がからかいながら挨拶をした。

「そんな恥ずかしいことはしないわよ!」

 玉穂は少々気恥ずかしくなった。

「ごめん、ごめん。でも、私達がいるから今日はお父さん、お母さんがいなくても大丈夫だよ……」

 式典前から泣かせようとしているかのように、伊久美は玉穂の事情を知っている上により安堵した表情を浮かべた。

「ありがとう……、伊久実」

 玉穂も今回ばかりは親友達から助けられることになるだろうと確信した。


 式典の時間となり、卒業生は袴を着た担任を先頭に歩き始める。

「卒業生、入場」

「校歌斉唱」


 泣くはずもなかったのに、六年や三年一緒に過ごした友人達がバラバラの学校になることを考えた玉穂は涙を事前に持ち合わせていたハンカチーフで拭った。

(は~~、歌いながら泣くだなんて……。私らしくないな~~)


「卒業生、退場」

 卒業生は担任を先頭に体育館を後にした。


「あ゙~~、みんなぁ゙~~今までありがとゔ~~ぶえぇ~~!」

 玉穂は共に学校生活を過ごした友人たちの別れを惜しんで、肩を組んでは多くの涙粒が零れ落ちていた。

「この中で一番泣なそうな人が一番泣いてる」

 伊久実は平然とした顔で遠目から様子を見ていた。

「これじゃあ、キャラ崩壊だね」

 こむぎも今日の大仕事が終わったかのような安心した顔で玉穂を見ていた。

 暫く、離れ離れになる友人達との会話を終えた玉穂は遠目で伺っていた伊久実とこむぎのもとへ来た。

「二人とも寂しくないの~~?」

「寂しくない訳ではないけど、みんな私のお店に来たりするからあまり寂しくないな」

 伊久実は楽観的な考えで言った。

「私も~~」

 こむぎも同じような顔をしていた。

「これが甘味処の弱点なのか!」

 玉穂は初めて自分の商売のジャンルのデメリットを感じた。

「まあ、肩を落とさずに。みんなで集まろうって私から呼びかければほとんどは集まるから」

 飯森食堂を中心に小学生時代の旧友達との再会を約束した。


 式典、終業式も終わりクラスごとの記念撮影を終えた卒業生たちは学校を後にした。

「玉、むぎ。また後で!」

「ええ、また行くわ」

「楽しみだね」

 卒業式からの帰宅後も玉穂、伊久実、こむぎ達三人は商いをする。

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