09話.[嫌がっていない]

「へえ、そんなことになったのか」

「うん、そうなんだよ」


 今日は横松さんと羽刈君のふたりと海に来ていた。

 ちなみに横松さんは暑さに負けて横でぐったりとしてしまっている。

 水を買ってきて飲ませたから大丈夫だと思うけど、これ以上酷くなりそうだったら運んで帰るつもりでいた。


「結局、受け入れるつもりはあったということなのか?」

「どうだろうね、真っ直ぐありえないって言われたけど……」

「うっわ、俺が楓果さんにそんなことを言われたら寝込む自信しかないぞ……」


 そんなことは言わないから安心していい。

 ただ、少し遠回しに振る可能性もあるからそうならないように願うしかない。

 いまでも普通にふたりきりで出かけたりするけど、姉の方はどういう風に彼を認識しているのか気になるところではあった。

 一緒にいて安心できる存在、信用できる存在、そうであることは共に行動していることから分かってはいるけど、友達のラインを超えようとするのかどうかは……。

 それになにより、麗が特殊なだけで姉だって成人しているわけで。


「ふぅ、やっぱり克服には時間がかかるわね」

「そうだね」


 話は変わるけど、結局一ヶ月近く実家に戻っていても好意は捨てられなかったぐらいだ。

 一度そう決めたからといってなんでもそうできるのであれば苦労はしない。


「だからこれからもふたりには付き合ってほしいの」

「僕でよければ付き合うよ」

「俺も、暇な時間は相変わらず多いからな」


 ちょっと気になってどこまで進んでいるのかを聞いてみたら手を繋ぐことはできているみたいだった。

 それを聞いた瞬間にえ、それ凄くない? と考えてしまった自分がいる。

 だってこれまでは振ったことしか麗経由で聞いたことがなかったからだ。


「無理やりとかじゃないよね?」

「おいおい、そんなことできねえよ」

「だよね、じゃあ姉さん的にも羽刈君はいい存在なのかもね」

「そうだったらいいけどな」

「自信を持っていなければ駄目よ、けれど、過信してもいけないけれどね」


 確かにそうだ、見誤るといいことはなにもない。

 同情で付き合ってくれる人なんてほとんどいないと言ってもいいぐらいだろうし、ちょっと情けなくても基本は受け身でいるぐらいがいいのかもしれない。


「あなたこそ困ったら言いなさい、私や泉君にできることならするから」

「おう、そのときは頼むわ」


 できることなら姉が嫌がっていない限りはなんでもする。

 お世話になっているのもあるからなにか返していきたいんだ。

 上手くできるかどうかは分からないけど、そういう気持ちを忘れたくはなかった。

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