第8話 ドン引きされると悲しいよね



「・・・あのー」

「あっ、えっと、だっ大丈夫です。はい」


 なんかもう色々驚きすぎてどもってしまった。キモオタか!・・・キモオタだったわ。


「じゃあちょっと待っててくださいね」


 心の中で寒いノリ突っ込みをしているうちに、少女が逃げまどっているゴブリン達を流れるように駆逐していく。

 立ち向かってくるものは剣で、逃げようとするものは魔法で次々と殺していく。

 そして数分もしないうちに周りにはゴブリンの死体が積みあがっていた。


「ふぅ。これで全部かな?

 さて、君怪我は・・・って足怪我してるじゃん!

 えーっと、ポーションポーション・・・」


 少女が足に刺さっている矢に気が付いて腰のポーチをゴソゴソと漁っている。

 なにやら足の怪我を治療しようとしてくれてるらしい。

 天使かな?


「えっと大丈夫です。すぐ治るんで」

「いやいやいや、大丈夫なわけないでしょ!?矢が足に刺さってるんだよ!?

 良いからこれ使って!!」


 何言ってんだこいつという表情をしながらズズイと赤い液体の入った小瓶を押し付けてくる。まあそういう表情にもなるよね。

 とりあえず実際に見てもらえばわかってもらえるかな?


「ほんと大丈夫なんで。ちょっと待ってください」


 深呼吸をして矢を握りしめる。絶対痛いよなー、やだなー。

 でも抜かないわけにはいかない。覚悟を決めて思いっきり引き抜く。


「ふん!!!

 いってええええええええ!!!!!!!!!!」

「ほら!!すぐこれ使わ・・・えっ?」


 痛みで声が出てしまう。引き抜いた矢を投げ捨て地面を転がりまわる。

 そんな様子を見て少女が小瓶の蓋を取ろうとするがそこで動きが止まる。

 それもその筈だ。もう傷は塞がり始め、数秒で傷などなかったかのように完治した。


「ね?大丈夫だったでしょう?」


 涙をなんとか堪えながら少女に傷があった場所を見せる。

 痛いのは勘弁だがこれだけは便利だ。

 少女もこれには驚いてるだろうと顔を見てみると


「えぇ・・・こわっ・・・」


 ドン引きされていた。








 美少女にドン引きされるのは割とショックでした。


「ごめんごめん。ちょっと驚いちゃって」


 ショックを受けた俺を見て少女が謝ってくる。その動作も可愛らしくちょっと許せてしまう。


「でも一体君何者?見たことない服着てるし・・・。そもそもなんでこんな所にいるの?」


 朗らかに、しかし先程よりも剣呑な雰囲気で訪ねてくる。

 まあ怪しまれるのも当然だ。こんなよく分からない場所にいて、服装も学生服だ。しかも胸元に穴が空いて、右肘から先がない大変斬新なファッションになっている。

 ・・・うん、どこからどう見ても不審者ですね。


「えっと、話すと物凄く長くなるのでとりあえず場所移動しませんか?流石にここで長話するのはちょっと・・・」


 周りはゴブリンの死体だらけだ。血の匂いで若干気持ち悪くなってきた。


「うーん、まあそうだね。他の魔物に襲われても面倒だし。じゃあとりあえず魔石だけとったら安全な所まで移動しよっか!そっちのゴブリン達はお願いしてもいい?」


 魔石?ナニソレ。


「あのー、すみません。魔石って何ですか?」

「えっ?魔石が分からないって本気で言ってる?」


 どうやら当然の知識らしい。信じられないものを見るような目で見られている。

 だってこの世界に来たばっかりだし、とは言えないのでとりあえず頷いておく。


「えっと、はい」

「うーん、本当に何者?こんなことも知らないなんて・・・

 まあいいや、その辺はまた後で訊くとして魔石っていうのは簡単言うと魔物の心臓みたいなもので、全ての魔物にあるんだ。これをギルドに持ってくと換金してくれるから魔物を倒したら確実に回収した方がいいよ」


 簡潔に魔石について説明してくれる。こんな不審者そのものみたいな奴にも優しく説明してくれるのだからとても優しいし、ありがたいのだが目の前でゴブリンの死体をザクザクと切り裂かれると気持ち悪さが促進されてしまう。

 しかし、顔色ひとつ変えずに解体しているあたり彼女にとっては当たり前のことなのだろう。


「そういえばそこの黒い子は君の使い魔?」


 手を止めずに訪ねてくる。

 黒い子というのはさっきから妙に静かにしているクロのことだろう。使い魔・・・ではないし関係性を説明するのも難しい。

 答えあぐねているとクロが代わりに答えてくれた。


「我は使い魔などではない。我の名はクロ。どちらも上も下もない対等な関係、盟友のようなものだ」


 なんかそうやってストレートに言われるとちょっと気恥ずかしい。盟友とか言われたの初めてだ。

 しかし、クロが喋ったのはいけなかった。


「えっっ、いま、しゃべっ・・・その子喋るの!?!?!?!?」


 物凄い驚かれてしまった。

 どうやらこの世界の魔物は喋ったりしないらしい。


「えぇ・・・。君ほんと何者?

 この後しっかり説明してもらうからね!」

「もちろんです。

 それであなたの名前を聞いてもいいですか?」

「あれ?私まだ名乗ってなかったっけ?

 ごめん、色々驚き過ぎて忘れてたみたい。

 私の名前はアミナ。冒険者だよ。

 よろしくね!」

「俺はマコトっていいます。

 よろしくお願いします」


 やっと自己紹介を終える。それにしても冒険者か。異世界の定番ではあるけどこんな可愛い人もやっているもんなんだな。


「よしっ、終わり!じゃあ移動するよ。ここから1時間もすれば私が拠点にしてる村に着くからついてきて」


 しょうもないことを考えている内に魔石取りが終わっていた。何も手伝ってなくて申し訳ない。


「あっはい、わかりました」

「うむ」

「じゃあしゅっぱーつ!」


 意外にも近くに村があるらしい。しかし、ここで彼女・・・アミナに出会えたのは幸運だった。先程まであてもなく歩くしかなかったのだ。クロと二人では一生村に辿り着ける気がしない。


「どうしたのー?置いてくよー」

「はやくせんかー」


 考え事をしているうちに置いてかれてしまっていた。


「すみません、すぐ行きます!」


 そう言って二人を追いかけて駆け出した。



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