ロンドン塔が落ちたら
ロンドン塔にグルードたちがやってきた。
「おつかれー!」
「そっちもな!」
門の前でハイタッチ。グルード以外のみんなも一段落した顔だった。
ダグラスを倒して2つ目の門を突破してからは話が早かった。ホワイトタワーの中にマトモな敵は残っていなかった。片っ端からチェーンソーで斬り殺して、地下の司令部の連中も全滅させた。
散々イヌモドキをけしかけてきた『腕章の少年』は隠し通路から逃げていたけど、メリーさんが追いかけて仕留めてくれた。えらい。今回の戦いのMVPだ。
なので特別にホワイトタワーの玉座に座らせてもらって、冷たいジュースを飲みながらうちわで扇いでもらって女王様気分を楽しんでもらっている。心が広いMI6でよかった。
「先輩!」
今度は雁金がやってきた。
「おう、そっちも無事だったか」
「何言ってるんですか! 先輩、ボロボロじゃないですか!?」
「あー、まあ。またロンギヌスの槍が出てきたからなあ」
「もう……!」
雁金は河童の薬を俺の傷に塗り始めた。心配してくれるのはありがたいけど、ありがたい水のおかげでそんなに痛くはないんだよな。まあ、血はじわじわ流れてるから、ちょっと貧血気味で気分悪いけど、それくらいなら我慢できる。
「我慢できるから大丈夫とか思わないでくださいよ。失血が我慢できなくなったらすぐ死にますから」
「はい……」
心でも読んでるのかお前は。
「大鋸さん」
今度はグリムギルドのリーダー、アネットがやってきた。隣にはトゥルーデもいる。あと、馬に乗った金髪の女もいる。この前俺に殴りかかってきた奴だ。何で偉そうにふんぞり返ってるんだ?
「あなたのお陰で最後の大隊の野望を阻止し、ロンドンを守ることができました。
皆に代わって、お礼申し上げます」
「いや、礼を言われてもな。俺はリーダーを倒しただけで、大変だったのはそっちだろ? 何かメガドラゴンとかもいたじゃないか」
「それでも、日本からわざわざいらっしゃって戦ってくれたことには、感謝の念は尽きません」
「やり返しにきただけなんだけどな。あと、ロンギヌスの槍」
「それは……その、申し訳ありません。結局偽物だったようで」
それなんだよな。本物のロンギヌスの槍ならこの傷が治るんだけど、騎士団長が持ってたのも偽物だった。
「本物はどこにあるんだ? ここのリーダーが持ってるかと思ったんだが」
「持っているとすれば大隊長なのですが……ここにはいなかったのですよね?」
「ああ。腕章の少年と騎士団長だけだ」
ナチスの大ボス、大隊長っていうのがここにはいなかった。これだけ大掛かりな作戦なら出てくるはず、ってアネットは予想してたけど、ハズレた形だ。
予想を外したアネットは、ちょっと表情が険しい。気持ちはわかる。逃がした大隊長がいつかまた襲いかかってくるかもしれないんだから。今回トドメを刺せなかったのは痛い。
「なんだ、貴様。ロンギヌスの槍で傷を負ったのか? まるでフィッシャー・キングだな」
馬に乗った女騎士が偉そうに言ってきた。誰が漁師だ、バカにしてんのか。
「聖杯があれば傷もたちどころに癒えるだろうが……まあ、お前の前には現れないだろうな。あまりにも罪深すぎる」
「バカにしてんのか?」
立ち上がって拳を握る。
「先輩、あんまりケンカ売るのはやめた方がいいかと。アーサー王ですよあの人」
「アーサー王? あの、エクスカリバーの?」
「そう、エクスカリバーの」
思わず見上げる。馬に乗った金髪の騎士がいる。だけど女だ。
「いや、アーサー王って男だろ。何で女なんだ、コスプレか?」
「バカにしてんのか?」
自称アーサー王が拳を握って馬から降りてきた。やんのかこら。
「はいはいはい」
「落ち着いてください、お願いですから」
間に雁金とアケミとアネットとトゥルーデが入って止められた。四人がかりじゃしょうがない。
「ここにいたか!」
そんな風に騒いでいたら、パトリックが駆け寄ってきた。何だか切羽詰まった様子だ。ヤバいことでもあったのか、今更?
そう思っていると、パトリックは自称アーサーに話しかけた。
「王よ、緊急事態です」
「どうした?」
「――アヴァロンに最後の大隊が上陸しています」
「何だと!?」
途端にアーサーの表情が変わった。
「縁もゆかりも無い最後の大隊がどうやってアヴァロンに……? いや、そもそもガウェインに留守を任せたのだぞ! 彼はどうしている!?」
「敵の攻勢を受け、内陸部に後退しました。彼から救援要請が、我々の女王陛下に届いたのです」
「ありえん! ガウェインが負けるなど! 一体何が起こったというのだ!」
「……艦砲射撃です」
「は?」
目を丸くするアーサーに対して、パトリックは厳しい顔で言った。
「戦艦による艦砲射撃です」
――
巡洋戦艦シャルンホルスト。ナチスドイツが大戦中に使った戦艦だ。
昔の戦艦だから、ミサイルじゃなくて強力な大砲を積んでいる。どれくらい強力かというと、直撃したらこのロンドン塔が一発で吹き飛ぶくらいだ。
そんなものが、アーサー王が普段住んでいるアヴァロンって島を攻撃しているらしい。他にも戦車とかUFOとか騎士団とかもいて、島を守っていたアーサー王の円卓の騎士たちは逃げるしかなかったらしい。
ホワイトタワーの広間に集められて、パトリックからそんな話を聞かされたみんなは戸惑っていた。俺だって同じ気持ちだ。さっき全滅させたと思ったのに、まだナチスがいたとか、本当に勘弁してほしい。
話に一区切りがついた後、まずグルードがパトリックに質問した。
「えーと、その、戦艦……? イギリス軍は見つけられなかったのか? レーダーとか何かで」
「……信じられないかもしれないが、これは戦艦の怪異だ。レーダーには反応しない。
それにアヴァロンも異界だから、レーダーは届かない」
戦艦の怪異って、そんなのありか? 幽霊船とか言うならわかるけど、ああいうのって帆船だろ? 今の戦艦とは別物だ。
ナチスの奴ら、とんでもない隠し玉を持ってやがった。もしもあの戦艦がこっちに来てたら、俺たちはなすすべもなく全滅していただろう。『赤い竜』よりヤバい相手だ。来なくてよかった……あれ?
「なあ、その戦艦、どうしてロンドンに来なかったんだ? こっちに来たら負けてただろ俺ら」
「推測でしかないが、ロンドンにいた『腕章の少年』の部隊は囮だった可能性がある」
「囮ィ……!?」
何とか倒したけど割とギリギリだったんだぞ? あれだけの数が囮とか、そんなのアリか!?
「今、MI6の分析班が地下の司令部の資料を調査しているが、アヴァロンを攻めるといった計画はどこにも見当たらないそうだ。
つまり、『腕章の少年』はアヴァロン攻撃を知らなかった可能性が高い。本人が知らない間に囮にされて、そこに我々が注目した隙にナチスの本隊がアヴァロンを攻める。そういう作戦だったのかもしれない」
「それに、私が呼ばれたことも奴らの狙いだったのかもな」
パトリックの言葉をアーサーが引き継ぐ。
「アヴァロンは異界だ。常に出現している訳ではない。狙って上陸するのなら、アヴァロンの護り手である私を意図的に呼び出すしかない」
「できるのか、そんな都合のいいことが?」
「普通は無理だ。だが今回は『赤い竜』の噂があった。最後の大隊が本気でドラゴンを呼び出そうとしていたなら、立ち向かえるのは私しかいない。そう考えた王室に呼ばれて、私はアヴァロンを離れてこの地に来たのだ」
「申し訳ありません。まんまと敵の策に乗せられて……」
「謝る事ではないぞ。事実、あのおぞましい怪物は聖剣を振るうに価する相手だった。私がいなければお前たちは全滅していただろうよ」
アーサーが来たならアヴァロンに攻め込む。アーサーが来なかったらロンドンを沈める。最悪の二段構えだ。
「すみません、私からもひとつ、いいですか?」
そしてアネットが手を挙げた。
「最後の大隊がここまで大掛かりな作戦を立てて狙う、そのアヴァロンという島には一体何があるのですか?」
言われてみればその通りだ。戦艦まで持ち出して攻め込むなんて、どう考えてもただの異界の島じゃない。まさか占領して住むなんて言い出す訳が無いし、何かあるに違いない。
心当たりがあるのか、アーサーは顔をしかめた。
「いろいろあるが……ロンギヌスの槍なんてものを持っている以上、狙いはアレしかないだろう」
「それは?」
「聖杯だ」
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