第7話 出会い


「さて、これからどうすらばいいんだ?」


 手を離してクロに問いかける。これからどうするか、そもそもここがどこなのかも分からない。


「うむ。まずはニンゲン達のいる街に行くのが先決であろう。今の世界がどうなっているかも知らねばならん。とりあえずは情報収集だ」

「確かに。現状何もわかんないしな。よしじゃあ行こう!

 ・・・で、どっち行けばいいんだ?」


 街を目指すにしてもどこを目指せばいいか分からない。


「分からん」

「えっ!?」

「しっ、仕方なかろう!我とてずっとここに封印されていたのだ。人間の街の場所など知らぬわ!!」


 怒られてしまった。言われてみれば確かにその通りなのだが、そうなってしまうと手詰まりだ。


「えーーっと、そうだ!高く飛んで何か見えないか?」


 さっきからパタパタと浮いているわけだし上空から何か見えるのでは?


「よし、見てみるか」


 そう言うと小さな羽を激しく動かしながらゆっくりと上昇していき、木々のてっぺんを超えたあたりで停止して周囲を見渡している。しばらくそうしていると何かを見つけたのか慌てて降りてくる。


「小僧!川があったぞ!」

「川か。じゃあ、とりあえずそっち行ってみるか」

「うむ!こっちだ、ついてこい!」


 うれしそうに飛んでいくクロを追いかける。不思議なことに何故か少し楽しそうだ。


「なあクロ」

「ん?なんだ?」

「なんでちょっと楽しそうなんだ?」


 草木をかき分けながらも気になってつい訊いてしまう。


「・・・そんなに楽しそうに見えたか?」

「なんとなくだけどな」

「いやなに、久しぶりの外だと思うと少しな。

 あとこの体になった影響か、少し感情の抑制が効きにくいのだ」


 恥ずかしそうに呟く。

 どれだけの間封印されていたのか分からないが、長年の間出る事も出来なかったのだからテンションも上がるか。

 しかし、さっきからこの体とか前の体とか言ってるけど、どんなだったんだろうか。


「小僧、もうすぐ川だぞ」


 やっとか。

 よく見てみれば木々の隙間から川の水に反射した光がキラキラと輝いている。

 とりあえずのどが渇いたから水を飲みたいけど川の水をそのまま飲むのはよくないだろうか。お腹を壊したら目も当てられないが、慣れない道を動き回ったせいで限界が近い。なんとかならないか考えながら進もうとすると、


「待て小僧。隠れろ」


 小声で制されてしまう。


「なんだよ。なんかあったのか?」


 とりあえず茂みに隠れながら川の様子を伺うと、ゴブリンの群れが水を飲んでいるのが見えた。パッと見ただけでも10匹以上は確認できる。


「小僧、戦うことは...出来ぬな。仕方ない、一旦ここを離れるぞ。」


 クロは俺の体が震えていることを確認するとこの場所から離れるように指示をしてくれる。覚悟を決めたとはいえまだ先程の恐怖心は拭えない。水にありつけないのは残念だが戦えない以上は逃げるしかない。そう思い、音を立てないように慎重に離れようとすると、


「ギギッ!!ギギャギャギギ!!!」


 ゴブリンの一匹がこちらを指差して叫びだした。


「何!?マズい、気づかれた!小僧、逃げるぞ!走れ!!!」


 そう叫んで飛んでいくクロを必死に追いかける。

 音は立てていなかった筈だ。それなのに何故?どうして?疑問が頭の中を巡るがクロに問いかける余裕はない。

 チラッと後ろを見てみるとゴブリン達が醜悪な顔を悦に歪ませながら追ってきているのが分かった。しかし、体が小さいせいか意外とスピードは速くない。このままの速度で走れば逃げ切れるかもしれない。

 そう思ったのも束の間突然、「ドスッ」という音と共に左足の力が抜け転んでしまう。足を見てみれば矢が刺さっていた。なんとか立ち上がろうとするが痛みで上手く立ち上がれない。


「小僧!くっ!!!」


 倒れたことに気づいたクロが何とか持ち上げようとしてくれるが、どうにもならない。そうこうしているうちにゴブリン達が下劣な笑い声を上げながらゆっくりと近づいてくる。

 どうにかベルトに挟んでいた折れた小剣を抜きゴブリン達に向けるが、嘲笑うかのように笑い声が大きくなるだけだった。

 一か八か、またさっきのような怪我を負うことになったとしても戦うしかない。覚悟を決めろ。なんとか自分に言い聞かせようとするが体は震えるばかりで力が入らない。

 モタモタしている内についに前にいた3匹のゴブリン達が剣を構えながら一斉に飛び掛かってきてしまった。

 動け!手を振れ!殴れ!!!

 そう思っても体は動かない。

 そして、剣が振り下ろされる


「クア サギタ アディカ

  【アクアアロー】」


 ことはなかった。気が付いたら飛び掛かってきたゴブリン達は頭を何かに貫かれて絶命していた。


「えっ」


 よく見てみれば後ろにいたゴブリン達も半数以上が血を流し、中には死んでいる者もいる。


「大丈夫ですか?」


 声を掛けられ後ろを見てみると、そこには一人の少女が立っていた。少女は長い銀色の剣を構えながら、こちらを見ている。

 綺麗だ。

 吸い込まれてしまいそうな漆黒の美しい髪、鎧の隙間から見える肌は透き通るように白く、その姿は今まで見た誰よりも美しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る