第5話 突然の戦闘


「しかし、こうなったか...

 最悪の結果ではないが、最良の結果とも言い難い」


 落胆した様子でよくわからないことを言っているが状況を飲み込めない。

 とりあえず助かったのかな?


「えーーっと..クロさん?が助けてくれたんですか?」


 とりあえず訊いてみることにした。


「クロでよい。

 まあ、その、そういう事になるな」


 そういう事らしい。若干歯切れが悪いような気がするが気のせいかな?


「さて、何から説明すべきか...」


 どうやら説明してくれるらしい。訊きたいことは山程ある。何故助けてくれたのか、どうやって助けてくれたのか、何者なのか、ここはどこなのか、などなど幾らでもある。しかし、その質問をすることは出来なかった。


「ではまず、貴様を助けた理由から....いやそんな時間はなさそうだな。

 小僧、後ろを見てみろ」


 言われて振り向いてみると、少し先の茂みが動いている。慌てて立ち上がると何かが茂みから出てくる。それは人間のような四肢を持ち、大きさは自分の腰ぐらいまでしかない。尖った耳、尖った鼻、緑色の肌、粗末な腰布をつけ、手には錆びた小剣を持っている。その姿は正に


「ゴブリンだ」


 弱くて狡猾なイメージのあるファンタジーで定番の魔物。実際に見てみるとその人間と似て非なる醜悪な姿は激しい嫌悪感を抱かせてくる。


「なんだゴブリンか、雑魚だな。小僧、我は今戦えぬがあれぐらい貴様だけでどうとでもなるだろう」


 クロがすごい無茶ぶりをしてくる。


「どうとでもって...!

 喧嘩もしたことないのにどうっ」


 呑気に反論しているとそれを隙とみたのか、ゴブリンが飛び掛かってきて押し倒し、馬乗りになって小剣を振りかぶってくる。何とか防ごうと小剣を持っている右腕をつかもうとするが間に合わず、そのまま左手の手のひらに小剣が突き刺さる。


「アアアアアアアアアアアアアッッ!!!?!!!?」


 あまりの痛みに叫ぶ。刺された部分が燃えるように熱い。

 ゴブリンが追撃をしようと刺さっている小剣を引き抜こうとしている。このままではマズいと痛みで纏まらない思考でも理解できた。

 しかし、馬乗りになられている以上まともに身動きも取れない。半ばヤケクソになって空いている右腕を思いっきり振り回す。反撃とも言えないような攻撃だったがなんとかそれはゴブリンの胸元に当たった。

 その瞬間、謎の爆発音とともにゴブリンが吹き飛んでいった。上半身だけ跡形もなく。


「へっ?」


 何があったのかよく分からないがゴブリンが死んだということだけは間違いない。

 とりあえず、左手に刺さっている小剣を抜かなければいけないと、右手を持ち上げると。肘から先が丸ごとなくなっていた。ボタボタと血が流れ落ちる。


「━━━ア」


 イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ

 気づいた瞬間痛みが全身を駆け巡る。声すら出ない。左手を刺された痛みなど気にならないほどの痛みに血をまき散らしながらのたうち回る。


「・・・僧っ!」


 イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ

 残っていたゴブリンの下半身を押しつぶしながら転げまわる。


「小僧!小僧!!」


 イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ

 転げまわっていた影響で左手に刺さっていた小剣が折れて手の平から抜ける。


「聴け!小僧!!!」


 声が聴こえる。イタイ。聞き慣れない声だ。イタイ。でもさっき聞いた声だ。イタイ。


「意識を右腕に集中させろ!!」


 意識を右腕に...痛みで朦朧としながらも右腕に意識を集中させる。

 すると、どういうわけか肉が露わになっていた右肘の先がジュクジュクと少しずつ新しい肉で埋まっていく。

 そのまま意識を集中させているとなくなったはずの右手が急速に生え、そして元通りになった。

 呆然としながらも確かめるために右手を閉じてみると、少し張るような感覚があるものの問題なく動いた。


「なんだよ.....これ........」


 大怪我だったはずだ。確かに肘から先がなくなっていた。普通だったら出血多量であのまま死んでいてもおかしくない。

 しかし、今、自分の右手は問題なくついている。


「治ったようならここを動くぞ。説明は後だ。派手に騒ぎ過ぎた。他の魔物が寄ってきかねん」


 真剣な表情でクロが告げてくる。こちらとしてもまた先ほどのように襲われるのは勘弁だ。

 急いで立ち上がろうとして地面に手をつくと左手の痛みも治まっていることに気づく。見てみれば傷が塞がっていた。困惑するが悠長に考えている暇はない。

 とりあえず近くに落ちていた折れた小剣だけ拾い上げ先に行ってしまったクロを追いかけることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る