第2話
何が問題か。
シャンプーにかかる時間も気にならないし、どんな安いシャンプーでも傷みにくいからお金もかからない。
ただ、車に乗った時にシートと背中の間に挟んでしまうと、に咄嗟に首を動かそうとしても、動かないのだ。
乗りこむ際に気をつければいいだけのことだが、トラックドライバーという仕事柄、乗降の頻度も安全確認の頻度も一般人よりずっと多くなるし、時間に余裕がなかったりすると、ついうっかり挟んだまま発車してしまいがちなのだ。
(さすがにそろそろ切るか?でもどんな髪にする?)
ふと思い出したのは数日前にコンビニで見かけた青年だった。
おそらく同年配の彼は焦茶のフワフワ…といえば聞こえがいい,まるでカリフラワーのような髪型だった。
(あんな髪もいいかな…でも俺の髪で、あんな風になるかな?いつものって何年も行ってないけど、美容師さんに聞いてみるかな)
そんなことを考えながら歩いていると、ずっとおとなしく道なりに歩いていたクロが、何に興味を惹かれたのか、道を外れて畔道を進み出した。
散歩を始めた頃に比べると空も白み始め,明るくなってきたので、懐中電灯無しでも歩けるくらいになっていた。
俺は懐中電灯を消してポケットにしまい、クロについて歩いていく。
しばらく進むと、細い水路で田んぼが分断されている場所に着いた。
そのまま左に曲がり、水路に沿って歩く。
クロが足を早め,俺は引っ張られるまま小走りで畔道を進む。
…と、急にクロが右を向いて、そのままピョンと水路を飛び越えた!
予想もしてなかった俺は、引っ張られるまま右に飛び・・・当然のごとく踏切が遅れたせいで、片足が水路にはまった状態で、向かい側の土手に着地する羽目になってしまった。
幸い,咄嗟にリードを手放したおかげで、怪我もなく着地できた。
(あ〜あ。日曜の朝からサイアク)
片足びっしょりな状態で土手を登ると、ケロッとした顔でクロが俺を待っていた。
・・・逃げたりしないのは、こいつのいいとこだよな。
畦道に落ちているリードの取っ手を拾い、クロの頭を撫でながら声をかけた。
「また来週散歩に連れてってやるけど、向かい側の田んぼへのショートカット(近道)は、今回限りにしてくれよ」
了
ショートカット 奈那美 @mike7691
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