サンヌキカノ

 一週間くらい前になるが、仕事場の山で猿を見つけた。切り株の上に座ってたんだよ。

 珍しいなって思ってよく見たら、本物の猿じゃなくて、猿と人間の中間くらいの生き物って感じだった。

 オイオイマジかよ妖怪かよ、ってあまりの衝撃に腰が抜けそうになった時、猿と目が合った。猿は少し笑って、足元に何か置きながら喋った。


「サンヌキカノというのが来るから、来たらこれを見せろ。自分で取ったと言えば向こうもくれるから、後は山に埋めてしまえ」


 すると猿は、そのまま素早く森へ逃げていった。

 置いてったものを見てみると、刃が落ちていた。チェーンソーの刃だった。


 よくわからないけど、とりあえず仕事してたら、いつのまにか婆さんが近くに立ってた。

 たまにいるんだよ、山菜採りに迷い込んじゃう人。うちの山は私有地だから追い返すんだけど。

 でもその人は山菜採りって感じじゃなくて、格好も上品な着物だった。


「誰ですか?」


 って聞いたら、


「サンヌキカノと申します」


 だと。

 婆さんはニコニコ笑ってたが、それが逆に怖かった。

 でも、ポケットに入れといた刃を出して見せると、空気が変わった。


「どうしたんですか?」

「取って来たんです」

「本当に?」

「はい」


 それから少し無言だったが、婆さんの顔から笑顔が消えた。

 そして、袖の中から何か出して足元に置いた。

 置く時に中腰くらいに屈んだんだが、そのままの姿勢で、俺の目の前から猛スピードで立ち去っていった。あの、RTAでドアをスキップしてワープするあれみたいだった。

 しばらく呆然とした後、置いてったものを見てみると、やっぱりチェーンソーの刃が1本あった。山を降りて少し先の道端に2本とも埋めた。


 何だったんだろうな、あれ。

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