5.現代の防具は異世界でも通用するのか?

 健吾けんごの鬼ツブヤイッターですっかり目が覚めたから、そのまま朝食をとる事にした。

 カップラーメンだけど。


「あー、なんだろうこの感じ、俺が大学に入って一人暮らしをしたら、毎日カップラーメンばっかりな予感がするな」


 それか外食ばっかりになるか。

 牛丼! コンビニ弁当! ファミレス!

 いやファミレスはいかないな、知り合いと一緒にならいけるけど。

 

「よし! 腹も膨れたし、そろそろ周囲の探索をす……る前に、陽菜ひなに防具を揃えろって言われてたんだったな」


 ツブヤイッターを読み返して、陽菜ひなが送ってくれたリンク先を確認する。

 えーっと、防刃ぼうじんベスト&防刃長袖シャツ&衝撃吸収防刃手袋?

 まるで防弾チョッキみたいなベストと、鎖帷子くさりかたびらみたいなシャツ、妙にいかつい手袋の写真が載っていた。

 

「……は? これって日本だよな? 日本語だからそうだと思うけど、こんなの売ってんの??」


 他のリンクを見てみると、薪割まきわり用斧、タクティカルスピア、マグロ包丁、ヘルメット、バイク用プロテクター等々、単体としてなら知っていても、それらが勢ぞろいしたら異様な雰囲気をかもし出していた。


「あ、一応双眼鏡とか救急セットとか、普通に使えそうな物もあるな。それにしても陽菜ひな、お前は異世界に適応しすぎじゃないか?」


 とはいえ昨晩みたいに刃物? を持った相手に襲われるかもしれないし、鋭い牙や爪を持った相手に襲われるかもしれない。

 そういう時には非常に助かる装備だ。


「あ、しかも全部がそれほど高価じゃない。これなら全部買っても良さそうだ」


 俺はポチリまくった。それはもう指が痛くなるほどに沢山。

 そして出来上がった姿が……怪しかった。


 オフロードバイクのアゴが出っ張ったヘルメット、黒い防刃ベスト、チャラチャラうるさい鎖帷子くさりかたびら、腕と膝にはステンレスが使われたバイク用プロテクター、妙にゴツイが蛍光カラーの手袋、バイク用のズボンタイプのプロテクター。

 両手には斧と槍、腰にはマグロ包丁。


「統一感が皆無! これで日本を歩いたら百パーセント通報されるな!」


 それにしてもマグロ包丁って、これ日本刀じゃないのか?

 ゴエモンが使ってた鉄を斬る日本刀みたいだな。

 よし、この姿をあいつ等にも見せてやろう。


 ポンポン


『ぶっはwww お前は時代錯誤の原住民か!』

耕二こうじ君……ぷっ、やめて、お腹……お腹が』


 ツブヤイッターには怪しい恰好をした俺が、がに股で両手を上げて斧と槍を交差させた自撮り写真を上げた。

 ウケてるウケてる、よし、プロフィールのアイコンをこれにしよう。

 さて装備も整った(?)事だし、周辺の調査をするとするか!


 テントを張った場所を中心に、俺は一キロメートルほどを歩いて回る。

 双眼鏡で遠くを見ても、木しか見えない。

 せめて川とかないかな、そうしたら上るか下るかしたら街があるかもしれないのに。


「いや待てよ、ここの文明はどんな感じなんだ? 近代的な世界だったら川があっても無くても意味ないのか? せめて中世とか江戸時代とか、その付近なら川を中心に栄えてるはずなんだけど……」


 逆に原始時代とかだったらどうしよう……

 しばらく歩いていると何もなく、流石に疲れて来たから適当な倒木に腰を下ろした。


「何にもないな、双眼鏡で遠くを見ようにも木が邪魔で見えないし、高い場所に行こうにも山らしき物も見当たらない」


 ヘルメットを脱いで水筒の水を飲む。

 五百ミリリットルの水筒と携帯食料は持ってきたけど、この分だと一度戻って更に遠くを調査する装備にしないと、人里は見つけられそうにない。

 いや頼むからさ、出来れば意思の疎通ができる人類が居てくれ。


 ヘルメットをかぶり、もう少しだけ周囲を探そうと立ち上がる。

 だが俺は、何故か木に叩きつけられていた。

 ……え、なんで俺、木に寄りかかってんの? えと、あ、あれ? 足に力が入らない、立って……いられない……頭がぐわんぐわんする……耳がキーンとする。


 ぼやけて焦点の合わない俺の目に、大きなゴリラが映し出される。

 ゴリラ……でっか……何メートルあるんだよ。

 両手を地面に付けているのに、腕だけで三メートルはありそうだ。

 二本足で立ったら何メートルあるんだろう。


 意識が朦朧もうろうとする中で、俺は何を考えているんだろう。

 きっとコレはピンチだ、早く逃げないと……足に力が入らない、まだ目の焦点も合わない、必死に立とうとするけど……転んでしまった。


 くそう、異世界に連れて来られて、二日目で終わりかよ。

 あのへんな奴の実験に付き合わされて、なんでこんな所でこんな目に……!

 ゴリラが腕を振り上げた。

 マジかよ……誰でもいいから助けてくれ。


 ゴリラの腕が、俺の頭上から振り下ろされた。

 陽菜ひな健吾けんご、ワリ、終わったわ。


 俺は目を閉じて、最後の時を迎えた。

 ……、…………、…………?

 あれ? まだ意識がある。

 まさかもうあの世か?


 目を開けると、目の前ではゴリラと犬が戦っていた。

 犬、と言っても二本足で立っているし、よく見たら猫もいる。

 何匹もの犬と猫が、ゴリラと戦っている。

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