プロット1
不死裂@秦乖
第1話 プロット1 (何箇所か訂正する可能性あり)
“奴ら”が現れてから約2年が経過した。最初に現れたのは、アメリカのニューヨーク。最初はUFOなどと騒がれていたが、そんなうわついた空気も束の間。”奴ら”の陸軍であろう軍がアメリカに侵攻を始めたのだ。
無論、アメリカ政府は迅速かつ丁寧な対応をした。が、”奴ら”には今までの対人戦闘が通じるわけがなく、僅か3ヶ月で無惨にも敗退することとなる。
この時のアメリカ合衆国の死者数は、3億人以上と報道されていた。
アメリカ合衆国を占領した”奴ら”は次に、南アメリカ大陸及びヨーロッパに侵攻を開始。各国が同盟を結び、完全抵抗をしたが約半年で完敗。ヨーロッパは完全に奴らの手の中に収められた。
ヨーロッパが陥落した時と同時期にロシアが大量の核爆弾を”奴ら”に向けて発射。その数20発。ヨーロッパの7割が海に沈むという被害を出したが、それでも削れた戦力は6割ほど。この時、イギリスは完全に沈んでしまった。
そして核爆弾が彼らの逆鱗に触れたのだろう。過去のドイツとは比べ物にならないスピードで急速にロシアを飲み込んでいった。
そこからはあっけなかった。
“奴ら”の別働隊がオセアニア州から急速に侵攻。東南アジアからアフリカ大陸まで一気に飲み込んでしまった。
総死者68億人。
現状、残っているのは日本国のみ。
そんな中、日本のある地下研究所が”奴ら”に対抗できるかもしれない大きな発見をしていた……
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主人公、夏目空我(なつめくうが)一等陸曹は広島県呉市にある、何故か地下研究所「WUAO 世界未知ウイルス対策機構」にて待機していた。
今の敵は未確認生命体であって、ウイルスではないと言うのに。
夏目一等陸曹は研修隊員時代、スナイパー訓練及び射撃訓練にて10発中10発命中と、百発百中の成績で最優秀賞を収めている。また、剣術にも心得があり天然理心流をオリジナルに改変した技を持っているという。
夏目一等陸曹は後藤陸士長の伝達により、参謀本部にいる斎藤一等陸佐のもとに赴くことになる。
斎藤一等陸佐は色黒で筋肉質。その上性格は冷酷という人物だ。その見た目と性格から、「自衛隊の鬼人」とも呼ばれていた。
斎藤一等陸佐はアメリカ襲撃の時、派遣された自衛隊員の中で唯一生き残った人間だった。
倒した未確認生命体は完全に沈黙が20体。重傷が5体という戦績だ。
これは、自衛隊員の誰よりも良い成績で、陸将補に昇進になるかもしれないと言う噂が飛び交っていた。
斎藤一等陸佐はレポートを見せる。
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レポート 未確認生命体の弱点について。
先日、我々はロシアの海上で死んだであろう未確認生命体の死体を3体回収に成功。
基地に持ち帰り、そのうちの1体を解剖をした。
その結果、わかったことがいくつかある。
一つは、彼らの臓器が私たち人間の臓器と類似していたことである。
彼らの臓器には人間が持っている、胃、腸、心臓、肺、肝臓などほぼ一致していた。が、膀胱や性器はなく、排泄物の処理の仕方については未だ不明。
二つ目は、人間で言う喉に部分になんらかの臓器があることが判明。
魂を保管する臓器だと、我々は推測している。
これが本当に魂を保管するものであるとするならば、自衛隊もだいぶ戦闘がしやすくなる。
三つ目は、皮膚について。
皮膚は硬く、普通のメスでは斬るのに時間がかかった。
そんな中、一つ大きな発見があった。夏目一等陸曹のが所持している刀を拝借し、試してみたところ。スルスルと切れていったのだ。
後の実験で分かったことだが、夏目一等陸曹の刀の刃の粒子は特別なものであることが発覚。
奇跡的に未確認生命体の皮膚との相性が良かったのだ。
以上3点が今回わかったことである。
喉を狙い、攻撃ができればおそらくだが未確認生命体は生命活動を停止するだろう。
今後、残り2体の解剖も進めていく予定である。
呉地下研究施設 鳥宮 海
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斎藤一等陸佐の話の内容は
「未確認生命体の弱点が分かったかもしれない。射撃が優秀な夏目一等陸曹をはじめとする80名で今日付けで新しい部隊を作成。及び同部隊の隊長に任命する。最初の作戦は最前線の朝鮮半島で行われる。開始は三週間後。」
と言うことだった。
夏目一等陸曹はこれを承諾し、参謀本部を後にした。
今、夏目一等陸曹がいる地下研究施設は第二次世界大戦の最中、日本陸軍が密かに特攻兵器や新型の銃の開発と特殊部隊の訓練用として用いられていた。
地下8階建で部屋はコンクリートで囲まれている。
その中でも、特殊部隊「エ−120」部隊は日本陸軍史上最高の部隊とされていた。
各地で優秀な戦績を残した70名より編成されていたが、本格的な実用の前に終戦してしまっったために「エ–120」部隊は歴史の表舞台に立つことはなく解散してしまった。
また、開発部門では戦艦に搭載する新型の対空砲を大量生産するということもしていた。が、これも「エ–120」部隊と同様に、本格的な運用はせずに使われることはなかった。
作戦本部を後にし、夏目一等陸曹は自室へと戻って行った。
自室に戻り、一晩を過ごした後、射撃訓練場に招集される。
スナイパーライフルを持ってこいとのことだった。
愛用のスナイパーライフルを担いで夏目一等陸曹は地下4階にある射撃訓練場へ向かった。
重い鉄の扉を開けて、中に入ると精鋭メンバー80人が既に整列した状態で待機していた。
斎藤一等陸佐が前で静かにメンバーを見つめていた。
夏目一等陸曹も隣に並び、挨拶をする。
その後各自スナイプ訓練に入る。
そこで他の隊員よりずば抜けて精度が高い隊員がいる。同期の佐藤真美(さとうまみ)一等陸曹である。
彼女は模擬人形の喉を綺麗に貫いていた。
佐藤一等陸曹は夏目一等陸曹と同時期に自衛隊へ入隊する。彼女は夏目以上にスナイプが正確で、なおかつ早いのが特徴だ。彼女の母親は彼女が産まれたときに亡くなっている。父子家庭で佐藤一等陸曹は育った。その父もまた自衛隊員だった。
しかし、アメリカ襲撃の時彼女の父親も未確認生命体との戦闘によって彼女の父親は死んでしまっていた。
スナイプ訓練が終わった後、夏目一等陸曹は佐藤一等陸曹に声をかける。
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スナイプ訓練から三日。新しい情報が入る。
朝鮮半島に派遣されていた、部隊が壊滅したとのことだった。
今の日本は、朝鮮半島でなんとか未確認生命体の進軍を止めているという形だった。が、今の情報を受けて一気に形成が変わった。
早く止めに行かないと、未確認生命体の軍が日本本土に流れ込んでくる。
参謀本部では、緊急対策会議が開かれていた。
山本二等陸佐やその他多くの上層部のメンバーが会議をしている。
緊急作戦会議の結果、予定より早く夏目一等陸曹の部隊を朝鮮半島に派遣することが決まった。3日後、夏目一等陸曹の部隊は日本から朝鮮半島へ移動。その後、現地でアサルトライフルとスナイパーライフルを支給した後、作戦を開始すると言う流れだ。
緊急作戦会議が終わった後、夏目一等陸曹の部隊のメンバーは参謀本部に招集された。
夏目一等陸曹たちに作戦の内容が告げられる。この作戦に隊のメンバー全員が賛成。部隊が結成されてから僅か一週間も経たずして夏目一等陸曹の部隊は戦闘に繰り出されることとなった。
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夏目一等陸曹らが朝鮮半島に上陸したのは、あれから三日後の話。
現地にある走行車両に乗り、作戦本部まで移動する。
周りには瓦礫の山が広がり、パンフレットで見るような近代的な建物は全く存在していない。
これが未確認生命体の攻撃の後である。
斎藤一等陸佐の証言によると、奴らの攻撃の仕方はレーザー銃を用いているらしい。そして、そのレーザー銃に攻撃されたものは、焼け焦げて跡形もなく消えてしまうという。ドックタグですら残らないらしい。
だから、正確な死者数までは出せないとのことだ。斎藤一等陸佐は近くにあった奇跡的に壊れていなかったボートに乗り、日本へと帰ってきた。仲間を見捨て、自分だけ帰ってきた斎藤一等陸佐に対して一部の隊員からは「臆病者」とも呼ばれている。
作戦本部に着くと、そこには疲弊した兵たちの姿があった。
壊滅とは聞いていたが実際にそうで、約10万人の兵士が朝鮮半島に向かったが、今確認できる兵士は100人弱といったところだろうか。殆どの兵士は敵の武器によってチリになってしまっていたらしい。周りには焼け焦げた匂いが立ち込めていた。
しかも、生き残っている兵士も殆ど戦闘不能な状態になっている。それは、身体的な問題ではなく、精神的な問題からだ。多すぎる死を目の当たりにしてきたため、精神的にまいってしまっているものが殆どだった。
夏目一等陸曹達は作戦本部にて銃器が受け渡される。
作戦開始は3時間後。最初の作戦は、朝鮮半島最南端の釜山より北上し、未確認生命体の弱点を確定させることだった。
夏目一等陸曹達は最後の休憩を取る。各々カンパンや缶詰めなどを食べていた。
最後の休憩を終え夏目一等陸曹の部隊、通称「神風」は進軍を開始した。
神風は、釜山から徒歩で北上して30分ほど経った後、異変が生じる。今までずっと瓦礫の山しかなかった中に、急に謎の建築物が聳え立っていた。
足を止めて、双眼鏡を覗く。すると、建築物の周りに未確認生命体の陸軍が見張りを行なっていた。
神風は、スナイパーライフルを構える。夏目一等陸曹が合図を出し、一斉に敵の首筋を目掛けて発射する。80人中、68人が命中。中には少し掠っただけのものもいたが、それでも敵は生命活動を停止した。
その後、神風は15分ほど交戦したのちに再び装甲車に乗って作戦本部に帰還。神風の初陣は、死者ゼロ、170撃破と言う好戦績を収めた。
その後、夏目一等陸曹は作戦本部に結果を通達。敵は首筋の器官を少しでも破壊されると、生命活動を停止すると言うことが判明した。
ここで、形勢は一気に逆転する。
日本政府は自衛隊から日本軍へ名称を変えた。参謀本部もWUAOの地下の一角に移転。また、WUAOが日本軍駐留所になることを正式に承諾。WUAOには大量の日本軍人が集まってくることとなった。
この変更に対し、一部の国民からはデモが起こるほどの反対を食らった。が、彼らも本当は心の奥底では分かっている。あの大国達が一瞬にして占領されてしまった。そんな脅威が日本に迫っていると言うのにこんなことばかりしていられないと。
その後、日本は憲法を作り直し平和主義を完全撤廃。これは、国が戦争行為を認めたということである。
しかし、未確認生命体に対し、さまざまな無念を持った国民が立ち上がり日本軍に志願をした。そのおかげもあり、日本軍人の数は2倍以上に増加した。
増えた軍人のおかげで、朝鮮半島には30万人の兵士が集められていた。その中にはつい最近入隊したものも数多くいた。訓練は緊急事態ということもあり、半年しか行われていない。
神風をはじめとする、「磯風」「河内」「妙義」の4部隊、500人は精鋭として扱われていた。
基準のスナイプ訓練の点数をオーバーした者は精鋭として各部隊に配属された。
また、機動力やアサルトライフルの射撃訓練等で良い成績を収めた者に対しても同様に、精鋭部隊に配属されていた。
神風、磯風、河内、妙義の4部隊の各隊長である夏目一等陸曹、原田二等陸佐、荒木二等陸曹、夜宮三等陸佐の4名及び応援に来た斎藤一等陸佐、そしてリモートで参加している鳥宮博士の計6人で作戦会議が行われていた。
夏目一等陸曹は、一つ前の作戦の結果について説明をする。
説明内容を聞き終えた鳥宮博士は大人気ないほどの大はしゃぎをしていた。
その後、夏目一等陸曹達は作戦会議を進めた。その結果、次の作戦は斎藤一等陸佐率いる部隊約5万人の兵が先行して謎の建築物に攻撃を仕掛ける。
その後、未確認生命体の陸軍部隊が斎藤一等陸佐の部隊へ集まってくると予測されるので神風、河内班と磯風、妙義班の二班に分かれて側面から一気に叩く。その後、ある程度殲滅することができたら斎藤一等陸佐の部隊が建築物に侵入するという内容だった。
この作戦に対し、全員が賛成。可決された。
作戦会議終了後、神風、磯風、河内、妙義のメンバーで顔合わせ兼作戦報告をすることになる。
神風の夏目一等陸曹、磯風の原田二等陸佐、河内の荒木二等陸曹、そして妙義の夜宮三等陸佐の順に自己紹介をしていく。
その後、隊員全員に今回の作戦内容を伝える。いくつかの質問が上がったが、それはこの場で最高階級である原田二等陸佐がサラサラと答えていった。
解散した後、再び夏目一等陸曹、原田二等陸佐、荒木二等陸曹、夜宮三等陸佐で再び集まりお互いが持つ質問をぶつける。
ある程度話が終わった後解散して、各自睡眠をするために塹壕へと戻っていた。
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作戦開始時刻3分前。現場には緊張感が走っていた。それもそのはず。そもそも未確認生命体と戦うなんて誰が想定しただろうか。しかも68億人を殺してきた大量殺人部隊の”一部”とこれから戦うことになっているのだから。
特に、斎藤一等陸佐の部隊は新人も多く、周りより一層落ち着きがなかった。神風や河内隊の隊員も多少は落ち着きがないが、精鋭ということもありある程度冷静を保てていた。
作戦開始前に、斎藤一等陸佐から話があった。
その話を聞いた軍人は雄叫びをし、己の指揮を上げていった。
作戦開始時刻になる。
斎藤一等陸佐の戦闘開始の合図により、一斉に兵士が駆け出す。
神風、河内班は右に展開し、磯風、妙義班は左に展開した。
神風、河内班は指定されたポイントに到着する。約250人の兵士がスナイパーライフルを構える。
それと同時に、斎藤一等陸佐の部隊が敵に向けて発砲する。何体かは生命活動を停止したが殆どの見張りの兵士は倒れることなく、斎藤一等陸佐の部隊に気がついた。
未確認生命体陸軍部隊と斎藤一等陸佐の部隊の戦闘が始まる。
レーザーと鉛玉が飛び交う。瓦礫の山の中かかいくつもの兵士の悲鳴が聞こえる。
戦闘開始から1時間。現在、斎藤一等陸佐の部隊の状況は劣勢。元いた兵士の約三分の一のがチリになっていっていた。
一方、未確認生命体の部隊はというと見張り番をしていた奴らは全滅。だが、謎の建築物から応援が来たため勢いを取り戻していった。
ここで、精鋭部隊に射撃命令が下る。
神風、河内、磯風、妙義の4部隊が一斉にスナイパーライフルを発砲する。
殆どの弾は命中し、最前線にいた未確認生命体は全滅することとなった。後ろにいた敵は何が起きたのか一瞬分からなかったようだが、すぐに状況を理解して3つの部隊に分かれた。
一つは斎藤一等陸佐の部隊に、一つは神風、河内班に、もう一つは反対側にいた磯風、妙義班の元へ向かった。
約3キロ先から迫ってくる大量の敵の喉元をひたすら撃ち抜いていった。
1時間後、なんとか向かってくる敵を殲滅する。首元を掠っただけで生命活動を停止してくれるのでそこまで苦戦はしなかったが数が多かった。神風、河内班は13人の死者を出した。
斎藤一等陸佐の部隊は3万人が死亡。7000人が負傷し、後退し残りは1万3000人となっていた。
磯風、妙義班の方は、36人死亡、6人負傷という結果になっていた。
斎藤一等陸佐の部隊とスナイパー班が合流し、謎の建築物に入る。
スナイパー班はスナイパーライフルをその場に置き、アサルトライフルに切り替える。
謎の建築物の中は、巨大司令塔だった。中にも何体か未確認生命体が武装して周回をしている。
斎藤一等陸佐の指揮で、部隊が展開する。斎藤一等陸佐の合図で一斉に発砲する。建築物の中に銃声が響き渡る。
未確認生命体は何が起きているのか理解が追いつかず混乱している。
神風は階段を登り、最上階を目指すように斎藤一等陸佐から命令される。
夏目一等陸曹は、神風を率いて階段を登る。下からの援護もあり、10分弱で最上階に到着した。するとそこには謎の機械が大量に置いてあった。机と思われる台の上に一つの設計図が置いてある。そこには、謎の言語と敵の宇宙船が描かれていた。
最上階には何故か未確認生命体の姿はなかった。
その後は一方的な殲滅戦だった。見つけたら喉元を狙い発砲。その繰り返しだった。
30分もしないうちに、敵を殲滅し、完全に制圧。死者3万人以上を出したこの戦いは、日本軍が勝利を収めることとなった。
神風は敵の司令塔をさらに散策する。
すると、
・外壁にはレーザー機関銃を備えていること。
・この司令塔は船であること。
・船ではあるが、母船の自動運転が効いていて操縦できないということ。
・母船はいつでもこの船を切り離し、破壊ができるということ。
この四つがわかった。
1000人の兵士を建築物に待機させ、夏目一等陸曹達は作戦本部に戻った。
この吉報は瞬く間にして日本中に知れ渡った。神風のことをある者は神の兵士と呼び、またある者は死神集団と呼んだ。
今回の戦いの中で佐藤一等陸曹は精神を病んでしまうことになる。
佐藤一等陸曹を庇って、隣の兵士が死んでしまったのだ。
佐藤一等陸曹は自分の落ち度だと思い、精神を病む。
夏目一等陸曹は彼女を神風のメンバーから外し、釜山の作戦本部に待機させることにする。佐藤一等陸曹はそれに承諾し、正式に神風から脱退した。
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2ヶ月後、日本軍は徐々に進軍していった。韓国を完全に制圧しきった後、北朝鮮へ侵攻。これも多数の死者を出すことになったが、数多の犠牲のおかげで朝鮮半島を完全制圧することとなった。
また、それと同時に、未確認生命体の呼称が決まった。「YG」である。由来とかは特になく、鳥宮博士が頭の中に浮かんだアルファベットをそのまま採用したという形だった。
一方、神風は各地にあった建築物を拠点とし色々な作戦に参加していった。
その中でも、今度決行されるの「サ–20」作戦は最も過酷であろうと夏目一等陸曹は予想していた。
「サ–20」作戦とは、中国奪還に向けて計画されていた作戦だった。鳥宮博士の予想では、中国の北京、上海の2箇所には大量の敵がいると予想されていた。根拠は、過去の朝鮮半島戦で首都圏に近づけば近づくほど敵の数が明らかに増えていったからだ。
中国には北京や上海以外にも人口が多い都市が多々存在している。ということは、必然的にYGの数が多い可能性が高いということになる。
そしてこの作戦。作戦は複雑かつ困難で、また、進軍経路は長い。今までとはレベルの違う戦いだということは誰もが容易に想像できることだった。
夏目一等陸曹達は建築物の中で各々銃の整備をしていた。
スナイパーライフルとアサルトライフルの2本を整備しているため、もう2時間近く同じような作業をしている。
整備が終わった後、夏目一等陸曹達が雑談をしていると、入り口の開く音が聞こえた。神風のメンバーが入り口の方に視線をやると、そこには後藤陸士長がスナイパーライフルとアサルトライフルを両肩に担ぎ、敬礼をしていた。
夏目一等陸曹は一度後藤陸士長を視界に入れた時、一度なにかモヤっとした気配を感じた。以前WUAOで見た時とは何か違う気配だった。が、気のせいだろう。少し見ないうちに人の気配や顔つきが変わることはある。夏目一等陸曹はそう言った結論に落ち着いた。
後藤陸士長は、厳しい精鋭試験を突破してきたのだと言う。
スコア表を見てもわかる通り命中率はやや低めだが、全ての銃器において安定した射撃ができるということが採用の決め手だったらしい。ニコニコしながら後藤陸士長は夏目一等陸曹のもとに歩み寄ってきた。
彼が言うには、次の「サ–20」作戦より神風の一員として行動するのだという。
後藤陸士長は気さくで人懐っこい人物のため、すぐに周りと打ち解けていった。後藤陸士長を新メンバーとして迎えた神風は、その日の夜に宴をした。
宴といっても酒やタバコがあるわけではなく、フルーツ缶詰などを食べながらお互いについて語るというものだった。
ある程度時間が経った時、夏目一等陸曹は席を外し自室で作戦本部に送るレポートをまとめていた。そこに後藤陸士長がくる。
後藤兵士長は元々はあまり射撃訓練は良くなかった。1番の取り柄は彼の有り余っている体力だ。彼は30キロメートルくらいだったら余裕で走りのけてしまう。それは夏目一等陸曹自身も肉眼で確認したのだ。
そんな彼が何故、ここまで射撃の精度を上げたのだろうか。WUAOにある日本軍参謀本部から、後藤陸士長のこれまでの行動履歴が届いている。
それに目を通すと、彼は急激に射撃の精度を上げていた。夏目一等陸曹は疑問を抱く。たまに、コツを掴んで急に成績が伸びる奴がいる。しかし、それは段階的にだ。彼の射撃訓練の成績を見ると、ある日は10発中1発しか当たっていない。だが、その翌日もう一度やってみたところ全弾命中したのだと言う。
夏目一等陸曹はこの疑問を抱きながら後藤陸士長と会話していく。
後藤陸士長との会話が終わり、後藤陸士長は夏目一等陸曹の部屋を出て行く。
結構な時間会話していたがそれらしい理由は見当たらなかった。
夏目一等陸曹はただの偶然だろうと考えた。
ちょうどその時、部屋の無線が鳴る。無線の相手は鳥宮博士だった。
博士は緊迫した声で夏目一等陸曹に至急現地の作戦本部にくるように伝えられる。
夏目一等陸曹は足早に作戦本部向かった。
作戦本部に着くとそこには緊迫した表情の、斎藤一等陸佐、原田二等陸佐、荒木二等陸曹、夜宮三等陸佐の4人が椅子に腰を下ろしていた。
鳥宮博士の話の内容は、
・敵の母艦がイギリスのロンドンにあると言うこと。
・母艦が日本に向けて侵攻を開始したこと。
・到着は遅く、2年後であろうということ
この三つだった。
母船の到着が遅いのは、ヨーロッパの司令塔も一緒に持ってくるからであるという。
日本の敗北、それすなわち地球の滅亡を意味していた。日本はこの戦いに負けることはできない。負けた場合、人類史は完全に終わってしまうのだ。
愚かにも人間は食物連鎖の頂点に達していると錯覚してきた。が、その錯覚も覚めてしまうというもの。いま、人間は食物連鎖のピラミッドの頂点のさらに上。天空の存在と戦っているのだ。
メカ・ゴジラみたいなものを作ろうと思っても敵の武器、レーザー銃の解析が終わらないと敵に攻撃されて壊れてしまうかもしれなく、予算的な問題もありそんなものも作れない。
今現在のレーザー銃の解析でわかったことといえばマガジンはなく、中に地球では見つかっていない謎の鉱物が存在していることだけだった。
明らかに情報が足りていないのが現状である。もっとも、一番よくわかっていないのは建築物の素材だ。鉄とはまた違う変わった何かでできている。しかも、これは戦闘時にわかったことだが、爆発物が一切通用しないということだ。手榴弾を投げても穴ひとつ開かないという硬度を誇っている。こんな硬度を持ったものは人間はまだ見つけていない。
おそらく敵の星特有のものなのだろう。鳥宮博士は頭を丸めて考え込んでいた。
その後、「サ–20」作戦の概要が改めて説明された。
今回は、朝鮮半島にいる全部隊を投入するという大規模作戦だった。
神風達精鋭部隊は海岸線に沿って西部に侵攻。各地にある敵の司令塔を制圧しながら進軍。その後モンゴルまで制圧するというものだった。
また、斎藤一等陸佐の部隊は南部から海岸線を沿って侵攻。中国の上海を制圧したのちタイや、インドなども制圧するというものだった。
元々、中国だけを制圧する予定だったのを強欲なWUAOにある参謀本部の人間が急遽変更したらしい。
この作戦に用いられる兵士の数は27万人が用いられることになった。
鳥宮博士の死者予想数は25万人らしい。生き残れるのはたった2万人ということだ。だが、これはあくまでも予想に過ぎない。現場の指揮によっては死者がもっと増えるかもしれないし、減るかもしれない。そこは現場の指揮官の裁量だ。
そして、その一番人の命を預かるという指揮官の立場に夏目一等陸曹が任命された。
夏目一等陸曹達の兵は約13万人。夏目一等陸曹がこの指揮官という立場をうけいれるということは、夏目一等陸曹が13万人の命運を握るということになる。
夏目一等陸曹は悩みに悩んだ末、これを承諾した。
作戦は翌日の午前7時に開始されることになった。その後、会議をしていると、鳥宮博士が「うわっ」と声を上げる。
作戦本部がざわつく。斎藤一等陸佐が鳥宮博士の名前を呼ぶと、無線から鳥宮博士の笑い声が聞こえてきた。バランスを崩して椅子から落ちたらしい。一同がホッとする中、夏目一等陸曹は不信感を覚えていた。
バランスを崩して椅子から落ちたら「ゴン」と鈍い音がするはずだ。ノイズ判定を喰らってなのか、無線ではその音は聞こえてきていない。何かがおかしいと夏目一等陸曹は思った。
この不信感は初めてではない。後藤陸士長と対面した時にも感じていた。この無線越しにでも感じることのできるモヤっとした嫌な雰囲気。まるで黒い泥でも纏っているような気配。まるで何かに憑依されているかのようだった。が、ほかの面々は特にそんなことも感じていないらしい。夏目一等陸曹は自分がピリついているだけかもしれないと感じ、これについて考えることをやめた。
その後は特に不審な点はなく会議が終わった。
夏目一等陸曹は作戦概要で頭の中がいっぱいになり、謎の雰囲気のことはすっかり忘れてしまっていた。
作戦決行日の早朝5時。まだ2時間も時間があるのに、神風はじめ13万人全ての兵士が集合場所に集合が完了していた。隣の集合場所には、斎藤一等陸佐の部隊が集合している。
各々ランニングや筋トレなど準備運動、銃の整備などをしていた。
夏目一等陸曹もスナイパーライフルの整備をしている。
じっくり丁寧に整備をしていると、すでに作戦開始30分前になっていた。
隣の斎藤一等陸佐の部隊も整列を終えていた。
慌てて作業を終え、兵士の前に立つ。計27万人から注がれる視線に緊張しつつ、最後の集合を完了した。
斎藤一等陸佐が壇上に立ち、軽い挨拶をする。
その後、話が夏目一等陸曹に振られ夏目一等陸曹が挨拶をする。
一通り話が終わった後、作戦開始のラッパが鳴る。それと同時に一斉に軍が侵攻を開始した。
夏目一等陸曹も斎藤一等陸佐に別れを告げ、進軍を開始する。
日本の、いや人類史の命運をかけた大規模な戦いが始まった。
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神風達は北京近郊を歩いていた。歩くペースを遅くしているので昼はもうとっくに過ぎ去っていた。
途中、YGが数体いたがそこは神風のスナイプ技術でバレることなく暗殺していった。
しかし、北京近郊に入ってからは話が変わってくる。YGが2体1組で行動をし、警戒網を引いていたのだ。距離は10キロと言ったところだろう。まだYG達は神風の存在に気が付いてはいなかった。
流石に暗殺できるのはここまでと踏んだ夏目一等陸曹は磯風、河内班に先制攻撃としてスナイプをさせた後、13万人の兵士を二手に分け、片方は司令塔の周りのYGを殲滅。もう片方は司令塔の中に入り、制圧するという作戦を行おうとする各部隊のリーダーにこれを説明する。各部隊のリーダーもこれを承諾し、この作戦で敵の司令塔を制圧することとなった。
15分後、磯風、河内班が所定の位置についたと無線で報告があった。
その間、神風達も進軍を続けていた。夏目一等陸曹が射撃命令を出す。北京に銃声が響きわたった。
戦闘が始まる。
最初の10分は河内と磯風によるスナイプが行われる。いい感じに河内と磯風が敵を引きつけた後、河内と磯風は向かってくる敵だけを倒し、待機していた神風と7万人の兵士は右から、妙義と残りの6万人の兵士は左から突撃する。
神風達は途中、何人かの兵士が殺されたがなんとか目標の司令塔付近までくることが出来た。
中に入ると、前回の司令塔と構造がほぼ一緒だった。中にいるYGの数は違うが、夏目一等陸曹は一度司令塔を制圧しているため、前回よりかは制圧がしやすい。
夏目一等陸曹の指示で、二手に分ける。夏目一等陸曹達は最上階を目指し、もう片方は敵の殲滅をする。
北京司令塔侵入から僅か5分で、占領することができた。
ちょうど占領と同時に外の敵も殲滅しきったようだった。
河内、磯風、妙義達とも合流し、この日は敵の司令塔で休息を取ることにした。
死んだ兵士は1000人弱と、今回の戦いは被害を最小限に抑えた。
今回の夏目一等陸曹の指揮は成功に終わった。
作戦終了後、夏目一等陸曹は斎藤一等陸佐と通話をしていた。斎藤一等陸佐の部隊も無事に上海司令塔を制圧したようだった。だが、彼らはYGの数が多かったらしく約1万人の死者をだしたという。
今日起こったことを斎藤一等陸佐と話していると、鳥宮博士から連絡が来る。
斎藤一等陸佐に事情を説明し、一度斎藤一等陸佐との通話を切り、鳥宮博士の連絡に応じる。
相変わらず、鳥宮博士と会話しているとモヤっとした泥っぽい何かを感じる。
鳥宮博士によると
「中国の雨はほかのところよりも酸性が濃い雨が降る。その日はYGが行動できず、停止しているのでそこを狙って攻撃せよ。さらに、もう一つ。やっとレーザー銃の解析が終わった。新しい武器をそちらに輸送させているのでしばらく待っていてくれ。」
ということだった。
鳥宮博士にしては珍しく、自分の肉眼で確認していないものを断言したことに夏目一等陸曹は違和感を覚えた。弱点を暴き出したかもしれないという時もわざわざ夏目一等陸曹に確認させに朝鮮半島に向かわせている。
鳥宮博士は椅子から落ちた時から何かがおかしい。そう感じていた夏目一等陸曹は朝鮮半島にいるある部下に鳥宮博士を監視するように命じた。
佐藤真美一等陸曹である。彼女は朝鮮半島での戦闘以来ずっと朝鮮半島に待機をさせているので、大陸にいる日本兵の中では一番日本に近い存在だった。
彼女のいる釜山作戦本部に連絡を入れると、丁度彼女が応答した。
声は以前より活気があり、元気そうだった。佐藤一等陸曹に事情を説明すると彼女は快く了解してくれた。
佐藤一等陸曹は今から日本に帰り、現地に到着次第任務を行うという。
彼女がどうやって病み期から復活したのかはわからない。が、彼女がまた動いてくれることは夏目一等陸曹にとっても嬉しいことだった。
しばらく話した後、佐藤一等陸曹との通話を終える。
無線を机の上に置き、銃の整備をしに向かう。すると、何か殺気が混じった嫌な視線を感じた。振り向くとそこには後藤陸士長がじっとこちらを見つめていた。その顔はすごくニコニコしている。まるで夏目一等陸曹を監視されるかのような立ち位置だった。
夏目一等陸曹は後藤陸士長に話しかける。
後藤陸士長の声は以前よりさらに嫌気がさす声だった。夏目一等陸曹は吐き気がしてくる。途中で話を切り上げ、銃を持ち足早に最上階へ向かう。
途中、仲間から声をかけられた気がしたがそれも無視し階段を駆け上がる。
最上階に着き、近場にあった椅子に座る。ハァハァと息は上がっている。
手もぷるぷると震えていた。
あの変な感じは今まで人と話してて感じるようなものではない。何かほかのもっと人の知らないようなものだった。
そこで夏目一等陸曹に一つの可能性がよぎる。後藤陸士長はYGなのではないかということだ。仮にそうだとしたら鳥宮博士もそうだと言える。だが、これは最近急に起こり始めた現象だ。もしかしたら全面戦争の影響なのかもしれない。昔第一次世界大戦時代にも疲れ切った兵士がおかしくなったという事例を聞いたことがある。
もしかしたらそういった可能性だというものも考えられる。仮にそうだったらメンタルケアをしてやらないといけない。
まだ後藤陸士長や鳥宮博士がYGなのかもしれないという可能性は低かった。
結局、夏目一等陸曹はこのモヤっとした感覚の正体は掴むことができなかった。
まだこの数日は武器が輸送されていくのでここから動くことができない。
その間に、少し後藤陸士長の言動を探ってみようと夏目一等陸曹は思った。
時間が経つのは早く、もう二日ほどこの北京司令塔で待機をしていた。
現状、後藤陸士長を監視しているが特に変わった様子はない。が、これはあくまで表面上の形だけだ。まだ夏目一等陸曹も彼の全ての行動を監視しているわけではなく、見かけたら少し後を追うなどの簡単な尾行くらいしかしていない。というよりはできないというのが正しいのだ。なにせ、彼には全くと言っていいほど隙がない。見かけてもまるで備考に気が付いているかのようにスルスルと歩いて行き、撒かれてしまっていた。
夏目一等陸曹は少しイライラしながら日々を過ごしていた。
するとそこに夜宮三等陸佐が近づいてくる。
夜宮三等陸佐は若手で29歳の時に3等陸佐まで上り詰めたという伝説を持っていた。
夜宮三等陸佐は気さくで誰よりも接しやすいが、その分多く人を見ているためちょっとした変化もすぐに捉えるような人だった。
性格は大雑把で部屋が人一倍汚いことで有名だった。汚いと言っても食べかけのものが転がっているとかいうのではない。床に散らかっているのは、資料の山だ。彼は人一倍努力するいわば努力家という部類で、夜も寝るをおしんで勉強に明け暮れていた。
そのせいか、座学のテストではいつも100点を取るという優等生でもあった。
そんな夜宮三等陸佐が夏目一等陸曹の横に座る。手には二つのカップを持っていた。カップの中身は匂いでコーヒーだと気づいた。
夜宮三等陸佐は夏目一等陸曹にカップを一つ渡す。夏目一等陸曹はコーヒを一口飲み込む。
夜宮三等陸佐に後藤陸士長のことを相談してみようかと悩んでいたところ夏目一等陸曹の視界が急にぐらつき、夏目一等陸曹は椅子から落ちてしまう。目を閉じる直前に視界にとらえたのはニヤリと笑う夜宮三等陸佐だった。
夏目一等陸曹は椅子に座った状態で目を覚ます。
部屋を見渡すとそこは色々なものが散乱していた。
一眼見ただけでわかる。そこは紛れもない夜宮三等陸佐の部屋だった。
立ち上がろうとすると、夏目一等陸曹は前によろけてしまう。よく見ると両手両足は手錠で繋がれていた。
体もガムテープで縛られている状態だった。少し体を暴れさせていると、部屋のドアが空いた。
そこから出てきたのは、夜宮三等陸佐だった。
夏目一等陸曹は夜宮三等陸佐に何故こんなことをしたのか聞く。すると、夜宮三等陸佐は、「ウチ、妙義しか知らないような情報をオタクの後藤陸士長が持っていたもんだから聞いてみたんだ。そしたら夏目一等陸曹から教えてもらった。と彼は答えた。」と言った。
もちろん、夏目一等陸曹は妙義の中の情報なんて一切知るわけがない。元々神風、河内、磯風、妙義の4部隊は無くこの戦い専用に作られたわけではない。元々こういった部隊があったのだ。各地で訓練をしている状態だった4部隊を精鋭といい招集されたのだ。
それまでは名前しか聞いたことがなかった部隊の情報なんて夏目一等陸曹が知っているわけがない。
つまり、後藤陸士長は嘘をついているということになる。
夏目一等陸曹は夜宮三等陸佐に後藤陸士長の最近の変化について説明した。最初は怒りで理解する気が全くなかった夜宮三等陸佐も、次第に我に帰ったらしく話を聞いてくれるようになった。
その後、夜宮三等陸佐は自分の勘違いと判断したらしく夏目一等陸曹を解放した。
その後、さらに詳しく後藤陸士長や鳥宮博士の不審に思っていた点を話す。夜宮三等陸佐も洞察力は高い人間なので夏目一等陸曹より多くの人間の不信感に気がついていた。その数13人ほど。その中にはもちろん、後藤陸士長や鳥宮博士も入っていた。
夏目一等陸曹は夜宮三等陸佐より人と接する機会が多いからか、小さな変化にも気が付いていた。
例えば、声の音程や仕草など夏目一等陸曹では絶対に気がつけないような変化ばかりだった。
例えば後藤陸士長の場合だと、声の音程が半音程上がっていたらしい。そこに関しては、夏目一等陸曹でも気が付けていなかった。
その後原田二等陸佐と荒木二等陸曹も部屋に呼び、警戒人物を決めることにした。
夜宮三等陸佐ほどではないがそれでも多少彼らも違和感を感じていたらしい。
約1時間回避をした後、先程夜宮三等陸佐が言った13名を警戒人物として認定することになった。この取り決めは内密のことであり、決して隊員には話してはいけないということだった。
夏目一等陸曹達は後藤陸士長やほかの隊員に監視されてても違和感がないように、酒を少し入れて部屋を後にした。そうすることで軽く飲んで話し合いをしただけだと後藤陸士長たちが勘違いするという算段だ。
最も、最近飲んでなかった大人達は本来飲む予定だった量の酒より多めに入れてしまっていた。
顔が真っ赤になり、フワフワしながら元いた最上階へと戻っていった。
隊員が夏目一等陸曹の事を心配してきたが言い訳をし、振り切ってきた。
その後、酒を大量に入れたせいか唐突に眠気が襲ってきた。
夏目一等陸曹はその眠気に抗う事なく眠りについた。
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翌日、北京司令塔に鳥宮博士の新型の武器が届いた。
銃身はM4シリーズの派生のような形をしていた。マガジンは従来のものとほぼ同じだった。唯一違うところは弾が違うところだった。弾は赤色で見たことのないような形をしていた。
試しに弾をこめてトリガーを引いてみる。銃口から出た弾は幾度のとなく戦場で目にした弾だった。
それはYGが使っていたレーザー銃の弾と同じもののように見えた。
すると鳥宮博士から連絡が入る。
応答すると、いつもの嫌な感じの声が聞こえてきた。
今から銃の詳しい取扱い方を説明するという。
マガジンの最大装弾数は42発。3点バースト型の銃で、弾はYGがつかっていたものとほぼ同じだという。
名前は「M46レーザー」
だがここで疑問が生じる。YG達は地球では取れない鉱物を使い、それを弾にしていた。だが、鳥宮博士はほぼ同じにまで再現をしている。
鳥宮博士に作り方をきこうとしても何故かのらりくらりとかわされてしまった。
その後、鳥宮博士から色々解説があった。
使い方や、対応するスコープの型番まで色々教えてきた。
鳥宮博士は解説が終わった後、研究の残りをするというのを理由にそそくさと電話を切った。
夏目一等陸曹は思わず夜宮三等陸佐たちと目を合わせる。これはまるで昨日話したことを裏付けているかのような出来事だった。
佐藤一等陸曹からの連絡がまだないが、これで彼女が何か証拠を掴むことができれば鳥宮博士がYGだという証拠が完全に揃う。
とりあえず、佐藤一等陸曹からの連絡があるまでは神風達は進軍をつ助けることにした。
新型の武器が神風達の元に届いてから、彼らは進軍スピードを早めていった。
新型兵器の「M46レーザー」はYG達の皮膚に当たっても皮膚を溶かしていくので喉元を狙わずとも体のどこかに当てるだけでいいというのはだいぶ、精鋭部隊の負担が減ることになる。
すると精鋭部隊のキレが上がり、さらに効率よく進軍することができた。
「M46レーザー」が導入されてから1ヶ月。夏目一等陸曹たちはとてつもないスピードで進軍していき、ついに最終目標地点だったウランバートル司令塔まで来ることができた。ここまでに失った兵士の数は2万人。当初の予想よりも明らかに多い兵士が残った。だが、2万人もの兵士がここまでくる間に命を落としたとも言える。
夏目一等陸曹は死んだ仲間達を悔やみながら日本の参謀本部に到着の連絡を入れる。
すると、追い討ちをかけるかのように凶報が夏目一等陸曹の元に届く。
それは、南部に展開していた斎藤一等陸佐達の死だった。
彼らは進軍スピードが早い代わりに多数の死者を出してきたがなんとか中国、インドを占領したという。インドが占領した時に残っていた兵士は5万人しか残っていなかったがまだ諦めるのには早すぎる数の兵士が残っていたはずだった。が、夜襲を受けたため一晩で壊滅したとのことだった。敵はYGの母船だという。本来のスピードは鳥宮博士が変な違和感を出す前だったのであの情報は信用できる。
つまり、他にも母船がいるという説が必然的に濃厚になっていくのだ。
まだ確認されていない母船が何隻もあるとなると日本も一概に安全とは言えなくなる。
もしかしたら太平洋又は日本海の上にいてもう少ししたら日本も攻撃されるのかもしれないという可能性が出てきたということだ。
しかし、斎藤一等陸佐も新型の武器を装備していたはずだ。
当然、抵抗はしたはずなのになぜ負けてしまったのだろうか。おそらく単純に兵士の量に差だろう。
母船が飛行している間は母船の下でYGの陸軍の本隊が常に一緒に行動しているかもしれない。そうすればYGのレーザーと母船に搭載されているレーザーが上と正面から降り注ぐこととなる。
そうすればどんな強靭んな兵士でもその状況下でYGを殲滅するのは極めて困難だと夏目一等陸曹は推測する。
なんにせよ、ユーラシア大陸に派遣された日本軍の半分の兵士が一夜にしてこの世から消え去ってしまったのだ。
参謀本部は悩みに悩み込んだ末、新たな作戦を命令した。このまま南下し、インドのテランガーナ司令塔に向かえとの命令だった。
そこで斎藤一等陸佐達は死んでしまったらしい。つまり母船の移動スピードから考えて、テランガーナ司令塔に行けば母船の姿を拝むことができるということだった。
作戦は、本日の夕方より開始し、2ヶ月後を目標に現地に到着するようにするという。
夏目一等陸曹は各部隊のリーダーとともに会議をしていた。
1番の話題は南下作戦よりも斎藤一等陸佐が死亡したことだった。しかも一夜にしてあっという間にだ。
アメリカ戦で唯一生き残った男も死んでしまった。夏目一等陸曹達は圧倒的力の差を見せつけられた気分だった。
そして、前日ちょうど会議をしていた鳥宮博士についての話題になる。
普通絶対に作ることができないはずの兵器を短期間で作り上げてしまったというのだ。
普通は無理だ。なぜならエネルギー源が地球に存在していないからだ。
では、なぜそもそもYGはこの地球に攻める?その時、夏目一等陸曹の頭の中に
「YG達の星では資源がとても枯渇しており、地球の人間というのがレーザー銃の燃料になるので攻めてきているのではないか」
という可能性がよぎる。
YG達の銃にはマガジンがついていない代わりに、銃身に小さなくぼみがあるのは何回もの先頭を経て確認済みだ。
もしそこに指や骨、あるいは魂などを入れ熱を出し、その熱を謎の石でレーザーに変換して使っているのであれば彼らは一生弾薬に困ることなく戦闘を続けることができる。
なぜなら彼らは歯向かってきた兵士たちは容赦なく殺すが、一般市民は捕虜として捕まえているからである。
捕虜として捕まった人間達がもし一人ずつバラバラにされて肉片に変換されているのだとしたらYG達は相当タチの悪い連中だろう。
その後も、今後のことや後藤陸士長達について約3時間みっちり話し合っていた。
会議が終わり、夏目一等陸曹は銃の整備をする。
新型の銃はなかなか体に馴染むのが遅く、トリガーに指はかけないものの、構えて肩に合わせるということもしばしばしていた。
弾がレーザーなため、以前使っていたアサルトライフルに比べ。反動がなく少し違和感に感じた。
しかし、これも後2〜3回YGと戦えば慣れるだろう。
ここ最近、夏目一等陸曹は作戦のことか鳥宮博士や後藤陸士長などが持つ違和感の正体のことばかり考えていた。
その時、原田二等陸佐が通りかかる。
原田二等陸佐を呼び止めた夏目一等陸曹は少し原田二等陸佐と会話をする。
その会話の中で、家族の話題が出てきた。
夏目一等陸曹には、家族がおらず孤児院の出だったので特に家族について考えることはない。
夏目一等陸曹の両親は夏目一等陸曹が小さかった頃に交通事故で突然死んでしまったらしい。両親が家との関係を切ってしまったために、夏目一等陸曹の親戚はいなかった。
一時的に警察署に預けられた夏目一等陸曹はその後、孤児院へ入ることになった。
両親の死は夏目一等陸曹が物心つく前だったので、両親の顔すら覚えていない。
物心ついた時にはすでに孤児院の中で暮らしていたのだから。
孤児院にいた時、たまたまみんなで自衛隊のパレードを見にいったことがある。
その時の自衛官の輝く姿を見て、自分も同じようになりたいと思ったのが夏目一等陸曹の自衛官の志望動機だった。
全ての始まりはこの孤児院からきているのだ。
改めてこうやって考えてみると孤児院の先生達には感謝しかない。
原田二等陸佐も相槌を打つ。
原田二等陸佐は奥さんと一人の娘をもっているらしい。娘の方はもうそろそろ10歳を迎えるそうだ。
原田二等陸佐は後悔をしていた。
今まで運動会や学芸会には参加することができず、父親らしいことをしてやれなかった挙句、今回の作戦では明日父親が死んでしまうかもしれないという娘から見てみたらあり得ない状況なのだ。
そんな状態だからこそ、原田二等陸佐は人一倍命の重みを感じていた。
原田二等陸佐との話を終え、原田二等陸佐が歩いて行くのを夏目一等陸曹は追っていた。
彼らには彼らの、そして自分には自分の必要なものがある。
夏目一等陸曹は原田二等陸佐と会話してそれを強く実感していた。
作戦決行時間になる。
いつも以上に緊迫感が現場に張り詰めていた。なにせ今から斎藤一等陸佐達の部隊を一夜にして全滅させたYG達と戦いに行くというのだ。無理もない。
作戦開始のラッパがなる。
神風を先頭に歩き始める。
夏目一等陸曹は神妙な面持ちだった。自分より何倍も強い斎藤一等陸佐を倒した相手だ。自分の指揮で今いる軍が全滅してしまうかもしれないという重圧をひしひしと感じていた。
この戦い、夏目一等陸曹の指揮で全てが決まる戦いということをまだ誰も知らない。
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作戦開始から約一週間が経過した。
神風達は今、香港司令塔の前で戦闘をしている。鳥宮博士が作ったレーザー銃を使用し、YGと戦っていた。
敵に弾が当たると人間のように燃え上がるわけではなく、当たった部分からドロドロと溶けていき、最終的には跡形もなくなっている。
YG達は人間がレーザー銃を持っていることに戸惑っているようで、陣形が取れておらずボロボロと守備が崩れていった。
香港司令塔もあっけなく人間の手に落ちた。
流石に、兵士たちも疲弊していたので、香港司令塔で一日休憩を取ることになった。
その夜、夏目一等陸曹をはじめとするリーダー達は日本にいる鳥宮博士と通話をしていた。
その理由は、謎のモヤっとした違和感をリーダー達で共有するためだった。
話している途中に別の電話が鳴る。隊員の一人が受話器を取ると、佐藤一等陸曹かららしい。夏目一等陸曹に電話を交代する。
佐藤一等陸曹からの報告内容は、
「鳥宮博士の遺体が普段使われていない地下倉庫で見つかった」
という。
しかし、今夏目一等陸曹達は鳥宮博士と会話をしている。
佐藤一等陸曹から受け取った情報をメモに書き起こし、今鳥宮博士と話している他のメンバーに伝えた。
他のメンバーも驚いているようだったが、声色には出さずそのまま話を続けた。
佐藤一等陸曹からの報告を受け取った後、夏目一等陸曹は鳥宮博士との会話に戻る。その後は特に何もなく、鳥宮博士との会話を終えた。
鳥宮博士との会話を終えたメンバーは当然、動揺していた。
佐藤一等陸曹の虚言説なども上がったが一番可能性が高いのはYGであるという説だった。
この一件で、リーダー達で緊急作戦会議を開いた。
議題は、
「鳥宮博士の処分」
についてだ。現状、鳥宮博士の遺体は確認できていないが9割の確率でこの情報が真と踏んだ夏目一等陸曹達は精鋭部隊を一つ現地に向かわせ、暗殺することにした。これは、夏目一等陸曹らリーダー達の独断である。
現地には磯風が向かうことになった。
他の兵士には磯風には支給品を回収に行くと説明し、磯風は戦線から離脱した。
ここでの磯風脱退は痛かったが、もし鳥宮博士がYGだった場合このモヤっとした感覚の正体が確定する。
磯風の任務遂行にこの前線の部隊の命運がかかっていると言っても過言ではない。
磯風は、4時間の休憩の後日本に向かって移動し始めた。
夏目一等陸曹は複雑な気持ちで磯風を見送った。
香港制圧から一夜が明け、再びテランガーナ司令塔に向けて出発した。
この時残っている兵士は9万人ほど。作戦開始からすでに4万人を失っていた。
歩き始めてから12時間が経過した時、軍の正面約800メートル先からに黒い塊が接近してきているのが見えた。
夏目一等陸曹は双眼鏡で黒い塊の正体を確認する。
黒い塊の正体は、金属でできたイカのような姿をしていた。夏目一等陸曹はそれを見た瞬間、新手の敵だと気がついた。
夏目一等陸曹は軍全体に戦闘態勢を命じた。が、敵の方がそれよりも早く軍を襲ってきた。
神風を始め、色々な部隊が襲われる。
敵に向かって発砲する。幸いにも「M46レーザー」の攻撃は敵に通じ、撃ち落とすことができた。
が、敵は俊敏性が高く狙撃するのは至難の技だった。
そこで夏目一等陸曹は作戦を変え、各部隊で円陣防御を組み、弾幕を貼るという作戦にした。
そして、この作戦が吉となり多くの敵を撃ち落とし始めた。
しかし、依然敵が優勢なままだった。
周りから襲われた兵士の悲鳴が響く。完全に想定外の攻撃方法だった。
奴らは襲った人間を金属の触手のようなものでバラバラにしていった。血飛沫や肉片があたりに飛び散る。精鋭達もすでに2割が殺されていた。
しかし、精鋭達がタダでやられるわけがない。死を悟った者は「M46レーザー」を上空に乱射し、一体でも多くの敵を道連れにしていた。
1時間後、夏目一等陸曹達の部隊は半分までに減少していた。
このままでは全滅しかねないような状況の中、あたりに謎の高音が響き渡る。
その音が鳴り終えた後、急に敵が襲うのをやめて引き返していった。
夏目一等陸曹はその場にへたり込む。謎の高音は何だったのだろうか。これがもし斎藤一等陸佐を襲った正体なのであれば全滅したのも納得がいく。
そしてこの戦いで、約5万人の兵士が肉片となった。
神風、河内、妙義の3部隊で生き残ったのはたった60人ほど。もう各部隊が孤立して動くのはできないと判断し、3部隊を統一し新しく『武蔵』が設立された。
今の敵はYG達とは違い、ドックタグを無くさないので落ちているドッグタグを生き残った者で拾い集めた。それでも、全員分のものは集めきれず下に落ちているものだけを回収し、袋に入れた。
その後、一度香港司令塔まで撤退し体制を立て直すことにした。
神風達はたった数時間で半分の兵士が死に、引き返すこととなった。
香港司令塔に着いた時、兵士たちはかなり疲弊していた。
仲間が多く死に、錯乱している兵士もいる。
香港司令塔に戻り磯風隊を引きている原田二等陸佐以外の元リーダー達で会議をする。この時鳥宮博士にはこのことを伝えず、この会議には参加させていない。
各部隊の元リーダー達で話し合いをする。まず第一に考えることはあの黒い塊に対抗しうる手段だ。奴らは移動スピードがかなり早く、普通に戦っても勝ち目がない。
なおかつ、奴らは量が多い。
夏目一等陸曹達は先程の戦闘の時に感じていたが、明らかにYG達とは比べ物にならないくらいの敵の量だった。何故あんなにもたくさんいた黒い塊に関しての報告が何もなかったのだろうか。
そして不可解な点がもう一つ。あの高音は何だったのか。
もしもあれが母船から発せられる音であるというのであれば、母船は近くにいる。
だが、それらしい陰は戦闘中一切確認していない。もし母船が近くにいたのであれば謎の黒い塊と戦っている時にでもこちらに来ればいい。もしそうされていたら間違いなく夏目一等陸曹達は全滅させられていただろう。
なのに奴らはそれをしなかった。それはただ単純にYG達の判断ミスなのかそれとも遠くから発せられた音がちょうどあのタイミングで聞こえてきたのかわからない。
YGの仲間と考えられるものが軍の中にいるかも知れなかったり、YGの具体的な情報もいまだによくわかっていない。
今戦っているYGとはいったい何なのだろうか。そんな考えが思考を埋める。
結局、軍の立て直しには最低でも二日かかると予測され、その間は各自自分のすることをするということになった。
当初約30万人いたとされる日本軍人も残りは4万人程度。本土からの援軍も望めない。
残りの4万人で果たして母船を落とすことができるだろうか。母船の周りにはあの黒い塊やYG達がいると予想されている。
そいつらと全面戦争をすれば全滅の可能性も十分ありうる。ここで夏目一等陸曹達が敗北してしまったら日本に未来はない。
夏目一等陸曹がこの4万人をどう動かすかにかかっているのだ。
何個も何個も作戦を考えては没にする。
そんな生活が3日続いた。
最低2日と予想されていた立て直しは思った以上に時間がかかり、まだ当分は香港司令塔にいることとなっている。
3日目の夜、緊急電話が鳴る。夏目一等陸曹がこれに応答する。相手は原田二等陸佐からだ。原田二等陸佐の呼吸は荒れていた。
どうやら何かあったらしい。夏目一等陸曹は原田二等陸佐に何があったのかを聞いた。
すると衝撃的なことを伝えられる。
『磯風隊が日本に着いた時、日本は奴らの母船と思われるものから攻撃を受けていた。日本各地でYGや夏目一等陸曹達が戦った黒い塊が国民を襲っていたらしい。広島には彼らの爆弾が投下されており、瓦礫一つ残っていない平地となっていた。もう日本は事実上陥落。鳥宮博士も死んでしまった可能性が高い。磯風ももう長くは持たない』
という。
日本本土が陥落したことに現場は騒然とする。
おそらく、暗殺されることを恐れた鳥宮博士の仕業だろう。
広島が何もない平地になっているのだとしたら、もう佐藤一等陸曹も死んでしまったと捉えてもいいだろう。
日本が陥落したということは、今いる4万人は帰る故郷がなくなってしまったということだ。今世界には何万、何億というYG達の部隊がいる。そんな連中相手に4万人で挑むということは、自殺行為だった。
しかし、もうこの部隊も長くは持たないということも分かっていた。
どうせ死はいつか来るものだ。もうその死が近い今、国の無念を晴らすために命を使おうと夏目一等陸曹は考えていた。それは、他の面々も同じであった。
かつて日本が特攻をしたように、今また同じ特攻をしようとしていた。
だが、簡単にやられては国民の無念は晴らせない。
夏目一等陸曹はどうせ地獄に行くなら一体でも多くの敵を倒してから地獄に行きたかった。
夏目一等陸曹は生き残っている4万人を緊急招集する。そして日本が陥落し、自分たちが完全に孤立したことを告げる。
もちろん、隊員は動揺する。中には啜り泣く人物もいた。
ここで夏目一等陸曹は最後の戦いに挑むべく、兵士を鼓舞する。
しかし、日本陥落の情報が大きかったのだろう。結局その日の招集で全兵士が気持ちを切り替えることはできなかった。
二日後、出撃すると兵士たちに告げ、その日は一度解散した。
夏目一等陸曹は悩んでいた。中には死にたくないであろう兵士もいるのにわざわざ自爆特攻みたいな形をとって死ににいってもいいのだろうか。
いっそ投票制にしてしまおうか。しかし投票制も問題がある。人間は生存本能が存在する。
投票にした場合、まず誰も死にに行きたくはないだろう。ここは反対が多くても全軍を突撃させた方がいいと夏目一等陸曹は決断をした。
その時、荒木二等陸佐が通りかかった。
荒木二等陸佐に今悩んでいることを相談してみる。
荒木二等陸佐は二等陸佐にしては若い26歳だった。だが、16歳の時に自衛隊に入隊してから今までずっと現役で続けてきている。夏目一等陸曹よりも経験豊富な先輩だった。
荒木二等陸佐は指揮に関しては人一倍長けている部分があった。
正直、荒木二等陸佐がいなかったら今よりもっと多くの死者をだしていたと思う。
荒木二等陸佐は夏目一等陸曹の悩みは誰もがすることだと返答する。
荒木二等陸佐は日本が無くなってしまった今、もうどこで死んでも悔いはないと言っていた。『武蔵』の部隊は他のところの部隊よりずっと厳しい訓練を積んできている。
実践経験はほとんどないが、それでもいつ実戦が来ていいように備えていた。
夏目一等陸曹と荒木二等陸佐は少し話す。
夏目一等陸曹は荒木二等陸佐と話しているうちに、自分のやるべきことが見えてきたように感じた。
夏目一等陸曹は話終わった後荒木二等陸佐に一礼をし、スタスタと自室へ戻っていった。
夏目一等陸曹は今後の作戦表を作る。今後は、三人一と組で行動し敵を見つけたらすぐに円陣防御を組み、即座に対応するという案だった。
正直、今やっていることは悪あがきに過ぎない。でも、その悪あがきをすることもまた取り残されて運良く生き残った日本軍人の役目なのかもしれないと思っている。
夏目一等陸曹は最後の作戦名を
「悪あがき」
にした。これはただの悪あがきではない。人類史最後の悪あがきだ。
「どうせ死ぬなら少しでも多くを道連れに」
を目標に掲げる作戦である。
この達成条件は自分なりの悪あがきをして死ぬことだった。
この作戦が書かれた紙をゆっくりと巻き戻し、仮眠場に入る。
作戦開始まで後二日。夏目一等陸曹は明日だけは楽しく過ごそうと心に決めていた。
翌日の夜、香港司令塔の中は最後の宴会で大騒ぎだった。
夏目一等陸曹が昼に飲酒を許可してから数時間が経つがほとんどのやつが出来上がってしまっている。
こんな調子で明日、本当に戦えるのだろうかと夏目一等陸曹は不安になっていた。
その間も常に何人かは交代で外で見張らせている。
日本国が無くなった今、法律というものは存在しない。
夏目一等陸曹の責任で今夜は未成年にも酒やタバコを提供していいということだった。
夏目一等陸曹も軽く飲む。ここ最近飲んでいなかったので、酒に対する抵抗が少ないかもしれない。だが、夏目一等陸曹は下戸である。120ml飲んだだけでベロベロになっていた。
兵士たちは皆、自分たちの会話に花を咲かせている。
そんな中、夜宮二等陸佐の元にはたくさんの兵士が話に来てた。夜宮二等陸佐はこんな時でも持ち前の洞察力を生かして、さりげなく人を観察していた。
荒木二等陸佐は酒を水のように飲んでいる。荒木二等陸佐はかなりの酒豪のようだ。顔はうっすら赤くなっている程度で、まだ余裕がありそうだった。
少ししてから、明日の作戦を説明するために夏目一等陸曹は酒を飲んでいる者達の前に立つ。
作戦「悪あがき」の内容を伝える。内容は簡単なものだった。
『母船の元に行き、一体でも多くの敵を駆れ』
だった。ほかにすることはなにもない。
ほかに、酒は明日に響くのでほどほどにしておくように伝えて夏目一等陸曹は部屋に帰る。明日、自分たちはほぼ確実に死ぬ。
最後の宴を楽しんだ夏目一等陸曹は最後の睡眠を楽しむため、目を閉じた。
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翌日の朝、武蔵をはじめとする部隊が整列をしていた。もうすぐ、作戦開始の時間だ。兵士たちの顔に緊張が出ていた。
もうすぐ自分たちも死ぬ。戦争にとって俺たちの死はちっぽけなものだ。だが、今回は違う。俺たちが死んだら、人類史は滅亡する。だが、逃げていても結局最終的には殺されるだけだ。逃げるぐらいなら戦った方がいいと夏目一等陸曹は思っていた。
作戦のことを考えていたら、作戦開始時刻のラッパがなった。
武蔵を先頭にゆっくりと進軍を開始する。最後の作戦が始まった。
歩き始めて2時間が経った時、前方に黒い物体が見えた。
双眼鏡で見てみると、あの金属製の黒い塊が母船と思われるものを取り囲んでいた。
黒い塊に守られながら、母船はゆっくりとこちらに向かってくる。
全部隊が展開し、戦闘態勢に入る。敵もそれに気がついたのか、YG達が展開する。
夏目一等陸曹が攻撃命令を出そうとした時、後ろで兵士の悲鳴が聞こえた。
振り向くと、そこには味方の兵士を撃っている後藤陸士長の姿があった。そのほかにも、夜宮二等陸佐が危険視していた人物達が次々と味方を撃っていく。
夏目一等陸曹達が警戒人物として認定していた、後藤陸士長達がゆっくりと母船に向かって歩き出す。
後藤陸士長の手には大量の人間の指が握られていた。
彼の目は人間の目ではなかった。サイコパスとはまた違う、何とも言えない表情の目。だが、その目には確かに歓喜が入っていることがわかる。
その姿に、夏目一等陸曹は怯んでしまう。
後藤陸士長はそのまま母船のところにまで行くと、YGから銃を受け取る。銃にあるくぼみに持っていた人間の指を入れ、こちらに向かって発砲してくる。
後藤陸士長が放った弾は右側の部隊に当たる。すると、周りにいた本来当たるはずではなかった兵士も一緒に死んでいた。
夏目一等陸曹は後藤陸士長になぜこんなことをするのか尋ねる。
それを聞いた後藤陸士長は急に笑い出す。そして、自分の顔の皮を剥ぎ取った。中から出てきたのは紛れもないYGだった。YGが日本語を話し、今までずっと夏目一等陸曹達とコンタクトをとっていたのだ。後藤陸士長の皮をかぶって今までこの部隊に潜入していたらしい。夏目一等陸曹の予想しうる最悪の出来事が今起きていた。
しかし、なぜ自分たちをもっと早く壊滅させられなかったのだろうか?そういった疑問が夏目一等陸曹の頭をよぎる。それを後藤陸士長だったYGに聞いてみた。
すると
『夜宮二等陸佐の部隊の隊員が常に夏目一等陸曹をはじめとする各部隊のリーダー達の部屋を警備していたため、殺そうにも殺せなかったという。また、スキもなかったため他の隊員もほとんど殺せなかった』
という、意外な返答が返ってきた。
夏目一等陸曹は夜宮二等陸佐の顔に視線を合わせる。すると彼は、右手で夏目一等陸曹にグッドポーズをしていた。
その後、後藤陸士長だったYGが色々話し出す。
YGが後藤陸士長に成りすませていた理由としては、YGの特殊能力に擬態というものがあるらしい。手順はまず、YGの指から出てくる細い管で対象を殺す。その後皮膚のDNAを採取し、体に取り込む。すると擬態が始まって30秒のうちに完全に対象の姿になれるらしい。
鳥宮博士も同じようにしてやられたらしい。
元々、WUAOは登録した者の顔認証で入ることができる。今回は異例の事態だったため、多くの兵士の顔認証が追加されることになった。そのため、誰か一人の兵士に擬態してしまえば入ることは容易だったというわけだ。
鳥宮博士が椅子から落ちたと言ったタイミングでYGが鳥宮博士に擬態したらしい。だが、最終的にはこの擬態のことを隠すため母船を日本に襲撃させ、自分もろとも死んでいったらしい。
黒い塊の件も、後藤陸士長だったYGの仕業らしい。黒い塊の名前はSPだという。後藤陸士長だったYGは近くにいた母船に座標を伝え、SPをこちらに向かわせたのだ。
途中で聞こえた高音はやはり母船から発されていたようで、
「これ以上失うと母船の守備が出来なくなる」
という意味らしい。
一通り話し終えた後、YG達は銃口をこちらに向ける。
それを確認したのち夏目一等陸曹も、同様に兵士に銃を構えさせる。
これが本当に最後の戦いだった。この戦いで人類は滅亡する。もう何も悔いはなかった。
両者一斉に攻撃開始命令を出す。その瞬間、大量のレーザーが飛び交った。
SP達も向かってくる。向かってくるSPは夜宮二等陸佐の班に任せ、夏目一等陸曹の班と荒木二等陸佐の班は正面にいるYG達を片っ端から殺していくよう指示をだす。
夜宮班は右に展開して、照明弾を放つ。すると、SP達が照明弾の方に寄せられていった。夜宮二等陸佐は以前の戦いで、兵士を殺す時にいつも銃口近くから四肢をバラバラにしているということを確認していた。そして夜宮二等陸佐はレーザーの光や発砲時の火花で敵の場所を把握していると考えていた。
どうやら、彼の考えは正しかったらしい。照明弾に食いついたSP達が夜宮班によって次々と撃ち落とされていく。
夜宮班にSPを任せ、夏目班はYGとの戦闘を続ける。敵の命中制度は高く、周りの兵士が次々と殺されていった。
そんな中、ついに夏目一等陸曹も被弾してしまう。
自分がレーザーで焼かれていく中、夏目一等陸曹は夢を見た。
中学生くらいの集団が武器や日用品を持って何かから逃げる夢……そう、あれはゾンビだ。ゾンビから学生達が逃げている。助けようと駆け寄るも、動くことができずただ見守ることしかできていなかった。
夢を見終わると同時に、夏目一等陸曹は息を引き取った。
結果、日本軍は完全に沈黙。生き残ったものは誰一人としていなかった。
そうして人類史は幕を閉じ、二度とその幕が上がることはなかった。
プロット1 不死裂@秦乖 @husisaki
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