5・勝手な文句と焦り、脱無職へ
わたしたちは、もう新しい道に踏み出さなければいけない。
あんなどす黒いブラック会社でのことを完全に振り切るためにも、
これから生きていくためにも―。
とか何とかカッコつけたことを言ってみたりしながら、
まだわたしもママも職探し中である。
「ったく、ホント無い!!!!!」
「あのパン屋さん、製造がなかったら応募するのに。
製造販売なんて、どこまでこき使う気だろうね」
「この整骨院、無資格OK、無資格OKって、逆に怖くない?
患者からしたら、無資格の人間に見てもらいたいとか思わないよね?」
「きっとあれだよ。
無資格の人を経験者や有資格者よりも安い給料で雇って、
その人たちと全く同じ内容の仕事をさせる気よ。
無資格の人間を下に見ている気がするね」
「この店、あんな隅っこにあるゴミ溜めみたいなところだって知らなかったら、
危うく応募するとこだったわ。下見に行って良かった!」
「その店で思い出したけど、その近くのあの店、
あんな職人みたいな格好までしてあれこれ作らされて、
販売までしなきゃいけないのに、給料安いのよ。もはや地獄よね」
「このエステサロン、変に移転なんてするもんだから、逆に家から遠いわ」
「ここさ―…あんな可愛いウサギの店なのに、
口コミ見たら、肉体労働だらけで血も涙もない会社らしいね」
文句だけは達者な、無職の母娘。
これからも、あれこれ文句を呟きながら求人を見ていくだろう――。
そう思っていたけれど、
ある日、突然、ママがまた新しいところに応募した。
娘がニート暮らしに終止符を打つためにも、
やはり母親である自分がまず一歩踏み出さなければいけないと、
また焦ったに違いない。
近所にあるお店らしく、
また面接前に断られるかもしれないという覚悟の上での応募だ。
ワガママなママは、絶対に自分の信念を曲げようとはしない。
自分の希望を妥協してまで、働きたくはないのだ。
まあ、そういう所は、ママの長所でも短所でもある。
それでも、ママは、わたしにとって、素敵なママだ。
これから、もしもママとパパが離婚しても、わたしはママとは離れないつもりだ。
わたしとママは、無職だけれど、この世で最強の親子なのだから!
自分の仕事を探しながら、
わたしは、ママがせめて面接は受けられることを願っている。
もう一度言うけれど、面接さえ受ければ、全てはママのものだ。
ママのコミュ力の高さを知れば、雇いたいと思わずにはいられないはずだからだ。
コミュ力…
娘のわたしにはほぼ無い才能だけれど、それでも、仕事はしなくてはいけない。
親子揃って、ときどき本気で忘れたくなることだけれど、
やはり仕事はしなければならないのだ。
そりゃあ、わたしたちが大富豪の妻と娘だったら、一生寝て暮らせるんだろうけど。
もちろん、そういう夢は、
わたしたちが何度生まれ変わったとしても叶うことはないだろう。
かといって、別に生活苦というわけでもないけれど、
やはりメリハリのある生活を送るためにも、
働くということは重要なのだと身をもって感じる。
このままでは、わたしもママも、
テレビを見ながらお菓子を食べているだけの、
比較的待遇の恵まれている家畜になってしまいかねない。
そうはならないようにしなければ…!
ママが応募したせいか、わたしもまた焦ってきた。
そしてまた、わたしは、ほとんど変わらない内容の求人を見つめる。
ママが頑張ろうとしているのだから、わたしだって頑張らなくてはいけない。
わたしたち親子が、無職の母娘でなくなるためにも―――。
〈終〉
無職の母娘 彼杵あいな @ainafrank
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