乙女ゲーム開始前だから、父が死ぬ必要ないよね?
兎乃マロン
「マリアン、お気に入りのネックレスが何処か知らないかしら?」
と部屋を漁ってる。シーツが乱れ、それを踏む、そして転ぶ。後頭部を打つ。ありがちな展開のコンボが決まれば、そこにいたのは、私じゃない私。
「痛いし」
と言えば、メイド達が慌てる。扉はバタンと締まり騒ぐ声と共に入ってきた威圧的なオーラに驚いた。
「国軍総団長レッセン様」
と言えば、大変驚いた顔して
「ルーシェ、頭を打ったと聞いたが大丈夫か?」
「大丈夫であります」
と言ってしまった。緊張する目の前に団長が現れるなんて騎士推しとしては、筋肉の凄さに圧倒されながらも逞しい身体に見惚れる。
「これは…、もう少し寝てなさい」
「もう少しお話しをさせてください、あなたは、回想シーンでしか現れない、ほぼ幻のキャラ」
と言えばレッセン様は、片手をおでこに当てて首を振る。
バタンと閉まる扉に切なさを感じる。
「ちょっと待て、幻のキャラ、ここはクリスタルの乙女の世界じゃない…ですか」
うわ、うわーとベッドではしゃぐ私。そのあと気づいた。
「レッセン様が生きてたらって黒騎士様と銀騎士様が言っていた。二人の喧嘩のシーンよ。あそこも男同士の殴り合い葛藤が最高だった。ヒロインちゃん止めるの早すぎるって何度思った事か」
と語りながら、水を飲む。
「生温い、氷が欲しい」
と氷を思い浮かべるとグラスの残った水が凍った。
一瞬の出来事に私も止まった。
何、これ、氷。
魔法、クリスタルの乙女、ゲームのやりすぎで夢を見ているだけよね?
寝よう。
「マジ、私ってば、好きすぎてゲームの中の人になったの?」
と慌て姿見を見る。何度もクリスタルの乙女はクリアしているけど、私を見た事はない。
「美人さんだけどモブってやつか。レッセン様が死んじゃうからか、父が死んで母一人子一人状態でゲームから除外されるってやつか?せっかくなら私も間近でキャラ達を見たい」
ベッドの上で考える。
もし、レッセン様が生きてる世界だったら、キャラが見れる?
それに父だし、死んで欲しくない。
私まだ12才だし、ちゃんとこっちの自分もわかっている。
団長が死ななくても大丈夫よね。
黒騎士様と銀騎士様のどっちがリーダーかの争いが見れなくなるだけで、副団長同士の昔は仲良かった回想シーンを思い浮かべ、鼻から赤いものが垂れた。
「ヤバいヤバい。美しく逞しい男性同士なんて、素晴らしき世界しか広がらないわ」
思いついたまま、足をレッセン団長様、いやお父様の元へ向ける。実はあまり考えて動いてなかった。もちろんこれからの事を深く考えず行動していた。
「お父様、ルーシェです。お時間よろしいですか?」
と少しお願いするかのように話す。
「ルーシェ、起き上がって大丈夫なのか?」
「はい、それよりも大事な事が、オクトス帝国への戦いにお父様行かないでください。約束して下さい」
「何を突然、戦いなどまだ始まってない」
と父は、憮然とした顔で言う。
「はい、北のカンネ山の辺りから山の一部が崩され、カイタ村キイタ村、ケイタ村が占拠され居城を作られます。その技術は謎ですが、我が国は報告が後手に回っていて、オクトス帝国の挙兵に気付くのが遅れ、第一団が偵察のつもりでいったら全滅です。お父様そこに行ってはなりません」
片手で顎を撫でるお父様の腕っぷしの太さに思わず、素敵と言いそうになる。
「どうしてそんな詳しい?」
と父が私の目をじっと見つめる。
「お父様に死んで欲しくなくて」
と答えた。実を言うと時期がわからないのだ。回想シーンが冬着だから冬なのではぐらい。
「何故、突然そんな事を言い出したのかって事だ」
「だからお父様に死んで欲しくないからです。たぶん冬です。ってことは、帝国軍は、秋にカンネ山切り崩しにかかっているのかも。ただいつなのかがわからないけど」
「いやいや、ルーシェ、落ちつきなさい。何故そう思ったのか聞いているのだが?」
と言われ、押し問答が続き、父が頭を抱えた。そして部屋に戻りなさいと言われる。
何があったかわからないが、お父様が消えた。いやどっかに行ったらしい。
「お母様、お父様の肩から腕にかけての筋肉素晴らしいですよね」
「そうなの、ルーシェわかるわね。男らしいでしょう、かっこいいわよね」
と最近筋肉談義と言うか、お父様談義にお母様とお茶をしては花を咲かせている。前の私は、そう言えばお父様をかっこいいとは思っていなかった。
「ルーシェ変わったわね」
「お母様、思春期を抜けたのです」
と偉そうに言った。お母様は笑った。お母様は、元王妃様の護衛騎士。せっかくなら、クリスタルの乙女を私も守ってみたいかなって事でお母様に剣術の指導をお願いしている。
この物語は、何処かの洞窟に閉じ込められている女の子を救い出してから守る物語だ。当然、黒騎士様、銀騎士様、王子に宰相の息子、魔法省の団長の息子、騎士見習いとかが攻略対象だったはずだ。
「お母様、身体動きますね。隙がないです」
攻めどころが見つからない。習い始めじゃ仕方ないかと思うと枝が足に当たった。
「ルーシェ、隙がありすぎだ」
「お父様」
「レッセンおかえりなさい」
「リリーただいま」
とスマートにお母様を抱く。カッコ良し。
「ふっふっふ」
「何を不気味に笑ってるんだ。ルーシェは?いや、それより執務室に来なさい」
と呼び出しをくらった。剣術着から着替えて執務室に入る。
黙っている父。顔が四角だから気づかなかったが、確かに母の言う通り、パーツのひとつひとつは美しい。ただ何かが残念と思うのは何でだろう。ちなみに私は、自分で言うのもなんだがかなりの美人だと思う。まだ12才だからどうなるかわからないが。
なんて考えてたら、いきなり、
「ルーシェ、予知夢を見たんじゃないか?」
と真剣な顔で言われた。
「本当は、あの時、子供の戯言と思って無視しようと思った。でもリリーが一応、北のカンネ山付近の様子を聞いて見たらと言うから、聞いたら、山を崩し始めていたよ。何故村に居城を作るってルーシェが言ったかもわかった。崩した材木、石を利用しようとしていた。魔法省のリルキーと馬を走らせて止めてきたが、確かに冬には攻められるところだったかもしれない。で、その話をリルキーにしたら、予知夢じゃないかと言われた」
「予知夢、ゲームが予知夢。よくわからないですが、お父様がご無事なら大丈夫です」
「大丈夫とかじゃなくて」
「お父様、せっかくご無事なら、私是非、弟が欲しいです」
と言うとお父様は意外に可愛らしく照れる。とりあえず、誤魔化したつもりだ。これ以上変えたら流石に、作者が怒るだろうと。
そして翌年には私に、二人の弟が出来た。とても可愛い。
「お父様、お母様、ありがとうございます。とっても可愛いですね、天使です。我が家に天使が来ました。お父様ますます死ねませんよ」
と冗談を言う。あれから剣術は習っているが、あまり上手くならない。お母様の代わりに剣術指導は、お父様の執事のマークに教わっている。
北には、警備強化として塀を高くしたり国軍の北方支部を設立したらしい。
そう言えば乙女ゲームクリスタルの乙女は、始まっているのかな?
そうだ、私は、モブだけど、攻略対象キャラを見たいと思っての行動じゃないかと思い出した。すっかり天使な弟に心奪われてしまって、黒騎士様と銀騎士様を生拝見していなかった。
夕食時にお父様に、
「私、黒騎士様と銀騎士様にお会いして見たいのですが、お父様連れて行ってくれませんか?」
と言うと、
「誰の事を言ってる?」
とブスっとした態度で言う。お母様が笑いながら、
「ランギス様とロッド様の事でしょう。お茶会でも度々話題に上がるイケメン騎士よね」
「イケメンってなんだ!リリー。噂になっているというより騎士団に御令嬢が多く見学に来ているのは知っていたが、まさかルーシェまで」
と片手で顔を押さえている父。お母様は、
「そうでしょうとも、ルーシェも御令嬢ですからね」
と笑っていう。
「ルーシェ、国軍と騎士団はまた違うからな、確かにその二人は知り合いだ、たまに剣を交えた練習をしている。だが、あの二人は、王宮の警備だ。国軍の報告ぐらいしか会わないから無理だな」
えっ、何て事、国軍と騎士団は違うとな?団長の座を二人は争ってたはず。
「お二人は、副団長ではなくて?」
「去年入った新人、いや二年だから新人じゃないか、確かにいずれはあの二人は副団長に上がってきそうな腕前だな」
ってことは、副団長のお姿より若いまさかの青年期ってやつが見れるのですか?ご馳走さまです。
「お父様、私絶対にお会いしたいです。一言も喋りません。空気に徹します。お願いします。黒騎士様と銀騎士様を一度この目に焼きつけさせてください」
「何、またわからないことを言っている」
遠くから大きな溜息が聞こえたが、そんなの関係ない。まさかゲームの始まる前の状態を見れるなんて、まだあどけなさが残っている黒騎士様と銀騎士様が見れるなんて、ゲームファンに私だけ抜け駆けみたいで悪いなと思いつつ、絶対見る。これ無くしてこの世界に来た意味なしとさえ今は、感じる。
「お父様、私何が何でも騎士団に忍びこんでも見に行きますから」
と謎の脅しとも言える言葉を父に投げた。父の顔がひきつっている。しかし、気にしない。
カメラがあれば良いのに。
遠くからでも写せるもの。
そう言えば、私、氷魔法使えるの言ってなかったなと一年前を思い出す。
氷に念写とか転写出来るかな?
見たものをそのまま氷魔法に鏡のようなイメージをした。丸型のトレイみたいになったが景色が映らない。失敗。トライ&エラーが続く。
あれ以来、たまに自分の飲み物の下の部分を凍らし冷えた飲み物にするっていうことしかやっていなかったし、今は冬だし。実際ほぼ氷魔法を使ってない。
何故か?
必要としていないからかな。それより剣術の方が面白かったから。
才能無しだったが。
しかし今、必要としている。もし溶けない氷が可能ならそこにスチルを貼り付ければ。赤い血が滴る。手で拭い。練習あるのみ。
もうなりふり構っていられない。チャンスは一度きり。
必死になった。人は、必死になれば、知恵が絞り出されることを知った。
私が知恵熱を出す前に私の可愛い天使達が代わりとなって熱を出してしまった。
お母様が珍しく慌てていて、オロオロしてる。
これこそ、姉の出番ね。
「桶に水を入れて、後水袋、綺麗な布」
と注文して、待つ。
桶の水を薄く凍らし、氷のブロックで割る。冷たい水と薄い氷を水袋に入れる。赤ちゃんの頭にはこの水袋でも充分、氷枕になる。
「氷が必要な時は呼んでいつでも作るわ」
と言って、侍女に任せた。お母様は大変驚いていたけど、今は、双子君達の一大事なので、後で話しなさいと言われた。
「やはり、早く言うべきだったか」
翌日、双子君達は熱が下がり一安心したが、私は、両親にこってり絞られた。魔法が使えるとは聞いてないと。だって言ってないのですから。
レッセン団長が威圧のオーラを出しながら、
「何故」
と聞く。当然私は、
「必要ないなと思って」
と答える。
「魔法なんて、私もリリーも使えないよ。確かにお婆様がうちでは使えると聞いているが、ルーシェのように使えるなんて聞いた事がない」
「お父様、私もこれが出来るようになったのは最近です。どうしても黒騎士様と銀騎士様のご尊顔を残す為の修行をしていたのです。天使達の役に立って光栄ですが、あくまで、ご尊顔を氷に焼きつけ絶対零度で凍らす、これが私の今すべき事なのです」
…
「リリー、私は、ルーシェが言っている事が半分もわからないよ」
と頭を抱えている父。母は、
「素晴らしいわ、ルーシェ。やるべきことを見つけてそれに邁進した結果が出ているのね。確かに剣術はいまいちだったけどまさかの魔法。何事にも一生懸命はいいことね」
「ありがとうお母様」
父は、頭を抱えたまま動かなかった。
こうして母公認の練習も始まった。薄い氷に手でカーソルを合わすように範囲指定をし、頭の中で色が変わったらコピーをイメージする。
試行錯誤の末、編み出した技。そして次にその薄い氷を純粋な氷に仕上げるイメージをつくる。不純物を抜く、すると薄いのに割れない強い膜のように覆われた氷写真が出来上がる。
始めは、もって一日。もっと氷魔法の魔力を押し込めると氷写真は、一か月経っても溶けない。こうして我が家には天使達の写真がある。ただ残念ながら白黒だ。まだまだ改良の余地はあるのかもしれない。
私が14才になる前にチャンスが訪れた。まさかの王宮チャンスだ。お父様と一緒に魔法省に行く。やはり黙っている訳にはいかなかったらしい。国軍総団長として、家族として、悩んだと夕食の時に重い話になってしまった。悩ませて申し訳ないと思いつつ、チャンスだと思った。
「お父様必ず、騎士団の見学をさせて下さい。絶対に。私の魔法はこの時のために磨かれたものですから」
お父様がなんか言っているが、父と黒騎士様と銀騎士様を天秤にかけたら、後者に傾くに決まっている。この二年近くレッセン団長を見過ぎた。
騎士推しは変わっていないから父よ。
違うキャラを見たい、それがファン心理だ。
待望の日がやってきた。
ゲームが始まる数年前の姿を見れる。回想シーンも学生の頃があっても良かったのではないからと今思えば、そんな気持ちがある。ただレッセン団長の回想シーンから若い二人の訓練の場面があった気がするが、何にせよ、次の殴り合うシーンが良すぎて、何故かわからないが半裸というサービスショット満載で全ての記憶が飛ぶほど美しかった。
私が頭の中に浸っていると、
「ルーシェ、ルーシェ戻って来なさい」
と言われる。
「お父様」
「ルーシェ鼻血が出てる」
おっ、美しい肉体美を思い出すたびに鼻の方が緩くなる。氷魔法で鼻血を凍結させ、服には付いていない事を確認する。
「ハァーまたくだらない事に魔法を使って」
とおでこを押さえている。
馬車が止まった。
「とうとうご尊顔を見るのね。黒騎士様に銀騎士様」
緊張してきた。
「魔法省に行くついでだから約束もしていないからな、魔法省だぞ。ハァー聞いてないな」
降りた先に王宮。
まさか、これが聖地巡礼っていう奇跡。
私は動けなかった。感動しすぎてだ。
クリスタルの乙女は、王子も攻略対象者なので、王宮もよく出て来てた。
「ふっふふふ」
謎の笑いが込み上げてくる。
なんという事でしょう。
お父様は、私を俵担ぎをして中に入った。
動けない私にはちょうどいい。
みんなが見ているが私も笑いを止められないし、父も大股で移動して行く。
周りの目があるが、気にならないぐらい、感動する。
「お父様凄いですね、これが王宮ですね」
と言ってると前方から
「レッセン」
と呼ぶ声が聞こえる。
「リルキー、これが娘だ」
と私を下す。
「初めまして、レッセン・ゴルドの娘、ルーシェと申します」
と、カーテシーをする。
やるべき時はやるのだ、と父を見る。
見てない。二人で話し始めているし。
まぁ、ここは早く終わらせて騎士団へGOですよ。
「では、行きましょう」
と案内された古びた城。何故かここの建物は、古い。
疑問はあるが、長引かせたくはない。
扉を開けるとまず中央の螺旋階段に大きな木が、そして、ここは、ファンタジーの世界でした。
本が浮かんでます。シャボン玉が飛んでます。くるくる妖精らしきものが飛んでます。めちゃくちゃ早いです。
「レッセン、やはりルーシェ嬢には見えているみたいだよ」
「ふむ」
クリスタルの乙女にこんなシーンあったかな?魔法省の団長の息子が出てくるのは、あったけどこの城は、見たことはない。確か魔法省の息子とは、森がメインの場所で泉だったり木の上だったりしていたような、魔法に興味がなかったからあまり、彼に重きを置かなかった。
「見えてますか?」
とリルキー様は、聞く。
「何をですか?」
と返答する。
「色々です」
「そうですか、色々ですか。お父様はどうですか?」
と父に振る、すると、ギョッとして
「大きな木が見える」
と答えた。するとリルキー様は、大いに笑った。
「ルーシェ嬢、君は、随分賢いね。危険を察知する能力に長けているみたいだな。凄いね、まだ13才だっけ」
と言えば、父が、
「もうじき14になる」
と答えた。
「あの」
と言うと
「面倒くさいと思ったんだろう。早く騎士団に行きたいなって感じか」
とリルキー様は言い当てた。やばい見透かされてる。
「レッセン、ルーシェ嬢は、魔法学園に入るべきだろうな。氷魔法を見なくても魔力の高さはわかるよ」
「そうか」
とお父様が言った。
ま、ほ、う、学園、とは?
クリスタルの乙女は、女の子を守る攻略対象者で学園ものではない。騎士学校があるのは知っている。王子達が通う聖ローズ学園も私も来年受験するつもりだったから知ってる。
始めて聞く名前に驚きを隠せない。
「あぁ、知らないよね。一般募集してないから。選ばれた20から40名ほどの1クラスだけなんだよ。妖精が先生だから見えないと話にならないからね。まぁ、今年から入るクラスにする?15才の子達が多いクラスだけど能力高いから、大丈夫さ。三ヶ月後の9月が入学式だよ」
…展開についていけない。
「考えさせて下さい」
そう言って後にする。
そして本日のメインイベント、騎士団の見学です。
騎士団のイケメン度の高さは、流石乙女ゲームです。レベル高い。
お父様が声をかけた。二人いる。
髪の毛が黒い。銀髪だ。
あー心臓が高鳴る。
「ルーシェ、こっちが、ランギスでロッドだ」
と言った瞬間鼻が熱くなった。ここで倒れたら、クリスタルの乙女のゲームファンに申し訳ない。鼻血を氷結、そしてご尊顔を見させていただく。
私は倒れてもいいかもしれないです、お父様。
不甲斐ない娘ですいません。
と、ふらつく足を踏ん張り、左手と右手に氷魔法を発動し、薄くそして黒騎士様を左手で銀騎士様を右手でカーソルを合わせてコピーすると、一気に魔法の純度を高める。
妖精が集まってこようが関係ない。今は、氷写真を完成させることが重要。
そして、グラっと身体がよろけたところに黒騎士のランギス様に支えてもらう。至近距離の黒騎士様は、毒です。猛毒です。細身に見えて胸板が厚いですお母様。腕の筋肉もかなりあります。
氷結した鼻血を新たな勢いのある鼻血が押し出した。氷結した鼻血は、血の鼻栓になってランギス様に当たり、お父様は、私をまた俵担ぎで慌て帰る。私は、多めに持ってきたハンカチで鼻を押さえ帰って行く。
これが私の推しの騎士様達との初対面。
そして後日、何故か我が国の王子自ら、あの私の傑作、氷写真を持って来てくれた。こちらもイケメンなのだが、ヒロイン王子ルートが強すぎて鼻血までは出なくて、不敬にならずセーフだった。
私は三ヶ月後の魔法学園に入学を決めた。なんと校舎は、あの古びた城だそうだ一応、二年の学園生活、騎士団が見れるじゃないですかと、飛びついてしまった。
リルキー様は、もしかして、そこまで読んでいたのかもしれない。恐ろしい人だ。
こうして私のこっそり覗き見生活!いえ、魔法学園生活が始まる。
若さ溢れる青年期のお二人は、まだ色気というより、やんちゃさがある感じでたまらなくて、氷写真を残すのが私の使命だと思う。
もちろん、ゲームが始まる時には退散して邪魔はしません。
わかっているのは、黒騎士様と銀騎士様が副団長になった時、それまでは、たっぷりファンとして節度を守って活動するので、クリスタルの乙女のファンの皆さん、お許しください。
入学式
こちらの学園、建物が古いお城。
扉を開ければファンタジーの世界です。
王宮の敷地内、騎士団の練習場、同敷地内。
推し、いいえ憧れの黒騎士様と銀騎士様のゲーム前の若い勇姿を見れるとあれば、魔法学園に通います。
初対面は鼻血を噴き出すという令嬢としては、汚点かも知れませんが、関係ありません。私には宝物、氷写真、大大アップのご尊顔を作ることに成功。これを胸に抱きしめて、天に召されても後悔なし。
そして秋開講の魔法学園に今日入学します。
扉を開ければ、別世界。目に追えぬ速さの妖精達がビューンビューン飛んでいる。しかし頭の髪の毛に絡みついて来るのは、面倒だなぁと払いますが、奴等もいたずら好きの血が騒ぐのか逃げるのが上手。
「この、この」
とイライラして髪の毛を氷魔法で凍らすと、同じクラスメートになる学友が
「メデューサだ、氷のメデューサ」
と騒ぎ立てる。魔法省のリルキー様が
「そこうるさいぞ」
と注意された。結局、
「すいません」
と他の学友と共に謝った。
リルキー様は、こちらの校長先生兼教師?で
「今日から二年間君達は、学園の生徒です。校舎が王宮ということもあり、浮足たつ生徒もいるかもしれませんが、しっかり魔法の勉強をしましょう」
と明らかに私を見て言った。
1クラスしかない、学友も23名しかいない。早速自己紹介が始まる。しかし、私はこんな事はどうでもいい。あの初対面鼻血流血の日から、練習し、編み出した魔法。望遠レンズを氷で作ることに成功した。ただこちらもかなり慎重に丁寧に作らねばならない。加えて時間と魔力両方持っていかれるにも関わらず、僅か30分程度しか使用出来ない。少しでも溶けると全く見えない。写真のように半永久凍結が出来ればいいのに圧縮した魔力は、望遠レンズには、まだ出来なかった。どうしても歪みが出来たらレンズにはならないから。この点をこの学園で学びたいと自己紹介で説明した。
しかし皆さん、口を開けてポカーンとして、私に対して拍手ももちろん何も言ってくれない。
寂しい。
オクトス帝国の王子と魔法省長官の息子、ゲーム攻略対象者がいたが、私は、ランギス様とロッド様、黒騎士様と銀騎士様の練習風景を覗き見するという使命の為、話は聞いてない。
「いるのね」
止まりだ。
扉を開け、騎士団の練習場へ向かう。望遠レンズを特製フレームに入れ、探す。
「あの髪色は、銀色が神々しい。あー、ふざけているわ。素敵すぎる、可愛い」
と必死に両手を氷写真の為に動かす。
「はしゃいでるお姿を見れるだけで私は、幸せです」
と目頭が熱くなって、望遠レンズが溶け始めた。
「あーあ、ご本人見たら、感激して五分しか持たないか。氷写真も中途半端だし、残念。もう少し堪えていかねば」
と独り言を言っていると、オクトス帝国の王子、アクテオ様が
「なぁ、ルーシェ嬢の魔力の圧縮や量半端ないな。化け物って言われないか?」
「失礼な、言われた事ありません。この魔法は、全て黒騎士様と銀騎士様の記録として残すべき魔法です」
と言うと、大層驚かれて、アクテオ様は、
「えっ、戦争に使わないのか?」
と言った後に口を押さえた。
「馬鹿なことを言わないでください。私の魔法は、私の好きなものを保存するためのもの」
と言うと下を向いていたアクテオ様を置いて帰る。
今日もいそいそと覗き見準備。
望遠レンズをフレームに装着。
初対面のあの日以降、良い氷写真が出来ない。
見れるのは嬉しいし幸せ。
しかしファン心理としては推しのちょっとした顔も残したい。最近私の魔法に限界、陰りが見える気がする。少しイライラしていた。
「やあ、レッセン団長の」
と言われ、振り向けば推し。
鼻がもちません。最近遠くの観察だったので、まさかの1M圏内は、流血事件ですが、素早く鼻栓を氷で作り、話すことは出来ないが、頷く。
「レッセン団長のご令嬢は魔法学園に通っているの?」
とランギス様に聞かれて頷く。
「もう体調は大丈夫?今日も顔が赤いよ。具合が悪いのかい?」
あぁ、神よ、私に幸福と試練を同時に下さるのですねと軽く召されかけながら、優しいお言葉をいただけば、私の鼻栓はまた無力化をし、地面に血が滴り落ちた。慌てハンカチを当てるが、まさかの黒騎士様にお姫様抱っこをされるとは夢にも思わなかった。
「ランギス、こんな変態助けなくていいぞ。いつも氷魔法でお前達の擬似絵を描くような令嬢だ。放置して良し」
と存在感皆無だった我が国の王子様が言った。
慌て、私も
「大事な近衛騎士様の制服が汚れてしまいます。下ろしてください。馬車が止まっております。一人で行けます」
と言えば、ランギス様は、笑って
「そんなこと気にしないでください」
と言われ私は、気を失いそうになるが、ここで倒れたら更なる迷惑をかける為、気合を入れていた。笑うと八重歯が見える発見と上腕二頭筋の逞しさ、胸筋の硬さと厚さを体験しながら馬車に運びこまれた。
御礼を言い、別れる。
たぶん今日私の命日かもしれない。
気が緩めば、私のワンピースは、前掛のごとく鼻血を浴びていた。
次の日まさか鼻血の出し過ぎで、鼻が痛くて学園を休む事になるとは、お父様も片手で目を隠し、空を仰いだ。
しかし、天使な双子君達と遊べる。良いこともある。そしてお母様には、
「ルーシェ、久しぶりに訓練をするわよ」
「お母様、怖いわ、なんか怒っているのかしら?」
久しぶりの剣術は、身体の動かなさが際立つ。
「ルーシェ。最近魔法ばかり練習して、武術の鍛練を疎かにするから、憧れの人の前で二度も鼻血を出すのです。こういったものは精神力ですわ」
とお母様がドヤ顔でおっしゃる。一理あるかもしれない。望遠レンズに頼り、近くに来た時の対処を想定していない。
「お母様、大変勉強になります。精神力鍛えてみせますわ」
と言えば、お母様も大きく頷き、
「お茶会に参加です」
と言った。
う、ん?
意味があるのか?お茶会と精神力。しかし我慢をするってことなのかもしれない。
「わかりました」
そして数日後、お茶会。
「何故王宮ですか?お母様」
「王妃様のお茶会だからです」
「はい?」
席に座って待っていると
「お待たせしちゃったわね、リリー」
と王妃様が言う。そしてその後ろから王子がいる。
「何故、ここに変態令嬢がいる」
「あっ」
私には王子は見えてなかった。もちろん声も聞こえてない。その後ろに立つ銀騎士様。髪の毛が光を浴びてキラキラしている。
これが精神力を鍛えるってことですね。
「お前、本当に気持ち悪いな。顔は、綺麗なのに」
私は話を聞かず、チラッとみては下を向いたりお茶に目線をやったり、どうにかバレないようにチラ見をすることを心掛ける。
しかし私のファン心理を抑えられない出来事が、起きた。すぐ近くで銀騎士様が、口に手を当てて笑っている。
「何あの可愛い人間は」
と呟き、高魔力の氷写真が左手と右手から繰り出される。表情の切り取りは一瞬。ここを逃したらまた同じ表情はない。
キーンとした張りつめる空気に護衛騎士の皆さんも緊張感を持ってこちらを見たが、この氷写真だけは完璧に仕上げる。そしてあっという間に完成する。
机の上に氷写真を二枚並べる。
それを王妃様とお母様が見に来た。
「素晴らしい出来ね」
と王妃様に感心された。しかし一言ある。
「モデルが最高なんです」
とドヤ顔。王妃様は、
「ロッド、あなたも見てみなさい。素晴らしい出来よ」
何ですと、ご本人に見せる気は、さらさらないのですよ。ガタっと慌てて椅子から離れ、お母様の後ろに隠れた。
「これは擬似絵ですか?凄い似ていますね」
と言った。えっ、声が明るい褒められた?嬉しい。
ガタガタっと音がする机や椅子を見ると、私の氷写真が倒れている。そして顔を、赤くして怒っているレクサス王子。
「変態令嬢の作品がいいわけあるか、気分が悪い。王妃様失礼する」
と消えた。王妃様も仕方ないわねとお茶会はお開きになった。持ってきたハンカチに氷写真を包み、ウキウキで帰る。コレクションが久しぶりに更新された喜びでいっぱいだった。
お母様が何か言っていたが、これを飾る場所のことを考えるだけでいっぱいで聞いてなかった。
学園では、オクトス帝国の王子、アクテオ様の組み立て魔法が中央の木を囲み妖精達仕様のブランコや滑り台など遊具を持ってきた木で作成していた。
「凄い、またファンタジー度が増しましたね。妖精達も喜んでいるみたい」
あの素早い妖精も遊具で遊んでいるようだ。珍しくきちんと認識が出来る。彼こそがゲーム開始前の北のカンネ山の地域に居城を作る予定だったその人だ。彼の魔法と材料が揃えば、城も作れてしまうなと実力は、確かだ。
後ろから拍手が聞こえる。リルキー校長だ。
「良いね。妖精達が喜んでるね。それから明日突然だけど、騎士団と国軍の演習を手伝う事になりました。みんなこれは戦いではなく演習です。有志でいいと言うことなので無理しなくていいからね」
と言った。
ふっ、騎士団と聞いて見に行かないわけがない。
参加の一択。
翌日騎士団の練習場に国軍と騎士団との剣の稽古に始まり、最後共同演習として魔法対策が行われる。
リルキー校長から
「練習だからって気を抜けば怪我をするし、ふざけた人は、罰則を与えます」
とまた私に向かって言う。
校長におふざけメンバーとして、目をつけられている気がする。アクテオ様が、
「氷写真作りたいなら、最初にばんばん打ち込んで、疲れたと言って休憩しながら作ればいい」
と言った。素晴らしい考えである。先陣をきると学友に宣言した。アクテオ様は、クックって笑っていたが、気にしない。
何をしようか。氷魔法を攻撃に使ったことはない。私が出来ること、
「空気中の水を氷に変えよう、初めてやる魔法だし黒騎士様と銀騎士様に当たるとまずいわ」
国軍の方に父の姿を捉えて、
「よし」
と気合いを入れた。突然大きな音がした。リルキー様から合図が出た。
「では、いきます」
手のひらを空に向け、身体を国軍に向け
「とりゃ」
と魔力を放出、するとキラキラと氷の粒が国軍の皆さんに降り注ぐ。
「綺麗」
こちらから見えている分には反射して美しい魔法だった。しかも広範囲、実際には国軍の皆さんは、
「痛、いたっ」
「地味な嫌がらせか、氷の粒がまだらで頭に当たるぞ頭を防御しろ」
とレッセン団長の指揮の下、皆、頭を手で防御していたところに、何人かで水鉄砲のようなものが発射され、身体に直撃をしていた。
「く、くそ、ルーシェめ、騎士団の方には仕掛けず、こっちのみとは卑怯な」
騎士団は、水鉄砲も剣で防いでいた。
どろどろになった練習場は、足場が悪く、アクテオ様は、巨大なプールみたいなものを作り囲ってしまい、演習は終了だ。
「ふっ、とてもいい氷写真が出来上がりました。皆さんの水鉄砲、素晴らしかったです。水を避ける黒騎士様、銀騎士様。水を斬る黒騎士様と銀騎士様。特にこの背中合わせのお二人は、生涯の宝物です」
とコレクションを並べ、まだ脳裏に焼きつくお姿を胸に刻んでいる。
我が家の夕食は、まるで敗戦した空気の重さの父と勝者の笑みの娘だった。
半年も経つと、
学友達とも気軽な関係になり特にアクテオ様は、最初こそ暗く陰険なイメージがありましたが、とてもフランクな青年でした。
「いや、オクトス帝国って魔法使える人間ほとんどいないせいで化け物扱いだったんだよね。王子なのに距離取られて、北の領地を攻めて居城を作れなんて命令されたんだよ。酷いだろう。ここだと魔法も普通だし、妖精達可愛いし幸せだよね」
と遊具を作った功績で妖精達から好かれているアクテオ様。一方私は、髪の毛を悪戯されたり未だ妖精達に揶揄われている。
そして学園は違うのにもう一人の王子がこの辺をウロウロしている。かなり面倒だ、しかし後ろに我が推しの黒騎士様もしくは銀騎士様を連れている。
「こんにちは、レクサス王子、ランギス様」
なんと鼻血も出ずに挨拶が出来るようになりました。
「いやあ、偶然…」
とかなんか言っていたが、アクテオ様が
「おい、ルーシェ、グループ学習だよ」
と呼びに来た。たまにある森での実習は、グループ活動だ。残念ランギス様の笑顔が見れなかった。
「おい、ルーシェ戻って来い、聞いているか?」
学友が呼びかけているのに私の意識は、向こう側。ランギス様が笑わなかった。気になる、何かあったのではないだろうか?推しの一大事に駆けつけず、ファンは名乗れない。
練習場で剣を振るランギス様を見つける。
ファンとしてマナー違反を考えつつも、話しかけていいか迷いながら、
「あのランギス様、体調が悪いのですか?」
と目も合わせられないくせに話しかけた。
「あー、ルーシェ嬢。学園は終わったの?」
「はい」
緊張しすぎて声が震えてくる。
「体調は悪くないよ、心配してくれてありがとう」
と多分笑顔で言ったと思う。これこそ氷写真に残すべきなのに、いつも覗き見の癖がついて対面で写真作りは出来なかった。
「もし悩みなら父に相談したら」
とぼそっと言うと、まさかの採用。
「一緒の馬車に乗せてもらって悪いね」
「とんでもない」
と二重に重ねたハンカチを鼻に押し当てながら、言う。馬車に乗った、同じ空気を吸う、空気を吐く。鼻血が出るに決まっている行為だ。鼻血の栓も二重にはしているが、ランギス様に気を使わしてはならない。窓の外を見る。
無言の馬車なのに、私にはここが花畑にしか思えない。最初に嗅いだ匂いを思い出し、鼻がツンとする。
もう意識が何回飛んだかふわふわして、気づけばベッドにいた。
「やあ、ランギス、君が訪ねてくるなんて珍しいね。まさかうちの娘がまた何かやったか?あの子は、王子殿下も仰っている通り変態なんだ。まだ子供と思って何とか許してくれないか?」
とレッセン団長は頭を下げていた。
「いや、全然遠くから見ているなとは感じてますが、今回は相談がありまして、騎士団長から俺かロッドのどちらか一人を副団長にするとやる気のある方を採用すると言われました。俺自身まだ早いと思うのでロッドをと言ったら、ロッドが殴りかかってきて」
とランギスは身体は大きいのにしょぼんとしたようで、侍女達が軒並み倒れたと聞いた。
「ハァーすまない。うちは変態しかいないのかもしれない。みんな下がれ。ロッドはあくまでも争いたいだけだろう。勝っても負けても。戦いもせずに譲られるのは、面白くないだろう。その気持ちはわかるだろう?」
「もちろんわかります。ただ俺は、後輩への指導が下手で、ロッドを見ていると話し方指導の仕方、接し方に真似出来ない能力を感じていて」
「羨望か。若いなランギス、少し安心した。剣も一流、見た目も騒がれ、俺こそお前ら羨ましいよ。指導をしたいなら、騎士学校の時の教科書見直せ、ついて来いと態度で示すなら絶対負けない剣で圧倒しろ。そしたら指導よりも盗んでやろうとするさ」
とレッセンは豪快に笑った。ランギスも釣られて笑う。何とも単純な解決策だ。
でもこれでいい。
「レッセン団長、やっぱりあなたは最高な人だ」
とランギスは言う。
「そうか?最近娘に負けたけどな」
笑って帰って行ったランギス様を壁の端でしっかり見送る。
「グッジョブ、団長」
後日、騎士団の副団長は、ロッド様が一足先になった。二人が副団長になった時がゲーム開始と思っているので、もしかしてあと僅かで、ファン活動も終わりを告げるのかもしれない。
「こんなこと言っちゃいけないけど、副団長になって欲しくないな」
と練習場を見ながら、呟いた。
「なんで?」
「だって遠い人になってファン活動できないもの」
と答えた。あれ、誰かいったけな?振り向くとランギス様が笑っている。
その笑顔は、卑怯です。
油断した私の鼻は、ツンとした痛みとツッーと流れる血で、ハンカチを出してアタフタした。ランギス様は、
「また鼻血だ、変わってないねルーシェ嬢は。面白いな」
と笑いお腹を押さえている。このお姿を残さねばと、魔力を圧縮し、この光景を残した。その姿を見て、ランギス様は、氷写真を取り上げた。
「何度か見たことはあるが、この短時間でこの圧縮した魔力に氷魔法、凄いな。これが攻撃魔法だったらと考えると恐ろしいな」
「ランギス様を襲いませんよ、絶対に」
と鼻を押さえながら話すが、ランギス様は楽しそうに笑っている。それなら良し。
あっという間に1年以上が経ち、私も新たな魔法を課題として出された。リルキー校長に
「半永久の氷で圧縮した魔力を防御に使えないだろうか?」
試行錯誤、トライアンドエラー、完成まで三か月。やはり必要を感じない為、気合いが入らない。そして朝からウロウロしているレクサス王子。学園を卒業されたそうでずっと王宮で公務をしている。ランギス様、ロッド様は、副団長の内務があるらしく、後ろについているのは、見習い騎士様に変わった。二人で、そろそろクリスタルの乙女探しに行けばいいのにとたまに思う。
黒騎士様と銀騎士様はまだ行って欲しくない。
ここは本当に微妙で、ファン活動を続けたいと推しの幸せを考える。
「ルーシェ、何難しい顔している?」
「アクテオ様!後ろから近づかないでくださいな。防御魔法出すところでした」
「その魔法、いいな。包まれてて、攻めようがない」
私が編み出したかまくら防御。中に圧縮した魔力にふわりとした雪を纏わせ、攻撃の勢いを包み込む。はじめは弾き飛ばそうとイメージしたが割れるのが早く、逆の発想にしたら成功した。一応、私は課題をクリアしたので、試験合格。魔法省に勤務予定者は、職場体験など更に勉強だが、私は?
「ルーシェ、俺と一緒にオクトス帝国に来ないか?」
とアクテオ様にお誘いを受けても、
「無理」
と答える。
「何度も誘っているのに相変わらずつれないな。推しのファン活動もそろそろ終わりだって泣いていたじゃないか」
そう、ついにランギス様も副団長になってしまった。
もちろん氷写真は、飾れないほどある。
どれも宝物だ。
しかしまだ、クリスタルの乙女のもとには行って欲しくない。これは、醜い感情なのか、私は自分勝手だといつも考えてしまう。でも、推しには幸せになって欲しい。
「また難しい顔しているぞ」
とアクテオ様に言われる。
「久しぶりだね、ルーシェ嬢」
「ロッド様。相変わらず銀の髪がお美しい」
と言うと
「困ったね、ランギス」
ともう一人の黒騎士様に振る。
「まだ鼻を押さえなくて大丈夫なのか?いつもなら、この距離でギブアップだろう?ロッド、色気が落ちたんじゃないか?」
いやいや、ここ最近のお二人はやんちゃさが消え、大人ぽさ色気増し増しです。
「本当か?しかしルーシェ嬢は、上着を脱げばイチコロさ、今日も可愛いよ」
「揶揄わないで下さい、私だって慣れはあります」
と言って距離をとる。まずい、想像をしてしまった。鼻栓を瞬時に作る。
一息入れた瞬間、ランギス様が詰め寄り、私の頭に手を置き、ポンポンとそして
「合格おめでとう」
と言った。瞬間、氷結した鼻栓がランギス様の胸に一直線に飛び、鼻血流血事件2が起きた。慌てハンカチを鼻に押し当て、腹を抱えて笑う二人を軽く礼をしてその場を離れようとしたら、
推しにお姫様抱っこをされました。
私、いったい…
起きれば、私の部屋のベッド。鼻は冷やしてある。
全ては、夢。
じゃないのに、胸が心が苦しい。
たくさんある氷写真をアルバムのように見る。
もちろん弟達のもたくさんある。
「卒業アルバム作ろう」
この苦しくなった気持ちから逃げたかった。
魔法学園にはたくさんの氷写真が並んでる。
みんなとの思い出。
そして卒業式に笑顔のみんなの氷写真。
「リルキー校長、複写が出来ないので魔法学園に置いてもいいですか?みんなも思い出したい時にはここに来れば、見れるので」
平和な世の中の為、誰もクリスタルの乙女を探しに行かない。
その人物の存在も知らないし、可哀想だが役割がない。私は、この平和を幸せだと思う。
私も卒業アルバムなんて名目を作って、毎日魔法学園にいたし。
その間に16の誕生日を迎えた。みんなお祝いしてくれた。その日の写真も学園に沢山ある。
あのお姫様抱っこの衝撃から顔を合わせられない。ファンの一線を越えたと皆さんに申し訳ない。
「ルーシェ嬢、卒業おめでとう」
防御の氷魔法発動。
「なんだ?この雪みたいな固まりにルーシェ嬢が中にこもっているよ」
「ランギス、この間の鼻血流血事件がショックで閉じこもっているとか」
「ロッド、笑ってないで、ほら、出ておいで、美味しいお菓子があるよ」
「無理です」
と答える。もう少し私にファン活動の時間を下さい、と心の中で願いながら、お別れだとわかっている。
「じゃあ、帰るよ。ルーシェ嬢、行こうランギス」
「待て、ロッド」
足音が遠ざかる。
「ふぅ〜」
と息を吐くと解除し、後ろから
「捕まえたよ」
と弾力と硬さが豊かな胸筋に頭が当たり、私の肩が押さえられた。
「逃げ出さないようにと」
またお姫様抱っこをされた。
私は顔をあげることは出来ない。
真っ赤なことは自覚している。顔に熱が集中して鼻血が出ない。
「クックッ今日はまだ意識があるね。ルーシェ嬢、そろそろ慣れて欲しいな」
捕まる腕や肩の筋肉の硬さと推しの匂いに酔いそう。
揺れた一瞬、顔を上げ、ばっちり目が合う。
「これは夢。また、夢で会えたら嬉しいな」
目が覚めたら、また私の部屋のベッドだった。
カタッと音がした。
氷写真を持っている、推し。
「妬けるな、ロッドの方が一枚多かったな」
と笑いながら話すランギス様に
「まだ夢の続きですね。ありがとうございます」
と御礼を言った。すると、
「これでも夢かな」
といたずらを企むように小さい八重歯が見えて、額に頬に、鼻にランギス様の唇が降ってきた。
私の中で何かが音を立てた。
キューッ
ベッドに倒れ、意識を失った。
とても幸せな夢を見た。
ありえないくらいのハッピーな夢。空からキラキラに降る雪の結晶に真っ白なドレス、レースのヴェールに手を掛ける手はゴツゴツしている。ヴェールが捲られ目が合えば、私のコレクションより色気が増しに増した、黒髪の騎士様。笑うとまだやんちゃな顔が残っていて、顔が近づいてきて、唇と唇が合わさる。
そして私の推しの黒騎士様は、胸のポケットチーフを私の鼻に押し当てた。
お腹を押さえて笑う推しに、私は、凄く、とっても、大変幸せです。
『ゲームのクリスタルの乙女は、何処かの洞窟に閉じこめられた女の子を探しに行かなきゃ始まらないよ。平和な世界だからまた次の物語かな』
と誰かが言った気がした。
振り返っても誰もいない。
始まるには、私が見つけに行かなきゃ駄目なの?
私の父レッセン団長が死んで北のカンネ山周辺の領地一帯をオクトス帝国に支配されなきゃ、ゲームは始まらないの?
ストーリー変えてごめんなさい。
そんなの考えてませんでした。
ゲームが始まる前の氷写真だけは沢山あります。沢山の宝物があります。職業写真家のようなものですが、私は、この世界に来て、大変幸せです。
〜fin〜
乙女ゲーム開始前だから、父が死ぬ必要ないよね? 兎乃マロン @usaginomaron
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