第7話 アレクとガザルの帰還と、その後の二人の関係について。
王都への帰還はそれなりに大変なこともあったが、おおむね順調な旅程となり、特筆すべきことは何もなかった。
これは迷宮で敗走した場合によく言われることなのだが、荷物持ちが一人で撤退しようとすると帰還率は5割を切るが、これが斥候と荷物持ちの2人が残りさえすれば生存率は一挙に8割程度まで跳ね上がる。
移動の要と拠点の要が揃うとは、それほどまでに生存に直結する重要ごとなのだ。
勇者アレクは今や斥候の上位職であるニンジャ・アサシンもかくやという働きを見せるまでになっていたから、道中は極めて安全なものとなっていた。
もちろん、ベテラン荷物持ちのガザルの優れた知見や経験が十全に生かされたことも大きい。
この半年に限ってはほとんど何の心配もない悠々の旅路であった。
「最初からガザル様と僕を中心に旅をしていれば色々面倒もなかったのでは?」とはアレクの率直な感想。
実際その通りではあるのだが、それを言ってしまうと無為に殺した52人のパーティメンバーがあまりに憐れなので、ガザルは口をへの字にしてアレクの疑問に対して返事をしなかった。
ところで半年の間でガザルが個人的に困ったことが一つだけあった。
年頃の少女というのは、僅かなきっかけがあればそれだけであっという間に「女」になってしまう。
旅の途中で新年を迎え、数えで13の歳となったアレクは今や、誰が見ても年若い娘であった。
それも、「極めてとても美しい」という最上級の形容詞を頭につける必要があるほどの。
更に数年もすれば充分に成熟した女と呼べるだけの存在に成長するのだろうが、今の時点でもすでにメスとしての芳香をあたりにまき散らすに充分な育ち具合であった。
このアレクが、はっきりと隠しもせず、ガザルに向けて愛情表現をするようになっていった。
事あるごとに抱きついてきたり、甘え声で可愛らしいおねだりをしてきたり、時には目に涙を貯めて媚びへつらうように下手に出てきたり。
すでにガザルはアレクにはっきりと伝えている。
「もともと父親不在の家庭で育ったアレクは、ファザーコンプレックスと恋愛感情がごっちゃになっている」のであり、「今のアレクは異常な環境で目の前にいる頼りになる年上の異性に縋っているだけ」であり、「ガザルはそんなアレクのいびつな恋心を分かっていて、自分の都合のいいように利用しているだけ」である、と。
更には、「ガザルにはアレクと同じ年頃の娘がいるため、どうしてもアレクを一人の女性と見ることに抵抗がある」のだと。
アレクはこくりと頷いた。
頷いたうえで、こんなことを言うのである。
「僕がガザルさんからみて恋愛の対象とならないのだろうことは分かっています。今のガザルさんが僕に優しくしてくれるのは、生き延びるための戦略だってことも分かってます。
でも、それでも今だけは、こうしてガザルさんに可愛がってもらえるだけで、どうしようもなく幸せな気分になれるんです。
嬉しくて楽しくて、こんなに素敵な事はないって思えてしまうんです。
だから、今だけは、王都に戻るまでの今だけは、僕の我が儘に付き合ってくれれば、それだけで僕は大満足なんです。
王都に戻ったらちゃんとします。
だからどうか、今だけは僕の我がままを許してください。」
涙ながらにこんなことを言ってくるのである。
最初に焚きつけたのはガザルだ。年若い彼女の精神安定にと、自分への恋慕を安易に利用したの最初だが、結果引き出した彼女の愛がずいぶんと重いものであることに、当のガゼルは頭を抱えていた。
むろん悪いのは自分だ。自分に責任があるのは分かっているが、どうにもこれはやり切れない。
もともとアレクの母親は結構な高級娼婦であったと聞く。アレクのこの振る舞いはそんな母親の後ろ姿を見て自然と身に付けたものであろうが、日陰に生きるお妾さんの愛情といったその様相にガザルは二重の罪悪感に苛まされつつ、ともかく王都への帰路を急ぐ二人であった。
王都に戻ってひと悶着あったのが、下町の妖怪、ハイエルフの婆さんであった。
ガザルとしては今代の勇者が実は「女」であるという問題から、王都ではアレクは命を狙われる危険があり、これの対策として保護を頼みに婆さんの元へ一番に足を向けたのだが、なぜか当のアレクが婆さんに一方的に責められる展開となった。
「つまりあんたは、この男ならと信じてあたしの呪いを解いたというんだね?」
「ううっ。」アレクはしどろもどろになりながらも返事をする。「そうです。」
「あんたの事情はちゃんと説明したのかい? あんたはちゃんと言質を取ったのかい?」
「事情は……。半分だけ説明しました。ガザル様との約束は……していません。」
「馬鹿か! あんたの命に関わる大事な問題なんだよ!」
婆さんが怒鳴り声を上げ、すっかりしゅんっとなったアレクが小さくなるのを、さすがにこれはと思いガザルが間に割って立つ。
「婆さん。何やら事情があるようだがあまりアレクを責め立てないでやってほしい。正直年若いアレクをそそのかしたのはオレの責任だ。なんならオレが最後まで責任を取る。あまりアレクを責めないでやってくれねぇか。」
「ほう?」婆さんが眉を上げる。「つまりあんたは、このアレクサンドラを自らの妻に迎え入れる覚悟があるというんだね?」
「は……?」ガザルは思わず固まってしまう。
「お婆様!」アレクは婆さんに向かって抗議の声を上げる。
「はあっ。」婆さんがはっきりと聞こえるほどの大きなため息をつく。「いいかい? 革職人マルスの息子、ガザル。あんたはよくわかっていないようだから説明してやるけど、そもそもあたしがアレクサンドラに掛けてやったまじないは、好きな男とのキスで解けるようなものだったんだ。ここまではいいね?」
「ああ。確かにそのように聞いている。」ガザルはこくりと頷いてみせる。
「それでここからが肝心なんだが、あたしはアレクサンドラにこう言い含めていたんだ。『この先本当に好きな相手が出来て、そのものが自分を守ってくれると信頼できる相手だと分かったなら、全ての事情を説明したうえでまじないを解くキスをするといい』ってね。ところがアレクサンドラは、あんたにすべての事情を説明していないね?」
「どうなんだろうな? オレが聞いたのは、その容姿から誘拐に会うことが多かったことと、その中で誤って人を殺してしまった過去があって、殺した相手が遠い親戚だったという話だけだ。他にも何かあるのか?」
「おや?」婆さんが驚いた様子を見せる。「だいたいの事情は聞いているみたいじゃないか。なら話は早いね。
足りないかけらは一つだけ。この子の父親は秘密にされているが、実際にはやんごとない血筋のお方で、アレクサンドラは本来あり得ない程の高貴な血を引く本物のお姫様だっていう話だけだ。
この子の誘拐は営利目的だけじゃない。お貴族様の面倒に利用するために動いているものが沢山いるんだ。この子が殺した遠い親戚とやらも、そういった手合いのものだったのさ。」
「マジか……。」ガザルはそれ以上の言葉を失った。
「僕はお貴族様なんかじゃありません!」アレクが声を上げる。「僕は下町の子供、アレクです!」殆ど泣きそうな顔になりながらも、アレクはそう主張する。
「馬鹿。」婆さんがそんなアレクの頭にポンと一つ手を置いてやる。「あんたがそのつもりでも、そうは思わない連中が周りにたくさんいるって話じゃないか。馬鹿。」
婆さんはアレクの頭をぐりぐりと乱暴に撫でまわすがその目元は優しいものであった。
婆さんはひとしきりアレクを弄ると、再びガザルの方へと向き直る。
「だからあたしはこの子に言ったんだ。全てひっくるめて守ってくれる男が出来たら、誓いのキスをくれてやれってね。
この子は勇者で、女で、更にはとても位の高いお姫様なんだ。
正直、勇者なんて話は後からついてきたはた迷惑なおまけのようなものさ。
だからあんたが責任を取るっていうんだったら、あんたはこの子を生涯かけて守らなければならない。そうして一生面倒を見ると誓わなければならない。
その為にはこの子を娶らなきゃならない。
そうでなければあたしは許さないよ。あらゆる手を使ってあんたを地獄の底に突き落としてやる。」
さらりと婆さんはそう言ってのけたが、まあ本気でガザルを地獄へ突き落す用意があるのだろう。
それでもガザルはどうにも腑に落ちない。
「結婚というのはどうなんだ。むろんオレとて一生をかけて守る心積もりはあるが、年齢差があるしオレが父親として養子に迎えるようなことでは駄目なのか?」
「駄目だね。」婆さんはぴしゃりとはねのける。「あたしの魔法はこの子が本気の恋をしたときに外れるように組んであった。つまりこの子はあんたを父親とは思っていない。
なのにあんたが今さら保護者面しようったって、そんなのは面倒を避けたいあんたの勝手な我がままだ。
あんたに選択できることは二つだけだ。
この子の意を汲んでやってちゃんとした男女の仲になってやるか、きちんと拒絶して二度と会わないようにするか。
中途半端な手助けはいらない。
あたしはこの子に真正面から本気で向き合ってくれる男を探しているんだ。
一人の男として、女であるアレクサンドラを生涯守ってくれる相手を探しているんだ。
半端にカッコつけて父親のふりしてお茶を濁そうというなら、乙女の代表としてあたしがあんたを殺すよ。」
「はあ。」ガザルとしてはどうにも歯切れの悪い返事しかできなかった。
だいたいガザルとしても、もともとはどこかで適当に悪役になって、アレクをこっぴどく振るなりし、傷つきながらも成長しいい女に育ってゆくアレクを陰で見守るようなそんな役どころを考えていたのだ。
というかそれ以前に、救世の旅の途中でアレクをかばって命を落とすような漠然とした不安が未だにこびりついて離れない。
それがどうして婚姻を結ぶような話が出てくるのか。
アレクと一つに結ばれる未来などどうにもイメージが湧かない。
「やはりどうにも納得がいかないぜ、婆さんよ。ともかく世話を見ろと言われれば喜んでするし、アレクがやんごとない出生のお姫様だというのであれば出来得る範囲で守ろう。別にオレの命を賭けたっていい。その気持ちに偽りはないと誓うぜ。
けれでもそれと夫婦になることはまるで別問題だろう。アレクにはその……。」
ここでガザルはチラリとアレクの方を見る。年若くも美しい女。今時点で相当の美少女ではあるが、あと数年でとんでもなく奇麗な女へと大化けするだろう。
「もっとふさわしい男がこの先いくらでも現れるように思う。13の若さでその時の思い込みだけで生涯の相手を選んで、こんなうらぶれた中年男に嫁いでしまっては勿体ないように感じてしまうんだ。
その……。男女の間柄にはつり合いというものがあるように思えるんだ。いい女にはふさわしいだけのいい男が番うべきだと思う。
これは別に、オレがアレクを嫌って言っているわけじゃないんだぜ。むしろ最高にいい女に育つだろうから、この俺では格が低くて釣り合わないと言っているんだ。」
これはガザルの実体験からくる率直な意見であった。ガザルの最初の結婚は探索者協会の受付嬢が相手であったが、これがそれなりに良いところのお嬢様であった。
ガザルは仕事にのめりこみ家庭を顧みなくなり、彼女は腹を立て実家へ戻った。それで最後は二人は離婚することになったのだが、そもそもの遠因はお互いの育った環境や立場などが違いすぎ、夫婦としてともに暮らす日常生活が互いに息苦しくて続かなかったのだ。
ただ愛し合っているという理由だけで人生の全てがうまくいく訳ではないと理解する程度には、ガザルは自分が大人であるつもりなのだ。
ガザルを見つめるアレクの顔が、見る見る間に涙目になってゆく。
ガザルとしても心苦しいが、やはりアレクにはもっと釣り合いの取れた男がいるように思える。
今ここではっきりと別れを告げるべきかと決意しかけた瞬間であった。
婆さんが土下座していた。
「頼む! 探索者協会の荷物持ち組若頭のガザル!
どうかこの憐れなアレクサンドラを娶ってやってくれ!
あんたの言い分もよく分かる! 間違いじゃないと分かっている!
それでもあたしはあんたにこの娘を番ってほしいととても強く願うんだ!
これはいわば、乙女の夢なんだ!」
ガザルは婆さんの様子にびっくりとなってしまう。前々から仕事での付き合いはあったものの、いつも不遜で偉そうなこのハイエルフの妖怪は、こんなふうに頭を下げるようなことは今まで決して一度もなかったのだ。
傍らに立つアレクも驚いた様子で、「お婆さん!」などと口にしつつ婆さんの脇にしゃがみこむ。
「頼む! 革職人マルクとお針子ハンナの息子ガザル!
そもそも今回の勇者パーティのメンバーにあんたをねじ込んだのはあたしだったんだ!
今回の勇者パーティは色々きな臭い様子だったから、ともかくこちら側の人間を少しでも加えさせたかったが、その枠は一つしか確保できなかった。
その時に真っ先に思いついたのがあんただったんだ。
と言っても別にあたしは、あんたに特別な働きを期待していたわけじゃない。
アレクサンドラの初恋はあんただったから、そんなあんたが同じパーティにいてくれるだけで、辛い事があってもアレクサンドラは気を強く持てるだろうと、その程度の目算だったんだ。
ところが今回の勇者パーティは相当アレクサンドラに酷いメンバーだったらしいじゃないか。
当初の想像以上にアレクサンドラに厳しい状況だったそうじゃないか。
そんな中であんたは完璧以上にやってくれた。辛い旅路でアレクサンドラの心の支えになってくれるだけでなく、アレクサンドラを最後まで守り切り、報復のために奴ら全員の息の根を止め、更には厳しい魔族領から傷一つなく王都まで戻ってきてくれた。
アレクサンドラにとってあんたは白馬の王子様以上の存在だ。
アレクサンドラにとって、恐らくこの先全ての生涯を含めても、あんた以上に愛せる男は他に出てこないだろう。
そんなあんたと結ばれるようなことがあれば、乙女にとってこれ以上の幸せは他に考えられないんだ!
頼む!」
殆ど地面に頭をこすりつけんばかりにして土下座をする婆さん。
勇者パーティにガザルがねじ込まれた経緯が婆さんであったとは意外な話であったが、そういえばガザルに今回の話を持ち掛けてきた剣豪アリュートは王太子の指南役で、王太子は若いころよく下町にお忍びで遊びにきていたという噂があったような……。
この話を深く追及するとガザルの命に関わる問題に思えたため、ガザルは考えることを止めた。
ともかくそれで、婆さんはたっぷり数分もそんな格好を続けてから、ゆっくりと顔を上げた。
その顔はいつものどこか皮肉めいた笑い顔ではなく、真剣で真っすぐなものであった。
そんな婆さんが再び口を開く。
「勇者の物語はいつだって『めでたし、めでたし』で結ぶものだろう?
今代の勇者アレクにとって、最後にあんたと結ばれることこそが最高の『めでたし』なんだ。
あんたもいろいろ思うところはあるだろうが、どうか勇者の物語に最高のフィナーレをプレゼントしてやってほしい。
むろんあたしも全面的に協力する。あたしに出来ることは何でもする。
だからどうか、乙女の夢をかなえてやってほしい。
これはあたし自身が叶わなかった、うんと若いころに自分自身では諦めた、夢物語の続きの話なんだ。
だからどうか、あたしのためにも頼む!」
ガザルは大きくため息を吐く。
婆さんのどうでもいい過去話については、突っ込むと藪蛇だろうからこの際全力でスルーする。
とはいえ、これはなかなかに難しい問題だ。
そもそも今の事態に至る経緯を思い返すに、男の子のふりをして勇者パーティに参加したアレクに対し、勇者利権に目がくらんだ馬鹿な女どもが寄ってたかって性的なハラスメント行為を行い、アレクはすっかり傷つき、女としての自分にすら自信が持てなくなってしまったことに端を発する。
この部分について悪いのはあいつらだ。アレクもガザルも何にも悪くない。
ところがそこでガザルが短期的な特効薬として、彼女の自分への淡い恋心を煽って無理やり立ち直らせようとした結果、アレクの女心はいびつな形のままここまで育ってしまった。
これについては悪いのはオレだ。責任を取れと言われればそのつもりもある。
その最高の形が婚姻であるというのならば、まあ一考の余地はある。
ガザルは別にアレクの事が嫌いなわけじゃない。この半年間二人だけで王都まで帰ってくる間、むしろこいつとはいつまでも長くやっていけそうだと、そんなふうにすら感じられるようになっていた。
アレクがうんと年若く、ガザルとの間に年齢差がある事も、今のご時世を考えればそこまで珍しい事ではないことも分かっている。
人類が極めて高度な文明社会を築いていたのは何百年も前の話なのだ。そんな時代ならガザルは性犯罪者などにされて後ろ手に縄を掛けられていたかもしれないが、魔族のような異界のものがこの世界に現れてからこっち、人類はもう当時の文明社会には戻れなくなってしまっているのだ。
ある学者の試算では、人類社会はもう二度と高度文明化できなくなってしまったらしい。
なんでも地球の頂点に立つ最強の生物が人間から魔族に移ってしまったおかげで、オレ達はもう星にまで手が届いた高度ナノカーボン文明を取り戻すことは出来なくなってしまったらしい。
だから中世然としたこんな世の中では、アレクみたいな子供とガザルのような中年が夫婦になるような話はいくらでも転がっているのだ。
ガザルはアレクを見る。
アレクは婆さんの隣で腰をかがめつつ、不安げな様子でおどおどしつつ、涙目になりながらもじっとこちらを見上げている。
この年若い娘はすっかり諦めかかっているが、それでもまだ自分への想いを残しており、僅かな望みにしがみついている様子が見て取れる。
結局は自分の心持ち次第なのだと、ガザルは考えを改めた。
「分かった。アレクがこの俺を望むのならその通りにしよう。その為に結婚する必要があるならそうしよう。
ただしすぐには気持ちの整理がつかねぇ。少しだけ時間をくれ。
そうだな。3年待ってくれないか?
3年もすればお前は一人前の女になるだろう。その時までにお前が心変わりしなければ……。」
ガザルのそんな言葉の途中で声を張り上げたのはアレクであった。
「待ちます! 待ちます! 僕! 3年でも5年でも、いくらでも待ちます!」
「馬鹿ッ!」そんなアレクの脳天に拳骨を落とす婆さん。「安請け合いする女は軽んじられるよ!」
「いたたたたっ!」
頭を抱えて痛がるアレクに、ガザルはなんだか拍子抜けしてしまった。
見た目はすっかり可愛らしい女の子になっても、こうしてじたばたするその様子は、初めて会った時の子供そのままであったからだ。
こいつは勇者でもお姫様でも女の子でもある前に、初顔合わせでガザルが「面倒を見てやろう」と決意させた可愛いアレクそのままなのだ。
ならば初志を貫徹して、最後まで面倒を見てやればいいだけの話なのだ。
それでまあ、不思議と心に覚悟が付いた。
「すまねぇアレク。3年できちんと心にけじめをつける。お前を妻に娶ると誓う。ただどうしても、今すぐは心の準備が出来ねえんだ。
だから3年だけ待ってくれ。三年後に必ずお前の望む答えを用意する。
だから頼む!」
まあ、ガザルの覚悟など、3年後に先延ばししたヘタレの覚悟ではあったのだが。
そんなガザルに婆さんは目を吊り上げたが、隣にしゃがみ込むアレクが感激のあまりボロボロと泣き崩れそうになる様子を見て、一挙に気が削がれたようであった。
ガザルはアレクのそばに屈みこみ、アレクの肩を優しく抱き寄せてやる。
「ガザル様!」そんな声を上げてガザルに身体を預けてくるアレク。
「すまねぇアレク。絶対お前を幸せにする。だからもう少しだけ時間をくれ。」
「はい、ガザル様! はい!」
そんな二人の甘々な様子に気を使ったのか、婆さんはいつの間にかいなくなっていた。
だがこれでともかく婆さんが味方につき、そこからの話はトントン拍子で先へと進んだ。
後の話は特段真面目に語ることもない。
ガザルとアレクはうまくやって、まあ魔王とはひと悶着あって思わぬ結末を迎えたが、少なくとも結びの部分は『めでたし、めでたし』で間違いがないからだ。
勇者様と荷物持ち。 すけさん @sukesan77
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます