後編
その日の放課後。
クラスメイトから下世話な気遣いを受けてしまい、ふたりは一緒に下校する。
結局、まだ告白はできていないので、孝志個人はふみの祟りも解けていない。
しかし、期せずしてクラスじゅうに知れ渡るという外堀は埋まったので、ここが格好のチャンスとなるはず――。
全身からそんな意気込みをだだ洩れにさせる彼の様子を察した加奈も、にわかに緊張の面持ちで隣を歩いていく。
まずは軽い雑談から、と孝志は昼間の授業の話題を振った。
「俺が英語で音読を当てられたとぎビクッとしたけど、英語だと喋れるんだね」
「なんでだろうね?『C』とか『K』や『S』の発音だと、別物ってことなのかな?」
「でもクラズの男子に絡まれたとぎは、もう隠しぎれなかったね」
友人から詰問される孝志の姿を思い出し、加奈もくすっと笑う。
普段は学校の最寄り駅から孝志は電車、加奈はバスに乗り替える。
しかし、今日はふたりとも無言の同調で、敢えてのんびりと駅から歩いて帰宅した。
ふと、加奈の歩く先の視界には墓地が目に入った。
「孝志くんが病院に行ってたとき、同じ中学の葉月さんと会ったんだ」
「そうみたいだね……なんかゴメン」
「孝志くんもみどりさわに居た頃にいろいろあったみたいで、今でもすごい心配してたよ。それで……あたしに孝志くんをよろしくって……」
そう言われて、孝志はなんとも苦い表情を浮かべる。
まるで自分の情けなさが極限まで際立ったようなエピソードに感じていた。
「小学校の同じクラスだった女の子、けっこう若いうちに亡くなったんでしょ?」
「それも、ふみか梓が言ってたの? まぁね……」
「ごめんね、孝志くんのその子への気持ちも聞いたの。それにどうせダムに沈むんなら、みどりさわを離れて東京に出てきたって聞いてね」
「そこまで知ってるんだ……」
ばつが悪そうに頭を掻く孝志。
情報源がふみにしても梓にしても、仔細はすべて加奈も把握済みのようであった。
だが、加奈は続けざまに、孝志に向かって首を横に振った。
「でも、あたしは別に生まれた村まで嫌いにならなくてもいいと思うの。思い出って絶対にいいことばっかりじゃないし、そういうものの積み重ねで、逆にいい思い出が大切になってくると思うよ」
「えっ?」
情けない自分を説教されるかと思っていた孝志は、加奈の予想外の反応に口を開けたまま話を聞く。
「あたしは東京生まれだし、親戚も東京だし、お母さんの実家も東京だし、いわゆる田舎ってないから孝志くんみたいな人って憧れちゃうの。もしそこがダムになっても、孝志くんはいつでも見に行けるんだよ? いつでも思い出の場所に帰れるんだから。後でゼッタイ後悔しないように、村の最後、ちゃんと見ないとダメだと思うな」
彼女の素直な意見は、孝志自身がこれまで自分で感じていたものや、梓から慰めに受けたと感じたものとはまったく異なっていた。
梓は同じ境遇として、消えゆく村に想いを馳せながら、新しい道を模索していた。
孝志は辛い過去も思い出もどうせ水に沈むならと、村を離れて東京に逃げてきたはずなのに、いつまでも村の記憶に縛られていた。
だが、加奈は清濁あわせてすべてを受け入れ、大切にしたほうがいいと言う。
心の整理がつかずに、もがいていた彼にとっては想像だにしなかった話だった。
「そっか……俺は村をぎらいにならなくてもいいんだ」
「うん。孝志くんにとって大切なふるさとなんだから」
胸のつかえがとれたように晴れやかな顔になった孝志を見て、加奈も笑顔を浮かべる。
ところが、またも不意に涙が溢れてきた孝志は、焦って目をこする。
「加奈ちゃん、ありがとう……うぅ」
肩を丸めて腕で涙を隠す彼の背中に、加奈はそっと手を伸ばした。
「孝志くんって優しいから、嫌なものを見たらすごく自分が嫌な気持ちになる人だと思うの。でも、孝志くんが悪いんじゃないんだよ。ふるさとがダムに沈んじゃうとか小学校の女の子が亡くなったのだって、葉月さんも同級生の子も、みんな孝志くんと同じようにショックを受けているし、誰も孝志くんを責めないよ」
穏やかな声で語りかけ、こんどは彼の腕に優しく触れる。
孝志も涙を拭きながら、彼女の本質を見抜けずに、女の子と交際すれば祟りが解けるのだろうと、身勝手に振り回していたことを恥じた。
そして、自分の幼さや情けなさや弱さを間近で見聞きしても、なお支えて鼓舞して慰めてくれる。
そんな加奈のことを想うと、孝志は胸の奥に熱くたぎる何かを感じた。
ふみいわく、男の子のエッチな気持ちのドキドキとは違う、純粋な彼女への渇望だった。
男子として常に女の子の前では強くあり、守る存在でいなければいけない――そんな目論見とは真逆になってしまったが、今の彼に迷いはなかった。
涙が一段落した孝志は、努めて元通りの様子で振る舞う。
「加奈ちゃんのおかげで、ぎづいたよ……ずぎだった小学校のあの娘のこと、ダムに沈むこと、俺を勝手に置いてく村が許せなかった。だから俺はもう村での過去を全部リセットずるつもりだったんだ。でも、でぎなかった……その理由がわかったよ」
「それは孝志くんが、ホントにみどりさわのこと嫌いじゃないからだよ」
「うん。俺、やっぱ村が……」
大きく息を吐いた孝志は、潤んだ瞳で幾度も瞬きをしながら青空を見た。
遠く離れていても故郷と繋がるこの空、そして実家や初恋の子の墓まで流れていくかもしれない雲を眺めながら笑みを浮かべる。
そして大切に言葉を紡ぐように続けた。
「みどりさわ村が、すきだ」
まっすぐな笑顔を浮かべる彼に、加奈も静かにうなずいた。
それから孝志は右手を差し出すと、加奈もその手を握り返す。
「だから情けないけど……これからも俺がヘコんでるの気づいたら空気いれて欲しいし、みどりさわの最後も一緒に見てほしいんだ……俺も加奈ちゃんと一緒なら、もっと東京で頑張れる気がする」
勇気を振り絞り想いを伝える彼の言葉を、加奈も鼓動が早まる胸元に手を当てて待っていたが、そこである違和感をおぼえた。
「加奈ちゃん……いや、鈴木加奈さん。どうか俺と……」
「孝志くん、普通に『す』と『き』が言えてる!」
「えっ、ウソっ? すすすすす、きききき、すきすきすき……マジか!」
途端にはしゃぎだす孝志に腕を引っ張られてバランスを崩しながらも、加奈も彼の胸に飛び込んだ。
「よかったね、孝志くん。ホントよかった!」
「マジでよかった!」
遠巻きに自転車のサドルにまたがってふたりを眺める早紀は、オバケ状態になって前かごの上に立ち、小さな両手を重ねたふみに呆れ気味に問いかける。
「つーか、ふみちゃん。あれでいいの? 結局、孝志くんはコクってないんだけど」
「さきねぇちゃんも妹のことを見ててわかるでしょ? あのふたりは、完全にあれでゴールだよ。たかにぃもがんばったよ!」
「なによ……面白いものが見れそうだってわざわざ声をかけてくれたから、あたしは自転車を飛ばしてふみちゃんを回収して、ここまで来たのに……」
「でも、ふたりともあの感じだよ? じゅうぶんでしょ?」
興奮冷めやらぬ様子で、楽しげにひと夏の怪談を振り返るふたりは、手をつないだまま同じ歩調で歩き始めていた。
「あたしもたかにぃが女の子をすきになればゴールと思ってたの。でもたかにぃは、死んじゃってお別れした女の子との思い出や、ダムにしずんじゃう村のこととか、それで東京ににげちゃう自分のことも、いままでずっと『きらい』だったの。それをぜんぶ『すき』にさせてくれたのが、かなねぇちゃんだったね」
「ふーん……ま、いっか。これで大貫家の財産のおこぼれも頂戴できそうだし」
不敵な笑みを浮かべて早紀は自転車のペダルを踏むと、ベルを鳴らしながらわざとふたりがつないだ両手の間をすり抜けようとする。
「うわっ、お姉さんとふみじゃないすか」
「なんでふみちゃんとお姉ちゃんがここにいるの?」
突然にやってきた早紀とふみを見て、孝志たちも驚く。
「やっ、孝志くんと加奈。アツアツで見せつけてくれるじゃないのよ」
「たかにぃとかなねぇちゃん、アツアツ!」
「ふみちゃんが新機軸な恋愛物語の感動のラストを見せてくれるって言うから来たのに、アツアツでラブラブなものしか見れなかったわ。ざんね~ん」
「そうなんすか? またふみが余計な……」
ふと前かごに立っているふみの姿を見て、孝志にある疑問が頭をもたげる。
「おい、ふみはこれで成仏するんじゃなかったか?」
本人も忘れていたようで、ふみは小さな手を叩く。
「そうだった。なんかお空に行かないの。なんでだろ?」
「俺の子孫を見守るためにウチの土蔵に帰るのか?」
すると、早紀は孝志の肩にぐりぐりと人差し指を深く刺していく。
「やっぱ、孝志くんが最後までちゃんとコクらないから、ふみちゃんも成仏できないんじゃないの? あれでオッケーならばジャッジ甘すぎよ」
「いや、あの……じゃあお姉さん、先にふみを俺んちに送ってください。ふたりっきりの時に言います」
「そんじゃ、あとでちゃんと加奈に聞くからね! 嘘つかないでよ!」
孝志から鍵を預かると、彼のアパート方面へと自転車を走らせる早紀を見送りながら、加奈と互いに困惑した顔を見合わせる。
「なんだろ、祟り以外のなにかが、ふみにあるのかな?」
孝志と加奈はアパートの玄関を開ける。
室内で待っていたのは早紀と、まだ姿のあるふみ。
「ちょっと孝志くん、ふみちゃんこのままだよ? ちゃんとコクったの?」
「えぇ、はぁ……まぁ、いちおう……頑張りました」
もじもじと肩を揺する孝志を怪しげに睨み返すが、先程よりも少しだけ妹の雰囲気が違い、わずかに彼に身を寄せているのを見て、早紀もそれ以上の追求はやめて肩をすくめる。
「まさか、ウチのお墓にふみのお骨がないとか、ないよな?」
「それはお兄さまが、ふたつ前のお墓を建て直す時にちゃんとしたんじゃないの? あたしはよくわからないけど」
埋葬された本人に聞いたところでわからないのも、うなずける話だった。
「ふみは、じいちゃんたちの前にも化けて出た時は、ふたりがゴールした後どうしたんだよ?」
「そうきちくんと、はつえちゃんの時は、ふたりが一緒になったら、また姿を消して蔵に戻っただけ」
「じゃあ、ウチの座敷童って言っても、子孫をくっつけて終わりじゃないんだな……しかも蔵に戻ったんだよな」
実家の土蔵の中には、高祖父が妹のために集めた大量の書籍と、ふみが亡くなった際に描いて貰った肖像画くらいだった。
他にふみを今でも大貫の家に縛りつけているものは、なにか。
孝志も夏休みの最初に父と一緒にした、大掃除の様子を思い返す。
「わかった……たぶん、あの中だ」
唐突にふみの小さな両手を握ると、瞳と声に力を込める。
「俺がふみのこと、助けてあげられるかもしれない」
孝志は壁に掛けた、実家から貰った農協のカレンダーを見る。
「つぎの土曜日にウチに行くぞ。今度はふみを縛る祟りを俺が解いてやる」
「たかにぃ、なに? かなねぇちゃんと付き合えたら急にカッコつけ?」
「うっさいよ、子孫からの恩返しってことでいいじゃん」
部外者としての気楽な立場から、表情を明るくした早紀は、皆の肩を叩く。
「ちょっと、面白そうじゃん。あたしも大学まだ休みだし、バイトないから行くわ!」
それを聞いた加奈も姉の腕にすがりつく。
「やめてよ、お姉ちゃん! だったら、あたしも行く!」
改めて孝志はカレンダーを見た。
その土曜日はすぐにやってくる。
そして当日の朝。
孝志とふみは、待ち合わせ場所で鈴木姉妹と合流した。
向かうは群馬県のみどりさわ村。孝志の実家の蔵だ。
ふみは自分の成仏がかかってるとは思えないほど、気楽に遠足気分で歩く。
早紀もまた、面白いものが見られるかと、ふみと同様に呑気に歩いていた。
駅まで向かう道中。
商店街に差し掛かるところを、梓は自転車を押しながら歩いていた。
孝志とふみだけでなく、そのカノジョと年上のお姉さんが一緒にいる光景を見て、姿を消すようにこそこそと歩く。
だが、ふみは梓の存在に気づいた。
「あずねぇちゃん! おはよう!」
梓は肩をびくっと震わせるとそっぽを向き他人のフリをするが、孝志も加奈たちの手前ではあるものの、彼女もこの騒動の当事者のひとりとして、無視はできなかった。
「おい、梓。これからふみとお別れするかもしれないんだ。すぐに荷物まとめて、みどりさわに来いよ」
相変わらず鈍感で女心のわからない無神経な同窓生に、梓も顔を赤くして口元を震わせるが、孝志も加奈も黙ってうなずいていた。
「ちょ……十分だけちょうだい! すぐ叔母さんに伝えてくるから!」
梓は大慌てで自転車を漕ぎ、視界から消えていった。
それを見ていた早紀は、孝志の耳を強く引っ張る。
「いててっ!」
「なに? 加奈やあたしの他に、あの子もカノジョ候補だったっていう地元の子?」
「えっ? ちょっと、お姉ちゃんも候補って……孝志くん、それどういう意味!」
早紀を火種とした思わぬ修羅場の発生に、彼も恐縮しきりで事情を説明するが、ふみの手前、ここは加奈と付き合えたという事実をもって手打ちとなった。
やがて、簡単に荷物をまとめた梓が駆け寄ってくる。
「ねぇ孝志、ふみちゃんとのお別れってどういうこと?」
「うちの座敷童は、ダムより前に消えちゃうかもってことだよ」
都心から列車を乗り継ぐと、次第に車窓は緑に囲まれていく。
孝志自身も予想もしていなかった、三度目の帰省だった。
あんなに嫌で抜け出したみどりさわ村に、ひと夏で三回も戻ることになるとは皮肉なことだったが、今の彼はふみのおかげで戻れたことに、むしろ感謝をしていた。
列車を降りると、孝志は幽体に戻ったふみを肩車しながら急峻な坂を登り、自宅へと向かう。
突然に連絡もなく、自宅に息子と葉月さんの娘、さらには盆に泊まった東京の知り合いの女の子が大挙してやってきたことに、驚く母と祖母。
「どうしたの、孝志? 急に戻ってきたりして。それに皆さんもご一緒にお連れして」
「ばあちゃん、蔵の鍵と金庫の鍵をちょうだい。あと、ちっと一緒に蔵に来てよ」
祖母も含めた五人で見守るなか、孝志はかんぬきを引いて重たい扉を開ける。
蔵の中へと入っていくと、高祖父の厳命によって開かずの扉となっていた、大きな金庫の前に立つ。
「ばあちゃんさ。これ、最近開けたのっていつ頃?」
「さぁね。ひいひいおじいさんも、とにかくここは開けるなって話だったからね。大貫の家に蔵を建ててからずっとかもしれないね」
「これ、俺が開けていい? その……座敷童の由来がここにある気がする」
「どうせ、ダムに沈む前には片づけるんだ。孝志がいま開けてもいいよ」
金庫と呼ぶには大仰なサイズの鍵を差し込み回すと、にぶい手ごたえとともにガチッと低く鳴る音がした。
孝志は金庫の扉をゆっくりと開く。
いくつかの古ぼけた紙の写本や巻物と一緒に、小さな位牌が置いてあった。
わずかにホコリをまとった、百有余年を金庫の中で過ごした木製の位牌をそっと取り出すと、優しく撫でる。
『優徳清文童女 明治四十年二月七日没』
孝志は慎重に位牌を返して、裏側を見る。
『俗名 ふみ』
それを見た祖母も驚いた様子で、位牌を撫でた。
「妹さんのご遺骨はお墓に一緒だって聞いてたけど、お位牌が無いってのが心配だったんだよ……まさかこんなところにあるとはねぇ」
「たぶんだけど……ひいひいじいちゃんがふみにずっとそばにいて、見守って欲しいって置いてたと思うんだよ……それで、そのままになっちゃったんだろうね」
自分の位牌を眺めるふみは、今までの幼子からすっかり老成して、落ち着き払っていた。
孝志は夏休みに一度見たふみの肖像画も蔵から出す。
そこに描かれた幼女は、まだ眠るように瞼を閉じていた。
「この位牌と絵は、ちゃんと仏間に供えてやるからな」
突然に誰もいない足元に向かってひとり言を喋る孫の姿を見て、祖母も主人と一緒になる前の頃の騒動を思い返し、優しげに見守る。
皆で仏間に移動すると、仏壇にふみの位牌を供え、肖像画を先祖の遺影の横に並べた。
孝志は線香を焚き、手を合わせる。
ふみも、孝志の隣に座って両手を重ねた。
途端にふみの姿は眩く輝き出し、淡い光の粒がその陰影を霞ませていく。
「ふみちゃんっ!」
それを見た鈴木姉妹や梓も、膝を立てて彼女のそばに駆け寄る。
何が起きたかはわからないが、突然に周囲が神々しく輝き出して、若者たちが慌てだす様を見た祖母も驚いたように室内を見回す。
「あぁ、たかにぃ。どうしよ。これでホントに終わりみたいだね」
孝志は急に不甲斐なく涙を浮かべると、ふみの小さな肩を抱く。
「……やっぱ行くなよっ! 俺のご先祖だろ、ずっと俺のこと見ててくれよ!」
「成仏させてやるって言ったり、行くなって言ったり、たかにぃは優柔不断! 女の子のことを心配させるのはダメな男なんだからねっ!」
「ふみ……ふみ、俺は……」
ふみは呆れたようにくすっと笑うと、孝志の頭を撫でる。
「こんな明治よりもずっとあとの時代に成仏させられても、今からあっちに行ってもお兄様も葉月さんの男の子もいないし、みんなより後輩だし、あたしだって大変なんだからね。だから、たかにぃもみどりさわ村が無くなっても、あたしがいなくなっても、これからも大貫のおうちのためにがんばってね」
「待ってくれよ、ふみ……ふみぃ……」
孝志が腕に抱いていた彼女の感触は次第に無くなり、その小さな光の粒は空に向かって昇っていった。
両目からとめどなく涙を流す孝志は、仏間の天井をぼんやりと眺める。
それを見守っていた加奈や梓も、彼の涙を見てもらい泣きをせずにはいられなかった。
祖母は、若者たちを置いて静かに仏間を離れる。
部屋を立ち去る前に、並べて掲げたふみの肖像画の遺影をちらと見ると、その瞼は開き、瞳を見せてにっこりと笑っていた。
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