第3話 初めての街
「…一カ月も一人でこの森をさまよってたんですか!?」
レクト、アンリ、エバが森を抜けながら、身の上話をしていた。
「そうなんだよ。
だから、久しぶりに人に会えた時は本当に嬉しかった…」
レクトは感慨にふけっていた。
「いや、レクト、あいつらに会った瞬間、ぶちのめしてたでしょ。」
アンリがレクトに呆れながら、突っ込んだ。
「あれはしょうがないんだよ。
生きるためだ。
滅茶苦茶、喉乾いてたから。」
「…その割には元気だったような気がするんだけど…」
アンリはジト~とレクトを見つめた。
そんな事よりもエバは素直に感心していた。
「しかし、流石は「守り手」ですね。
この森を1カ月、一人で生き残るのはそうそうできることではないですよ。」
「レクトってそんなすごいの?
まぁ、私達はそんなに奥に行ってないから、分かんないけど?」
エバは半信半疑でレクトを見つめた。
「この森は高ランクの冒険者しか、立ち入りを禁止されているくらい危険な森なんです。
基本的に魔界に近くなればなるほど、魔物が強くなりますからね。」
「そうなんだ。
…ところで、レクト…いい加減、胸見るのやめてくんない?」
レクトは二人が話している最中、ずっと、アンリの大きな胸を見つめていたのだった。
「ち、違うって!!
分かってるんだよ!!偽物だってのは!!
でも、いざ、目の前にするとどうしても目が行っちまうんだよ!!
俺といる時は元に戻してくんない?」
「えぇ~嫌だよ~
私もこの胸、気に入ってるんだから~」
レクトとアンリが言い合いをしている中、うんざりしたエバは杖をアンリの胸にかざして、元に戻した。
「あっ!!なんで!?
エバ、元に戻してよ!!」
「…これが、あなたの元々の姿でしょうが。
まともに話すこともできないので、しばらく、この魔法は封印します。」
「えぇ~~マジで~~~」
レクトはホッとした様子だった。
「いや~ありがとな。エバ。
助かるわ。」
エバは相変わらずゴミを見るような目でレクトに言った。
「…あなた、街に着いても、所かまわず、胸を触りに行こうとしないでくださいね。」
「当たり前だろ~
ちゃんとお願いするって~」
「そんな気軽にお願いもしちゃダメなんですよ!!
…全く、あなたには常識ってものが無いんですか…」
エバは早く、この男から離れたかった。
レクトはムッとして、エバに言った。
「それなりに常識はある方だと思ってるぞ。
基本、「守り手」ってのは暇だから、本ばっか読んでたし。
それなりに世の中のこととかには詳しいぞ。」
「ホントですかぁ~
全く、信用できないんですけど…」
エバの疑った様子を尻目に、レクトは胸を張って行った。
「ただ、人付き合いに関しては全く分からん!!
なんせ、身内以外とはほとんどしゃべったことないからな!!
だから、そこらへんを教えてくれたら、助かる!!
おっぱいを揉むために必要な人との触れ合い方を教えてくれ!!」
エバはうなだれて、レクトに答えたのだった。
「…じゃあ、しばらくは黙ってて下さい…」
そうして、一行は森を無事に抜けて、森の傍にあるルッツォと呼ばれる街に到着した。
ルッツォは「最奥の森」に最も近い街で、辺境ではあったが、森の豊富な資源を活用して、活気ある中々大きな街だった。
「おぉ~~やっぱり、ここって人多いんだな~
噂では聞いてたけど。」
レクトは周囲の人を見渡しながら、楽しそうだった。
アンリはふと気になって、レクトに聞いた。
「噂って、身内の人はこの街に来てたりしてたの?」
「いや。時々、来てくれる行商人に話は聞いてたんだよ。
後は地理についての本をあらかた読んだからな。」
エバはレクトの話を聞いて、驚いた。
「行商人が来てたんですか!?最奥の森の深部まで行く物好きな行商人もいるんですね…」
「あぁ。なんか、俺んちの近くでしか取れないような薬草だったり、レアな動物の毛皮だったりがあるみたいで、それと交換で服とか食料とかもらってたよ。」
「なるほど。リスクに見合った報酬があるということですか。
…ところで、あなた、お金は持っているのですか?
その話ぶりからすると、どうやら金銭ではなく、物々交換していたようですが…」
「お察しの通りだよ。
一文無しだ。
一応、森に出るまでに換金できそうな薬草とかを適当に取って、持ってきてるけどな。」
レクトはそう言って、ポケットから雑に薬草を取り出した。
エバが薬草を見つめて、また驚いた。
「…これは!!「エリクシル」じゃないですか!?
もっと丁寧に扱ってくださいよ!」
「ん?「エリクシル」って何?
そんなすごい薬草なの?」
アンリがアホそうな顔でエバに聞いた。
そんなアンリを見て、レクトとエバは呆れて、レクトがエバの代わりに答えた。
「…お前、マジか…
…「エリクシル」ってのはどんな病気も治すって言われてる、所謂、万能薬の元になるもんだよ。
この薬草が取れるのはこの世界でも、俺の住んでた「最奥の森」の奥地か、「祭壇の聖域」辺りくらいらしいな。
人の手の届かないような汚されていない辺境の地にしか生えない薬草なんだよ。」
「へぇ~そうなんだ~」
アンリは分かっていないのに、分かった風な顔をしていた。
エバは適切な説明をするレクトを感心した様子で見つめた。
「…どうやら、本当にそれなりの知識はあるみたいですね。」
「だから、言ってんだろ~
常識はある方だって。」
「…常識と知識は似て異なるものですよ…
まぁとにかく、その薬草を換金しに行きましょう。
その後、今日泊まる宿を探しましょうか。」
「賛成~~もうヘトヘトだよ~~」
「おぉ~ようやく、普通のベッドで寝れるのか~」
そうして、一行はまずはレクトの金銭面を整えるため、薬屋に向かったのだった。
「…結構、金になったな。
まぁ、相場は知ってたけど、持ってきておいて良かったわ。
これで当面は何とかなりそうだわ。」
3人は宿を見つけて、泊まる手続きをしてから、晩御飯を食べていた。
「…ところで、あなた、「守り手」なんですよね?
「守り手」がこんなところにいていいのですか?
今、誰が神殿を守っているのですか?」
エバがスプーンを持ちながら、肉にかぶりついているレクトに質問攻めした。
レクトはモグモグしながら、エバに答えた。
「大丈夫だよ。妹が守ってるから。
妹は俺より、「守り手」向きだしな。」
「へぇ~レクトって妹がいるんだ~
両親はどうしてるの?」
「両方とももう死んじまったよ。
今は妹、一人で守ってるよ。」
アンリは何の気なしに質問したことを後悔して、食べようとしたパンを口から離した。
「…ご、ごめん…
…やっぱり、「守り手」って、危険なんだね…」
「ん?いや、親父もおふくろも病気で死んじまっただけだぞ?
普通に天寿を全うしたよ。
何度も言ってるけど、「守り手」って、結構暇なんだぞ。」
「へっ?そうなの?」
「あぁ。たまに話聞いてくれない強い魔物が来るときがあるから、修業は欠かせないけど、滅多に来ないしな。
言うほど、危険って訳でもねぇんだな、これが。」
「あはは~そうだったんだ~
じゃあ、妹さん一人でも大丈夫だね~」
アンリは安心して、笑って、パンを頬張った。
エバは納得のできていない様子だった。
「妹さんが「守り手」向きというのはどういうことですか?」
レクトはやたら質問されることにうんざりした様子だった。
「…なんで、お前はそんなに気にするんだよ…
妹はお前と一緒で魔法を主軸とした戦い方するからな。
俺は魔法は初級しか使えねぇから、大勢で来られた時、対処が難しいんだよ。」
「なるほど。あなた、本当にそれなりに賢いんですね。」
「…お前は素直に褒められないのか…
それに、妹は魔法の天才だからな。
多分、お前と同じくらい強いよ。」
そう言って、レクトは持っていたフォークをエバに向けた。
エバは一瞬、ムッとしたが、一口スープを飲んで、落ち着いて、レクトに言った。
「…そうですか。
それなら、安心ですね。
私と同じくらい強いなら、あなたよりかは強いということですからね。」
「…なんか、腹立つな…」
レクトは質問に答えたのに、エバの態度が横柄なことにイラッと来た。
そして、逆にレクトはエバとアンリに問いだたした。
「じゃあ、こっちも質問させてもらうけど、お前らって、エバの宝物を探す旅をしてるんだよな?
その宝物ってのは何なんだ?」
アンリは笑いながら、レクトに答えた。
「あはは~宝物は宝物だよ~」
「いや、それだけじゃ分かんねぇよ!!
もっと、具体的に教えてくれよ!」
すると、エバがため息をついて、レクトに答えた。
「…私達が探しているのは魔石です。
それもただの魔石ではありません。」
「…確かに、あいつらから奪った魔石はかなり強い魔力が込められてるっぽいけど、そんな特別なものなのか?」
「だから、奪ったんじゃないです!!
取り返したんです!!」
エバは机に身を乗り出して、レクトに言った。
レクトは急に興奮しだしたエバにたじろいだ。
「わ、分かったって!
つまり、元々、エバのものだった魔石を集めてるってことか?」
エバは取り乱したことが恥ずかしくて、椅子に座り直した。
「…そういうことです…」
「でも、なんでそんな大事な魔石を手放したんだよ?」
エバは少しだけ黙ってから、しょうがないと魔石を取り出して、レクトに聞いた。
「…あなた、魔石がどうやってできるか知っていますか?」
「生き物が死んだ時の「エレメント」の塊が魔石だろ?」
「その通りです。
この世に生を受けた者はすべからく、体内に「エレメント」を持っています。
その「エレメント」と自然の力を結びつけるのが「魔法」。
そして、生物が命を失った時、つまり、身体的機能を失った時に、体内の「エレメント」が身体を飲み込んで、「魔石」になるのです。」
「それくらい知ってるって。
それが、何なんだよ?」
アンリは訳が分からないという顔で完全に話に取り残されていた。
エバは真剣な表情でレクトを見つめた。
「…私が探しているのは、私の母親の「魔石」です。」
レクトは食べていた肉を皿に乗せて、黙って、エバの話を聞いた。
「…母は強力な「エレメント」の持ち主でした。
ですが、私の目の前で魔物に殺されてしまったのです。」
エバは話しながら、ギュッと持っていたスプーンを力強く握った。
「…母の命が奪われた瞬間、「魔石」となったのですが、あまりに強力な「エレメント」であったため、「魔石」は一つの個体として維持できず、バラバラに砕け散ったのです。
…情けないことに幼かった私はその場で隠れることしかできず、ただ、その魔石を奪われていく様子を見つめることしかできませんでした…」
レクトは納得した様子で、口を開いた。
「…なるほど…
お前達が探しているのは、エバの母親の「カケラ」ってことか…」
「…そういうことです。」
エバが話し終えて、一口、スープを飲むと、アンリが泣きながら、エバに抱き着いた。
「づらがったよね~~
がなじがったよね~~
大丈夫だよ!!絶対、全部、みづげでみせるがら~~」
エバは慣れた様子で、エバの頭を撫でながら、レクトに言った。
「…とまぁ、こんな感じで、この子もついてきたという訳です。」
レクトはアンリの事を一言で済ませられたことに苦笑いした。
そして、レクトはニカッと笑って、エバに言った。
「オッケー!了解した!
おっぱいのためにも、お前らに付き合ってやるよ!!」
エバは呆れて、頭を抱えたのだった。
「…本当にこの男は必要なのでしょうか…」
続く
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