巨頭オ
1年ぐらい前のことだ。仕事が忙しくなくて少し暇な時に、ふと、ある村の事を思い出した。
それより2,3年前にひとりで旅行した時に行った、小さな旅館のある村だ。
特に何があるわけでもないんだけど、心のこもったもてなしが印象的だった。
で、思い出したらなぜか急に行きたくなって、連休にひとりで車を走らせた。バイクじゃなくて車だ。4WDで山道もラクラクなヤツ。今も乗ってるんだけどいい車なんだよ。
地図とカーナビを頼りに行ったんだけど、途中でナビに道路が表示されなくなった。大丈夫かな、って思ったけど、その辺まで行くと意外と見覚えがあって、なんとなく先に進むことができた。
ただ、村の入り口の看板を見つけた時、あれっ、と思った。
「この先○○km」
前に来た時は、そういう看板だったと思うんだけど、それが違っていた。
「チエンソオ」
看板にはそう書かれていた。
変だなって思ったけど、とりあえず行ってみる事にした。
車で入ってみると村は廃墟になってた。誰もいないし、そこら中に背の高い雑草が生えている。建物には草が巻きついてたし、崩れた家もあった。まるで何十年もほったらかしにされてたみたいだ。
前に来たのは2,3年前。その後すぐに廃村になったとしても、荒れ方が尋常じゃない。大体小さい村って言っても100人ぐらいは住んでたんだ。それがこうなるなんて信じられない。
一番奥まで進んだけど、旅館なんてありそうになかった。一体どうなってんだ、って思ってると、20mくらい先の藪から人影が出てきた。
人かな、って思ったけど違った。頭がやたら大きい。肩幅と同じぐらいある。しかもその頭から回転するチェーンソーの刃が突き出ている。手足は妙に長い。そのくせ、枯れ木みたいに細い。それでもって、肌の色がヤバい。青みがかった灰色。死体より血色が悪い。
え? え? とか思っていると、周りにもおんなじような奴がいっぱい出てきた。
しかもキモい動きで近寄ってきた……。両手をピッタリと足につけ、チェーンソーのついたデカい頭を左右に振りながら迫ってきた。
車から降りないでよかった。
ギアをバックに入れて、アクセルを踏み込んだ。後ろから迫ってきた奴らは急発進した車体に弾き飛ばされた。見た目の割に軽いらしく、車にはあまり衝撃が来なかった。
それからギアをドライブに戻して、思いっきりハンドルを切ってアクセルを踏んだ。車がスピンして、周りに群がってたキモい奴らを弾き飛ばした。何度か回転して、村の出口を向いたところでハンドルを戻した。
どこから湧いて出てきたのか、頭のデカいキモい奴らは道路を埋め尽くすほどいっぱいいた。頭のチェーンソーのエンジン音が車の中にも聞こえてくるぐらいだった。
普通だったらビビッてるところだったんだけど……その時、俺は車に乗っていた。
「どけやゴラァァァッ!!」
思いっきりアクセルを踏み込んだ。俺の車が急発進、出口に向かって猛スピードで走り出した。当然、前にいたチェーンソーの怪物たちは次々と跳ね飛ばされた。バンパーに弾き飛ばされて吹っ飛ぶヤツ。フロントガラスにぶつかってそのまま車の後ろに転がっていくヤツ。タイヤに押し潰されるヤツ。
4WDで良かったよ。普通の車だったらシャフトに死体を巻き込んで止まるか、数に押されてパワー負けしてたからな。
「オオオオアアアアアッ!!」
雄叫びをあげて車をブン回して、キモいヤツらの群れを抜けると、そのままの勢いで山道を駆け抜けた。国道に出てようやく我に返った、後ろを振り返ったけど、もちろんヤツらが追ってきてる訳がなかった。
帰ってから地図を見たけど、数年前に行った村と、その日行った場所は間違っていなかった。
だが、もう一度行こうとは思わない。車の修理費が結構掛かったし……。
……え? 何、看板がどうしたって?
『チエンソオ』じゃなくて、『チエンソ村』の『寸』が消えて『チエンソオ』に見えたのかも?
いや、チエンソ村ってなんだよ……。
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