第6話 覚悟
生い茂る草木を必死で掻き分けながら前を飛んでいるクロを追いかける。フワフワと飛んでいる割には気を抜くと見失ってしまいそうな程速い。
「・・・ハァ・・・・ハァ・・・待って・・・・・クロ・・・・・・・・」
息も絶え絶えクロに話しかける。普段ゲームしかやってない陰キャに森の中を走る体力などない。
「なんだもう疲れたのか?これだから脆弱な人間は...仕方ない。
まあここまで来れば平気だろう。少し休むとするか」
文句を言いながらも休んでくれるのだから優しい...多分。
とりあえず地面に座り込んで息を整える。
「ハァ・・・ハァ・・ハァ・・フー
それでさっきのはなんなんだ?
どうして俺の腕が吹き飛んでしかもすぐ治ったんだ?
そもそもなんで助けてくれたんだ?」
息を整えながらもつい気持ちが急いで矢継ぎ早に質問してしまう。
「そうだな。順番に説明していこう。
まず今、貴様の心臓は貴様のものではない。貴様の心臓は既に破壊され再生することも不可能であった。それを救う為に我の心臓を貴様に与えた」
衝撃的な事実である。胸元に手を当てて確かめてみるが今までも変わらない心音が聞こえるだけだ。確かにあの時心臓を取られたが、まさか別の心臓が入っているとは思わなかった。しかし、そうなると気になる事がある。
「えっと、そうなるとクロはどうやって生きてるんだ?心臓が無くても生きれるのか?」
「そんな訳がなかろう。今のこの体は魔力だけの影のようなもの。我もまた貴様の体内にある心臓で生きておる」
つまり、この心臓1つで2人(1人と1匹?)分生きてるらしい。原理はよく分からないが竜の心臓というだけあってなんかすごい。
「そして先程のゴブリンと貴様の腕が吹き飛んだ件だがあれは魔力が暴発したのだ」
「暴発?」
「そうだ。我の心臓は無限に等しい魔力を生み出す。竜の体で有れば何の問題もないのだが脆弱な人間の体ではその魔力に耐えきれず内側から四散したのであろう」
「四散したって...でもじゃあなんで今は平気なんだ?それだったら今すぐ体が弾けて死ぬ可能性もあるのか?」
想像しただけで恐ろしくなってくる。
「いやそれはなかろう。ゴブリンに襲われた時、貴様は振り払おうと腕に力を込めて無意識の内に魔力を必要以上に集中させてしまっていた。それが原因であろう。普通にしていれば魔力は体内を循環しているだけで問題はない」
どうやらすぐ死ぬことはないらしい。とりあえず一安心だ。
「だが、魔力のコントロールが出来るようにならねばまた同じようなことが起きた時に暴発もするだろうから気をつけねば死ぬぞ?」
前言撤回。いつ死んでもおかしくない。
「あと何故すぐ再生したかだが、貴様の与えられた能力と我の再生能力が掛け合わさった結果であろう。我の再生能力だけでも部位欠損ぐらいは数日で治る。そこに神の能力が合わさればこのくらい速く治るであろう」
「なるほどなー。ってなんで能力について知ってるんだ?それについて話してないよな」
やけに詳しい竜に警戒体制を取る。もしやあの神様の刺客?
だとすると助けるのはおかしいが警戒しない訳にはいかない。
「ああ、聞いてはないが貴様は助ける時に記憶を読み取ったからな。異世界のことも能力のことも戦争のことも分かっておる」
「記憶を読み取るって..なんでもありだな」
「まあ今のこの体では出来んがな。元の姿でない限り殆どの力は使えん」
便利な力も使い放題という訳にはいかないらしい。
「最後に何故助けたか、だが...都合がよかったからだ。この森から出られれば何でもよかったのだ。この森には竜を封じるための結界が張られていて前の体のままでは出る事は叶わなかった。しかし、この状態であれば出る事も出来るであろう。今の我は到底竜とは言えんからな」
自嘲気味にクロが笑う。
「でもなんでそこまでして出たいんだ?そもそもなんでこんな場所に封印されてるんだ?」
「我は主を、狂った神を殺さねばならん。我はそのために生み出されたのだ」
「神って、俺を殺したあの?」
「そうだ。過去、我は狂い始めた神を殺そうとしたが戦いに負けこの場所に封印されてしまった。だが、我は諦めるわけにはいかんのだ。神を殺す、それが我の使命なのだ」
・・・正直いきなりこんな殺すだの、使命だのと言われてもついていけない。色々なことが起こりすぎて頭がもうパンクしそうだ。異世界召喚されて、殺されて、生き返って、心臓が竜になって、、、うん意味が分からん。
「えーーっと、使命はまあなんとなく分かった。でも、今クロの心臓は俺の体の中にあってクロはほとんどの力を使えないんだよな?」
「ああ」
「じゃあ、どうやって神様を殺すんだ?」
「それはだな、、、その、、、、」
言いづらそうにクロが言葉を濁す。
「どうか協力してもらえないだろうか?」
クロが勢いよく頭を下げてきた。
「勝手な頼みであることは承知している。だが、我にはこれしかないのだ。貴様に頼る以外手段がない」
まあ、やっぱりそういう話になるよな。クロの力の源がこちらにある以上、現状俺に頼る以外ない。しかし、いくら自分を殺した相手とはいえ殺すのを協力してくれと言われても戸惑ってしまう。
「俺さ。痛いの嫌いなんだよ。手を刺されたときにも泣くほど痛かったのに腕が吹き飛んだときなんか本当に死んだと思ったんだ。まあその前に一回死んでるけど。戦いたくなんてない。脆弱な人間だしね」
「・・・・・すまない」
クロが気まずそうに謝ってくる。
「でもさ俺、ゲームがまだ途中なんだよ」
「ゲーム?」
「そう、ゲーム。友達とやっててさ、もうすぐクリアなんだ。1か月くらいやってて今日クリアするぞってところで召喚されちゃったからすっげー心残りでさ、最後どうなるのか気になるんだよ。
あとさ勉強は好きじゃなかったけど学校自体は楽しかったし、クラスも好きだったからしっかり卒業したい。
父さんと母さんともまた会いたい」
「・・・・・・・・ああ」
「俺は元の世界に帰りたい。皆と一緒に帰りたい。
だから協力してほしい。皆で元の世界に帰れるように。そしたら俺もクロに協力する。殺すっていうのは難しいかもしれないけど、せめてクロの力が戻るように協力するよ」
そういって手を差し出す。
多分俺はまた腕が吹き飛んだ時のような痛みを味合うことになると思う。それ以上だってあるかもしれない。戦うっていう事はそういう事なんだと思う。あの痛みを思い出すだけで体が震える。でも、ここでただ震えているだけでは何も変わらない。
覚悟を決めるしかないんだ。
「・・・黒き竜の誇りにかけて貴様達を元の世界に返すと誓おう。
そして脆弱なる人間の偉大なる覚悟に感謝を」
黒い竜は仰々しくそう言うと、俺が差し出した震える手を小さな手でしっかりと握り返した。
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