私達が「小説」を書いていた頃。
飯田太朗
楽しいハロウィン
「逆仮装をしよう」
砂漠の使徒さんの提案。私は首を傾げる。
「逆仮装?」
「今日はハロウィンだろ?」
確かに、十月三十一日。
「ハロウィンと言ったら仮装。でも私たちは……」
「日頃から仮装しているようなものですね」
紳士然とした無頼チャイさんがつぶやく。
創作電脳空間「カクヨム」。ここでは作家たちが自分の作品に出てくる人物と同じ能力で生活を営むことができる。当然見た目も作品由来だったり、自分が住んでいるジャンルに合わせた格好であることが多い。
すると近くにいた中村天人さんが、赤いドレスをたなびかせながら手を合わせる。
「で? で? 逆仮装って?」
「リアルと同じ格好をするんだよ」
砂漠の使徒さん。
「で、誰が誰だか当てるの」
「賛、成」
少し離れたところからゆっくり歩いてきたメロウ+さん。水晶玉をフワフワさせながら。
「面白そう。便、乗」
「えー、私も混ぜてー!」
メロウ+さんと一緒に歩いていた結月花さん。銀色の髪から生えた耳をぴょこぴょこ。
「お、面白そうな話してますねー」
少年水兵みたいな、セーラー服姿のアカウントがひょっこり。
「あ、篠騎シオンさん!」
どうやら結月さんの知り合いらしい。
「のえるさーん。何だか面白そうな話してますよー」
「んー?」
ウサギの着ぐるみみたいなアカウント。篠騎さんの知り合いっぽい。
「リアルと同じ格好をして、誰が誰だか当てるゲームをするそうです」
「それって身バレじゃないか? 何だかちょっと……」
「オフ会みたいなものですよ」
砂漠の使徒さん。
「無理に、とは言いませんが、遊びですし」
「ま、楽しそうだしやってみるか」
のえるさん、と呼ばれたウサギのアカウント。
「声は? ボイスチェンジャー?」
「リアルに近い声出している人いますか?」
砂漠さんが訊く。何人か挙手。
「じゃ、一定してこの声で」
砂漠さんがサンプルボイスを出す。甲高い、子供のような声。
「リアルの姿を見せて誰が誰だか当てるゲームです。当てられた人は指名権なし、で」
「呼び方とかで誰が誰だか分かっちゃいそうじゃない?」
結月さんの疑問に、やっぱり砂漠さん。
「基本的にアカウントフルネームで呼びましょう。口調も、リアルの感じにしてくださいよー」
「最後の二人になったらその人たちが勝ちってことね!」
結月さん。ぴょんぴょん跳ねている。
「で? せーの、で変えるの? それだとバレちゃわない?」
私の声にチャイさんが応えた。
「お任せあれ」
チャイさんがカタカタとタイピング。
途端に、サーカスのテントみたいな多角形の箱が現れた。
「フィッティングルームです。変身後、箱を回転させて『どこから誰が出たか』を分からなくします。これなら公正かと」
「なるほど。面白いですねー」
シオンさん。
「じゃあ……」
と、いうことで、箱の中へ。変身。
*
箱がぐるぐる回った後に。フィッティングルームから、それぞれ出てきた。
私はリアルではピンク色の髪の毛をしている。だから結構、派手。服は一応、学校で着ている制服……なんだけど、割と着崩しているから制服っぽくは見えないかも。
さてさて、フィッティングルームから出てきたアカウントたちを見る。
身長の高いサラリーマンみたいなアカウントが一名。ちょっと照れ臭そうにしている。
男性か女性か分からないアカウントが一名。ショート……ともとれるし、ボブとも……少年みたいな、でも少女みたいな見た目だ。
キャリアウーマンみたいなタイトスカート姿のアカウントが一人。小柄だけど、優秀そう。
ロングヘアの女性。きょどきょどしていてちょっと怪しい。
パーカー姿の男子アカウントが二名。一人はウグイス色、一人は濃紺。
優しそうな女性が一名。ふわふわのスカートに桜色のシャツ。
「まずこれが中村天人さんでしょ。分かりやすい」
ウグイス色のパーカーを着た男子が挙動不審なロングヘアの女性を指す。女性が返す。
「えー、何で分かったのぉ」
「『カクヨム』ではっちゃけてる人ほどリアルでは人とのコミュニケーション苦手そう」
ウグイス色のパーカーさん。ロングヘアの女性が指を鳴らす。
「ちぇーっ。一番かよぉ」
真っ赤なドレス姿に戻る。いつもの中村天人さんだ。
「六畳のえるさん、ですね?」
少年のような少女のようなアカウントが背の高いサラリーマンを指す。
「えっ、何で分かった?」
途端に、ウサギの着ぐるみみたいなアカウントに。
「『赤坂の辺りでやさぐれている背の高いサラリーマンがいたら僕です』って随分前につぶやいていたような……」
「それ大分前のだよ。よく覚えてるね……」
「ってことはあなたが篠騎シオンさんね」
優秀なキャリアウーマン姿の女性アカウントが、鋭く少年少女を指差す。
「リアルでも性別不詳な感じなんだ」
「バレましたかー」
少年水兵に戻るアカウント。篠騎シオンさんだ。
「六畳のえるさんについてそこまで詳しい人なんて篠騎シオンさんでしょ」
さてさて消去法。
今現在、中村天人さん、六畳のえるさん、篠騎シオンさんが分かっている。
残りは結月花さん、メロウ+さん、無頼チャイさん、砂漠の使徒さん。そして、私。
「男子のどっちかはどっちかだとして……」結月花さん。
キャリアウーマンが私とふわふわスカートの女性とを見比べる。
「どっちも若く見えるんだよなぁ。どっちがどっちでもおかしくないと言うか……」
「あなたが結月花さん」
濃紺色のパーカーがキャリアウーマンを指差す。
「えっ、何で分かった?」
途端に銀色の髪が美しい人狼の姿に。濃紺パーカーが丁寧に告げる。
「作中のレティリエが頭脳派なので、頭の冴える人ですよね」
「そんなこと言われたら困っちゃうじゃーん」
さて、男女二対二。
私には分かる。消去法的にふわふわスカートがメロウ+さんだ。でもここでメロウ+さんを消すと残った二人に私の正体がバレてしまう。だからここは、慎重に。
「異性が異性を当てるしかないですね」
ウグイス色のパーカー。濃紺パーカーがニヤリと笑う。
「それも、男子か女子か、先に当てられた方が勝ちですね」
向こうは思考タイムに入った。私たちも、考えなきゃ。
私は考える。ウグイスと濃紺、どちらかが砂漠の使徒さんでどちらかが無頼チャイさん。
ふと思いつき、私は濃紺色を指差す。
「あなたは砂漠の使徒さんではありません」
「えっ」ウグイス色が反応する。
してやったり。私はウグイス色を指差す。
これは誰が誰かを当てるゲームだ。そこに来て、「あなたはAではない」と否定形で言われて思わず反応してしまうのは間違いなくAさんだ。シンプルだけど、決まりやすいハッタリ。
「あなたが砂漠の使徒さんです」
「うわー、ブラフかよぉ」
ウグイス色のパーカーがパチン、と指を鳴らして。
猫耳姿の砂漠の使徒さんが現れる。
「必然、あなたが無頼チャイさん」
濃紺色のパーカーが両手を挙げて変身する。紳士然とした、無頼チャイさん。
「さすがですね」
「やったぁ、私達の勝ち? 勝、利」
ふわふわスカートの優しそうな女性がメロウ+さんになる。
私もいつもの姿に戻る。
「脱、帽。道裏さん!」
私達が「小説」を書いていた頃。 飯田太朗 @taroIda
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