第30話 スピンオフ タルタルエビは知っている2

大崎目線


 何故姫の相手は自分じゃなかったのだろう。


 毎朝、2人でとりとめのない会話を交わしていた。ただの「おはよう」だったり「花瓶の花はもう取り替えるか」だったり、黒板を彼女が消している時は手伝った。早朝の教室。2人だけの時間。


 姫がバレーの練習試合を観戦しているのを見た時は俺だって張り切った。上田さんから聞いた話によると2年の体育祭のパフォーマンスでの亘一のジャンプに惚れたとか。何故近くでジャンプしていた俺は目に入らなかったのか。修学旅行のビーチバレーでも亘一にトスをあげてたのは俺だ。シックスパックの俺の肉体美は見てくれなかったんだろうか。


 などとつらつら考えても姫は亘一と付き合っている。


 この6月の県大会地区予選で負けた時点で部活は引退になる。そうしたら頭を受験に切り替えていかなきゃいけない。恋愛なんかしている場合ではなく姫と亘一は付き合い始めたタイミングは最悪だと思う。卒業後は?進路はどうするのだ?あの2人は。そうは言っても見てしまうと辛くて羨ましいものだ。


 その日、部活後の片付け確認と顧問への報告は俺が当番で人が少なくなった校門を出て駅へと向かった。


 そして一つ傘の中にいる姫と亘一を見てしまったのだ。


 亘一はチャリを止めていてレインコートを着ていて、2人は何やらそこで話し込んでいるのだが、姫が自分の傘を亘一に差しかけているのだ。レインコート着ているんだからいらんだろと思うんだけど、背が低い姫が一生懸命、手を伸ばしていて、大丈夫だよってイイ男風に亘一が笑って応じててそのうち姫の手をそっと包むように亘一が傘を持って、濡れちゃうよとでも言うように姫の方に寄せるという。


そこで2つの選択肢があった。

①「よっ亘一!」と気づかないふりをして声かけして邪魔をする。


②黙って別の道にそれる。


どっちを選択するか。②を選択しようとしたその時後ろから


「先輩、いきますよ。」


と女子の声がして俺の傘に勝手に一年女子マネの田中真帆(あだ名はタルタルエビ)が入ってきた。自分の傘を畳んで


「相合い傘であの2人を圧倒しましょう。」


という。


いや、まじか。

そのままグイグイと田中マネに引きづられるように亘一カップルの前を歩く事に。


「佐藤先輩、お疲れ様です〜。」


にこやかに田中マネが挨拶をする。隣の俺をみて目が点になり、畳んで持っている田中マネの傘と相合い傘の俺達を交互にみやる亘一。

姫は口を片手で覆いつつ、ミーハーな目で俺をみる。なんか絶対誤解された。なんかやけになった。


「真帆、もうちょっとこっちよれ。全く相合い傘がしたいだなんて濡れないようにしろよ。じゃ、亘一、またな。」


カップル風を装うしかないじゃないかー。


しばらくそのまま歩いて亘一達から見えなくなったあたりで、


「田中マネ、帰りの方向あってるか?」


と彼女の方を見ようとすると、俺の腕に頭をぐりぐりしてきて


「カッコいいです。大崎先輩。真帆って呼んで下さい。」


なんて言ってくる。


あれ?胸に何か刺さった。可愛いかも…。



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