第12話 亘一 ハエ叩き

 姫が俺の席の側を通る時思わず落とした不在の隣席の荷物を拾うのを手伝ったら、


「ありがとう」


と言ってくれた。ロッカーでたまたま一緒になったら


「次の授業なんだっけ?」


って聞いてくれた。教室掃除を一緒にしてたら、


「背の高い佐藤さんにそのほうきは小さいからやりにくいでしょ」


と言って自分が使っているほうきと取り替えてくれた。今になって姫が供給過多だ。不意の供給過多に俺が胸を押さえて悶絶もんぜつしていると


「そんなんで大丈夫か?あっちでかなり仲良ししてるぞ」


と冷静な相井に現実に引き戻された。


 そう、目の前には姫を供給されても、すぐに冷めてしまうくらいイライラな現実が広がっている。


 ペアワークって何?グループ学習って何?勉強に相談って必要なの?なんで事あるごとに佐和山と姫が話すの?授業中から休み時間まで、2人がケンカをまじえてジャレている姿が、現実だ。しかも、佐和山のカノジョは楽しそうに参加してて怒らない。その和気藹々わきあいあいとした雰囲気が人をよびサボテン男(サボテンに外見が似ているから俺が勝手に命名)が参加するようになってしまった。すっかり男女仲良し4人組の出来上がりになっているじゃないか!千歩譲って佐和山はカノジョ持ちだから姫に手を出さないとしても、サボテン男はフリーダムだ。俺には姫によるハエにしか見えない。


 ハエは叩いて抹殺しないといつまでもうるさい。幸い、体育の授業がバレーだったからサボテンめがけてアタックを何発か打っておいた。かなり怖かったのかそれから俺が睨むだけで、逃げるようになった。サボテンハエ男の駆除は存外ぞんがい簡単だった。


 問題は佐和山だ。奴は今は陸上部だが中学時代はサッカー部だったとかで運動神経が無駄に良い。俺のアタックも悲鳴をあげながらレシーブしたりしてついてくるのだ。脅しようがない。そして、明らかに俺を挑発している。そんなに姫を構っているならカノジョと破局してしまえと呪いを吐きかけてそれでフリーになるのも不味いのではと気づいて堂々巡りのぐーるぐる。姫の供給過多もあって俺の期待が高まるから、さらにねじれスパイラルな状態に陥ってしまっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る