第4話 レクト、冒険者になる

 

「起きろ~~!!」


 レクトが久しぶりのベッドで安眠していると、アンリが起こしにやってきた。


「ふぁ…」


 レクトが眠気眼で起きると、アンリとエバは外に出る準備をすっかり、済ませていた。


「いつまで寝てるのよ~

 早く準備して!」

「…あぁ~久しぶりにベッドで寝れたから…

 う~~~ん~~~」


 レクトは身体を起こし、伸びをして、外に出る準備を始めたのだった。




「…で、お前らって、どうやって、魔石を探してるんだ?

 てか、どこに向かってるんだ?」


 前をスタスタと歩いているアンリとエバにレクトは聞いた。


「冒険者ギルドですよ。

 いつも私達は依頼を通して、魔石の手がかりを探しているんです。」

「なるほどな。

 そういう情報は冒険者になれば、得やすくなるわけか。」

「そうそう~

 だから、レクトにも冒険者になってもらうよ~」


 アンリはニコニコしながら、レクトに言った。


「おお~俺もいよいよ冒険者になるのか~

 おっぱいを揉んでくださいみたいな依頼とかって無いのかな?」

「…ある訳ないでしょうが…」


 エバは呆れながら、さっさと歩いていくのだった。




「じゃあ、ここに名前を書いてくださいね。」


 受付の女性に促されて、レクトは冒険者登録書に必要事項を記入していた。


 もちろん、目線は女性のおっぱいに向けられていた。


 女性は苦笑いを浮かべつつ、レクトの記入を待っていた。


 そして、全てを書き終わった後、レクトは女性に言った。


「あ、あの…おっぱい触らせてくれませんか?」


 瞬間、レクトはエバの杖で頭を叩かれた。


「…すみません…この男の言うことは無視してください。

 とりあえず、登録証を下さい。」

「は、はい…」

「あはは~レクトはホント面白いな~」


 アンリが大笑いしている中、レクトは登録証を滞りなく受け取ったのだった。




「…やっぱり、直接聞くのって、ダメなの?」


 レクトは登録証をポケットにしまって、頭をさすりながら、アンリとエバに聞いた。


「ダメだよ~おっぱいっていうのは女性にとって、とってもデリケートなものなんだから~

 ちゃんと、お付き合いを初めて、しかる順序を経て、おっぱいってのは触れるんだよ~」


 アンリはおっぱいについて、懇切丁寧にレクトに説明した。


 レクトはうんうんと頷きながら、真剣に聞いていた。


「なるほど…まずはお付き合いをしなけりゃならんのか…

 やっぱり、おっぱいを揉むっていうのは難しいことなんだな。」

「そうだよ~~まずは女性と仲良くなるところから始めたらいいんじゃないかな~」

「…おし!!分かった!!

 まだ、俺には分からないことが多い。

 ちょっと、様子を見ることにするわ!!」

「うむ!素直でよろしい!!」


 レクトとアンリのやり取りを完全に無視して、エバは依頼リストを見つめていた。


「なんか、それっぽい依頼はあるのか?」


 レクトがそんなエバに聞いた。


「…いや、どうやらなさそうですね…

 基本的に洞窟や遺跡の調査等の依頼を探しているのですが、もうこの街にはなさそうですね。」

「ふ~~ん。

 てか、どんな依頼があるんだ?」


 そう言って、レクトも依頼リストを見た。


「…探し物調査に…浮気調査…それに、魔物の討伐か…」


 そんな中、レクトは一枚の依頼書を手に取った。


「オークの討伐依頼…」


 エバは何の変哲もない魔物討伐の依頼書を興味深そうに見ているレクトを不思議に思った。


「どうしたんですか?

 そんな普通の依頼、魔石とは関係ないでしょう。」


 レクトは真剣な表情で依頼書を見つめていた。


「…いや、ちょっとな…この依頼受けてもいいか?」

「えぇ~~そんなん関係なさそうじゃん~」


 レクトの提案にアンリは文句を垂れた。


 レクトはニヤっと笑った。


「ひょっとしたら、情報が得られるかもしれないぞ?」


 アンリとエバは何のことやらと言った顔をしたのだった。




「いや~初の依頼になるな~」


 レクトは意気揚々と街を出て、依頼書に書かれたオークの巣窟を目指していた。


「…最近、北の方にオークの群れが潜む様になったから、討伐してくれと…

 …これが、魔石と関係があるとは思えないんですが…」


 まだ半信半疑のエバだったが、レクトの妙な自信に引かれて、しょうがなくついていくのであった。


「もう~これで何もなかったら、怒るよ~

 オークだって、結構強いんだしさ~」


 アンリもうんざりした様子で、レクトについてきていた。


「大丈夫だって。

 多分、戦わないから。」

「うそだ~討伐してくれって依頼なのにそんな訳ないでしょ~」

「まぁまぁ、見とけって。」


 レクトの確信している様子を見て、尚更、アンリとエバは不安になったのだった。




「…どうやら、あの洞窟にオーク達がいるようですね…」


 3人はオーク達の住処に到着して、遠くから様子を伺っていた。


 すると、レクトはすっと洞窟に近づいて行った。


「ちょ、ちょっと!!

 まだ、準備できてないんだけど!!」


 アンリが慌てて、レクトを止めようとすると、レクトは大きな声で叫んだ。


「ユリュエィ~~~!!」


 聞いたことのない言葉にアンリは呆然としていた。


 エバは驚いた顔をした。


 レクトの声に反応して、1匹のオークが出てきた。


「…ロイウエ?」


 オークがレクトに話しかけると、レクトは笑いながら、オークに言った。


「エイ。え~ティワオリィケ?」

「…リィジェルィ…」


 そうして、しばらくレクトはオークと話し始めた。


 アンリが呆然としていると、エバが呟いた。


「…そう言えば、「守り手」でしたもんね。

 魔物の言葉が話せても不思議ではないですか。」

「マジで!?レクト、今、オークと話しているの!?」

「えぇ。どうやらどうして、こんなところにいるのかを聞いているようです。」

「…はぁ~「守り手」ってすごいんだね~」


 アンリが感心しながら、レクトを見つめていた。


 一方でエバは少し不満そうな顔をしたのだった。




 レクトはオークと次のような話をしていた。


「お前らって、普段、こんなとこいないのに、どうしたんだ?

 てか、このままここにいると冒険者に討伐されちまうぞ?」

「なぜ、お前にそんなこと言われないといけないのか!?

 お前は一体、何者だ!!」

「俺は元「守り手」だよ。

 お前らみたいな人界に迷い込んだ奴を魔界に戻す仕事をしてたんだよ。」

「…お前、「守り手」だったのか…

 …分かった…中に入れ…」


 オークはそう言って、レクトを中に招き入れた。


 そして、レクトはアンリとエバの方に振り返って、一言言った。


「ちょっと、行ってくるから、待っといてくれるか~」

「えぇ~ホント大丈夫なの~?」

「大丈夫だって言ってるだろ~」


 そう言って、レクトはオークと共に洞窟の中に入って行くのだった。




「…あんたが親分かい?」


 レクトが中に入ると1匹巨大なオークが座っていた。


「…そうだ。俺がこの軍団の長であるヅシだ。」


 ヅシという名のオークはレクトを見つめて、警戒しているようだった。


「そんな怖い目で見んなって!

 なんもしねぇよ!

 俺はレクト。むしろ、お前らに注意しに来たんだって。

 お前らの討伐の依頼書が冒険者ギルドにあったんだよ。」


 レクトは笑いながら、ヅシに依頼書をピラっと見せた。


 ヅシは依頼書を見つめたが、フンとレクトの持っていた依頼書を突っぱねた。


「…全く、人間というのは忌々しい…

 一体、我らが何をしたというのだ…」

「いや、それには全く同感なんだけど、こういうことになるのも分かってただろ?

 なんで、人界にこんな群れなしてきたんだよ?

 そりゃ、人間だって警戒するだろうよ。」


 レクトは友達感覚でオークの主と話していた。


 そんな様子のレクトにヅシはため息をついた。


「…「守り手」というのは不思議なものだ。

 人間なのに魔物の言葉を話し、憎らしいとは思えない。

 他の人間とあまりにも違いすぎる…」

「まぁ、俺も人間よりも魔物と話す時間の方が長かったからな~

 人より魔物に好かれやすいのかもしれん。

 人にも好かれたいもんなんだけどな~」


 レクトはうなだれながら、オークに話した。


 ヅシはそんなレクトの言葉を聞いて、笑い出した。


「はっはっは~お主も苦労しておるのだな。

 良かろう。

 我々がここに来た理由を話してやろう。」


 そうして、ヅシは警戒を解いて、ズシリと座って、レクトに話し始めた。


「我々がここに来た理由は連れ去られた同胞を救い出すためだ。」

「連れ去られた?」

「そうだ。

 最近、我々の住む魔界の村で神隠しが頻繁に起こってな。

 調べてみると、我らのライバルであるゴブリン族がさらっていたのだ。

 そして、そのゴブリンを捕まえて、拷問して吐かせたのだが、どうやら捕まえたオークの子供達を人間に売っていたそうだ。」

「ゴブリンが人にオークを売った!?

 マジかよ…」


 レクトは驚いて、言葉を失った。


 ヅシは怒った様子でレクトに言った。


「その人間から、オークの子供達を救い出すため、我らはここにやってきたという訳だ。」


 レクトは考えた様子で、しばらく黙った後、ヅシに聞いた。


「…その人間がどこにいるのかは分かったのか?」

「…ここより、西にある都にいるとだけ…」

「西の都か…多分、フローレンツかライフコートくらいになるか…

 おし!!分かった!!

 そいつらは俺らが助け出してやるよ!!」


 レクトはヅシに胸を張って、言った。


 ヅシは驚いて、レクトに言った。


「し、しかし、これは我々オークの問題!!お主には関係のないことだろう!?」


 レクトは頭を掻きながら、ヅシに答えた。


「いや~それがあるんだな~

 魔物と人との間のいざこざは無しにするのが、「守り手」の仕事なんだよ。

 まぁ、「守り手」ってのは神殿を守るだけじゃないってことだよ。

 てか、あんたらが人界に入って、色々すんのも俺としては勘弁してほしいとこなんだよ。

 だから、悪いんだが、後は俺に任せて、魔界に帰ってくれないか?」


 ヅシはレクトを真剣なまなざしで見つめた。


 レクトはまっすぐな目でヅシを見つめ返した。


 しばらく考えた後、ヅシはレクトに頭を下げた。


「…我々では目立ちすぎるとは思っていたのだ…

 我々の被害を最小限に抑えるためにも、お主に頼むのが、得策のようだ…

 すまんが、同胞を頼む…!!」


 レクトは胸をドンと叩き、ニコッと笑って、ヅシに言った。


「おう!!任せとけ!!」




 レクトが立ち上がって、洞窟を後にしようとしたが、ふと思い出して、ヅシに言った。


「あぁ、後、一個だけお願いがあるんだけど、いいかな?」


 ヅシは頬杖ついて、レクトに言った。


「こちらが頼んだことだ。

 無事、同胞を救ってくれた褒美はなんでも与えるぞ。」

「じゃあ、魔石の情報をくんない?

 結構、強めの魔石なんだけど、心当たりない?」


 ヅシは少し考えた後、レクトに答えた。


「…我々の村には貴重な魔石がいくつかある。

 同胞を救ってくれた暁にはそれをやろうではないか。」

「マジで!?サンキュ!!

 じゃあ、安心して待ってなよ!!

 頼むから、人界にとどまるんじゃねぇぞ?

 討伐されちゃ、元も子もないからな。」

「分かった。

 直ぐに魔界に戻ろう。

 お主もくれぐれも頼んだぞ!」

「オッケー!!

 じゃあ、気をつけてな!」


 そう言って、レクトは洞窟を出るのであった。


 続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る