10話.[こうして当然だ]

「ど、どうかな?」

「細くてすごいね」

「そ、そっちじゃなくて水着の感想を聞いているんだけど」

「正直、目のやり場に困るぐらいかな」


 その点、姉は普通に服を着てくれているから助かる。

 姉も横松さんと同じであんまり暑いのが得意ではないから同じようにぐったりとしてしまっているのは気になるところではあるけど……。


「麗は力が強かったり細かったりするけど、隠れて筋トレとかしているの?」

「え、お仕事から帰ってきたらだらだらしているのは知っているよね?」

「十七時半には帰ってくることも知っているよ」

「家にいるときだって寝るとき以外はふたりといるんだから不可能だと思うけど」


 麗は自分のお腹に触れながら「そこからするなんて汗もかくから無理だよ」と。

 なるほど、じゃあ結局理由は分からないままか。


「それになんかパワー系だと扱われるのは複雑なんだけど」

「決してそういう風に決めつけているわけではないよ」

「ということで私のお腹を触ってみてよ」


 な、なんでそうなるんだ……。

 ああ、だけど柔らかいだけじゃないことが分かる。

 無駄な脂肪がついていないから元々割れている腹筋が~というやつだろう。

 対するこちらは……、ただのガリガリ野郎というかなんというか。

 こっちこそ時間はあるんだから筋トレをした方がいい気がした。


「羨ましいです、なんであんなに食べているのに太っていないんですか」

「え、それは楓果も同じで――」

「違いますよ! 私なんか食べれば食べるほど酷くなるんですから!」


 同じ性別でも差が出ることは分かっている。

 ただ、僕からしたら細すぎるぐらいだからもっと食べた方がいいとしか言えないけど、こういうことは言わない方がいいということで黙っていた。

 同情とかそういうことではないものの、気にしている人にとってはそれが嬉しくは感じないだろうから。


「泉君は男の子だからもっと食べてもいいぐらいです、ですが、麗さんについてはあれだけ食べているのに本当に許せません」

「えぇ」

「今日から私に合わせてください!」


 麗だけだと可哀想だからこちらも合わせようと決めた。

 女性ふたりとはいってもそこに僕も加われば結構食材を消費することになる。

 僕の方は特になにもなくてだらだらしているだけだからこうして当然だった。


「ごめんなさい……」

「いいよ、家でも話せるからね」


 少ない時間だったけど麗の水着姿も見られてよかった。

 その麗はこちらの腕を掴んで歩いているわけだけど、ちょっと不満だという気持ちが伝わってくるから……。


「麗、今度は麗の行きたいところに付き合うからさ」

「約束だからね?」

「うん、ちゃんと守るよ」


 だから今日は許してほしかった。

 それ以上は表に出すことをやめてくれたからよかった。

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86作品目 Rinora @rianora_

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