第27話 番外編 バレンタインのお姫様(姫目線 高校二年時)

 1月末になってもまだあまり佐藤さんに近づく事ができていなかった。でも、女子には大きな味方、バレンタインがある。


 お母さんの台所時間の隙間を縫って試作を重ねる日々。生チョコ、マシュマロ入りクランキーチョコ、クッキー、ガトーショコラ、チョコプリン。杏仁豆腐にチョコ掛けは似合わなかった。


 特別さと可愛いさを考えてクッキーをガトーショコラに載せると決めたのは11日の事だった。


 13日はわきめもふらずに帰って頑張る。ピンクのハートのクッキーは6つも作った。本命の失敗は許されないもの。渡す相手も考えなきゃいけなかった。何人かの女子達と友チョコの約束をしたけど、男子が佐藤さん1人だけとすると周りからすぐに揶揄わからかわれて下手したら佐藤さんが逃げてしまうかもしれない。お礼という形を取って一緒に係や委員会、部活でお世話になった佐藤くん、矢田さん、林さんに渡す中でさりげなく佐藤さんに渡せばおかしくないかと。そう、私は意外と腹黒いのだ。


 そこで、いつも佐藤さんと矢田さんと相井さんの3人が一緒にお昼を食べているのを思い出した。相井さん、1人だけ渡さないとかまずいよねぇ。


 載せるクッキー…他の男子は全員ペンギンでいっかー。目、書いてみたけどあまり可愛いくないからやめるか。女子はくま、りす、ダイヤ、クローバー。スペードの形はちょっと、いや、香織ちゃんスペードでめつ。よし。あとは、袋に宛名を書かないとスペードを間違えて佐藤さんに渡すとかまずすぎる…。


 そんなこんなで、準備万端!14日!


 朝、早くに林さんが来ていたから渡した。


「文芸部の部誌の挿絵ありがとうございました。これはお礼です。」


「はーい。ありがとう。お役に立って何より。」


そんな普通な出来事だったはずだった。なんだか雲行きが怪しい。クラスの男子数人が1限目の終わりに林さんをひきづって消えていった。帰ってきた林さんは疲れた顔をしていて、男子達はすっきりした顔をしている。他の女子達もチョコを配ったりしていて、私は気づいた。


 私のチョコ大きい。


紀ちゃんに渡しながら、


「なんか、私の大きい?」


と聞いたら、


「うわー美味しそう。ガトーショコラ!気合い入ってる感じ。本命っぽい。待って、サワくんには渡さないよね?私のが霞むじゃん。」


と言われた。


「佐和山さんには無しだよ。世話になった男子に渡すだけだから。」


というと良しとうなづかれた。危ない。大きさか!皆、義理は小さいんだ!林さん、私のが大きいばっかりに本命渡されたって誤解されて追求されたんだ!クラス内カップル調査みたいな?迷惑かけちゃった。林さん、彼女さんいたらごめんなさい。弁解させて下さい。義理です。林ならぬ森に隠すの森にしたばっかりにやっちゃったー。なら、どうやってこれから先渡せば良いのかしら。


 で、考えたのが、矢田さんに残りの男子分全部渡して配ってくれるように頼むこと。そうすれば、矢田さんが配っているように見えるから騒ぎは起こらないはず。


 昼休みになってすぐに矢田さんの席へ向かった。


「矢田さん、これ、委員会の仕事でお世話になったお礼です。その節は助かりました。申し訳ないのだけど、これ、配って欲しいの。お世話になった人達へのお礼なの。なんだか私が渡すとおかしく思われるみたいだから。」


そう頼むと矢田さんは癒し系の顔でニコッと笑って、


「いいよー。」


と言ってくれた。そうだ!大事な注意を。


「これ、佐藤くんが佐藤一くんの方で、佐藤さんが佐藤亘一さんの方なんだけど、わかりにくいかしら?下の名前も書いた方が良い?」


すると、紙袋の名前部分をチラッとみた矢田さんは、


「大丈夫だよ。俺も佐藤くんと亘一って呼んでるから。なんかあっちはくんって感じだよねー。」


と言ってくれた。良かった。矢田さんは話しやすくよく分かってくれる。


「お願いします。」


「了解」


これで、少し佐藤さんに近づけたら良いなー。話すきっかけとか欲しいな。











 

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