第10話 坂の上の亘一

 春休みは部活三昧と決めていた。高校最後のインターハイに向けて気合い入れ直しだ。そんな中、マネージャーの上田さんが彼氏からホワイトデーにもらったという指輪を着けていた。「学校だからはずすべきだ」とか「見せて」とかマネージャーたちの間で騒ぎが起こってしまった。一応、部長としては風紀というものがあるから、やはりつけない方向で話をおさめた。


 再び坂道ダッシュ(別名パンチラ覚悟坂ダッシュ)に戻ろうとしたところで、上田さんに呼び止められた。


「佐藤はさ、返したの?ホワイトデー」


「は?えっ?マネージャー達には部員連名で返したろ?あれじゃだめ?」


「違うよ。蔵瀬ちゃんだよ」


 姫の名前が出て息が止まるかと思った。黙って上田さんを凝視すると、


「上手だよね。お菓子作り。クッキーもガトーショコラも。あれ、クッキーが人によって違うらしいよ。」


 そんな情報を上田さんが持っているとは。姫と大分仲良しなのだなと感心しつつもなんと返したら良いか分からず、言葉に詰まって黙っていると


「私はね、お幸せにってクローバーのクッキーだった。まあ、今のとこ絶好調だからさ。

でも、相手が歳上だと時々心配になる。会える時も限られちゃうし。だから指輪を外したくなかったんだけど、まあ、仕方ないよね。」


寂しそうに外した指輪をいじりながら眺めている。ちょっと可哀想かなとは思うけど、アクセサリーは校則で禁じられている、部活も学校生活の一端だ。


「その外したの、無くすなよ。」


と忠告するのが俺にとっては精一杯だ。


「大丈夫だよ。カバンに、しまってくるから。でさ、佐藤は何がのってた?」


姫の話に戻されてしまった。がっちり写真まで残してますとかいえるか。てか俺もらったとは一言も。


「もう、食べちゃったし、1か月も前だし」


この返しで許してもらおうと、坂道に戻る意志を見せて歩き始めた俺に上田さんは


「ピンクのハートは本命らしいよ。あー言っちゃったー。」


と爆弾を投げ終わるがいなや、体育館へ踵を返して走っていった。


 まて。へっ。いやひとまず走ろう。


 猛スピードでパンチラ覚悟坂ダッシュのノルマをこなしたが、落ちつかない。部長の任務はとりあえず副部長の大崎に丸投げしてスマホに保存されてる写真を確認しに行ったとしても仕方ないよな?

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