猿夢 上り線

 雁金、ちょっと相談があるんだが……。

 何、相談されるのは珍しいって? いや、俺もどうかと思うんだが、こういうのはお前の方が詳しいと思ってな。

 どんな話かっていうと、まあ、夢の話だ。ただ、ちょっと冗談とは思えない夢なんだよな。始めから話から聞いてくれ。


 最初に見たのは5日前だ。

 気が付いたら電車に乗ってたんだよ。って言っても、ちゃんとした電車じゃなくて、遊園地にある小さいやつ。先頭には猿の車掌の人形が乗ってて、俺の後ろには10人くらい乗ってた。今から思うと、顔色の悪い大人がお猿さん電車に真顔で乗ってる光景、面白すぎるな。

 電車はホームから出発したばかりだった。すぐにトンネルに入ったな。紫色ぽっい明かりがトンネルの中を怪しく照らしてた。まあ短いトンネルで、すぐに出たんだけど。

 そしたらアナウンスが流れたんだ。


「次は~活けづくり~活けづくりです」

《The next station is Ikedukuri. The doors on the left side will open.》


 は? 活けづくり? 魚の? なんて考えていると、電車が駅に停まった。看板には確かに『活けづくり』って書いてあったよ。次の駅は『えぐりだし』で、前の駅は『油』だったかな。

 どんな駅だよ、って思ってたら、駅から4人の、ぼろきれのような物を纏った小人が出てきたんだ。そいつらはダッシュで電車の1番後ろに座ってた男に群がったんだ。

 物凄い悲鳴だったな。心臓が一瞬止まったと思う。何事かと思ってよく見ると、男は小人たちに刃物で体を切り裂かれてたんだ。本当に『活けづくり』になっちまったんだよ。

 夢とは思えないリアルな臭いがするし、男も耳が痛くなるほどの大声で悲鳴を上げ続けた。小人たちは男の体から次々と内臓がとり出してたよ。

 だけど、俺の真後ろにいた人たちは、後ろで大騒ぎになってるのに無表情で何の反応もしないんだ。後ろの惨劇と乗客の平常心がミスマッチで、気が変になりそうだった。そしたらアナウンスがあった。


「ドアが閉まります、ご注意ください」

《Attention, please.》


 いや、ドアは無いんだけどな。お猿さん電車だから。とにかく車掌がそう言ったら、電車が動き出した。

 それと同時に目が覚めたんだ。アパートの部屋でな。嫌な夢だったけど、朝飯の支度をしてるうちに頭がぼんやりして、忘れちまった。


 その時はそれで終わったんだけど、次の日、また同じ夢を見た。お猿さん電車はもう走っていて、前の日の夢とほとんど同じ光景だった。ただ、ひとつだけ違うところがあって、一番後ろで『活けづくり』にされた男はいなくなってた。代わりに血痕と肉片が座席の上に散らばってた。


「次はえぐり出し~えぐり出しです」

《The next station is Eguridashi. The doors on the left side will open.》


 またアナウンスが流れて、駅についた。『えぐりだし』駅だな。前の駅は『えぐりだし』、次の駅は『吊るし上げ』って、看板に書いてあった。

 今度は2人の小人が現れて、先割れスプーンみたいなで一番後ろにいた女の目をえぐり出し始めた。痛かったんだろうなあ。女が物凄い形相になって、とんでもなくヤバい悲鳴をあげたんだ。眼から眼球が飛び出して、血と汗と、痛みのあまり吐いたんだろうな、ゲロまみれになってた。


「ドアが閉まります、ご注意ください」

《Attention, please.》


 また電車が動き出した。それと同時に夢から覚めた。今度は夢を見たって覚えてて、2日連続で変な夢を見るなんてどんだけ疲れてんだよ、って思った。

 で、一昨日の夢。夢はまた電車が走ってるところから始まった。女はいなくなってたけど、眼球は席の上に残ってた。

 この辺から凄いヤバい夢を見てるって自覚が出てきてな。すぐに目を覚まそうと、頬をつねってみたり、手の甲にしっぺしたんだけど、全然痛くねえの。そうこうしてるうちにアナウンスが流れた。


「次は~吊るし上げ~吊るし上げです」

《The next station is Tsurushiage. The doors on the left side will open.》


 駅につくと、一番後ろのおばあちゃんの体が浮き上がった。首に手をやってバタバタともがいていた。吊るし上げ、ってことなんだろうけど、何に吊るし上げられてるのか見えなかった。そもそも天井なんてない夜空だし。

 おばあちゃんはバタバタしていたけど、やがてぐったりとして動かなくなった。


「ドアが閉まります、ご注意ください」

《Attention, please.》


 例によって電車が動き出し、また目が覚めた。もうはっきり夢の内容は覚えてたな。それに、順番が来たら自分が殺されるってのも予想できた。だけど寝ないわけにもいかないから、脱出方法を考えようとした。

 ただ、その時はすぐに思いつかなかったんだ。まだ後ろには一週間分くらい犠牲予定者がいるし、夢の中であれこれ試しながらやっていこうと思った。


 で、昨日の夢。その考えは甘いってことを思い知らされた。

 夢の中で電車に乗ってるって気付いた俺は、まず電車から飛び降りようとした。ところが降りた途端、周りの茂みから刃物を持った小人がわらわら飛び出してきて追いかけ回された。俺は素手だし、寝る時に着てたパジャマ姿だったから、流石に戦えなくて電車に戻った。電車は降りた所で律儀に待っていてくれて、俺が乗り込むとすぐに発車した。

 せめて武器が欲しいな、って思いながら電車に乗ってたらアナウンスが流れた。


「次は~串刺し~串刺しです」

《The next station is Kushizashi. The doors on the left side will open.》


 そしたらとんでもない事が起こった。駅に着いた瞬間、一番後ろから俺の真後ろまでの客が、全員まとめて鉄の槍で串刺しにされたんだ。打ち切りマンガかよ。

 まだ一週間くらい余裕があると思ってたのに、次は俺が死ぬ番になっちまった。


「ドアが閉まります、ご注意ください」

《Attention, please.》


 それで目が覚めたのが今朝ってわけだ。多分、今夜寝たら俺の番になると思う。

 なあ、こういう夢の攻略法ってないのか? お前、何か知らないか?


 『猿夢』? なんだ、有名な話なのか。だったら解決方法とかも……ない? 夢からすぐ覚めるしかない? そう言われてもな、何やっても覚めなかったし……。

 うん、服がどうしたって? ……ああ、確かにさっき言った通りだが。

 ……ふむ。うん、なるほど。わかった。それで行ってみよう。

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