第9話 亘一 円周率

 姫のピンクのハートのクッキーがのったガトーショコラは何枚も写真を撮ってから美味しく頂いた。試作の効果か姫がもともと上手なのか義理とは思えない出来で期待が募るつのる味だった。


 しばらく男子達の間で、長いマシュマロはなんだったのか誰が本命だったのか議論が続いた。何故か、あえての本命に渡してない説まで飛び出し誰もが自分が本命だと主張したまま解決をみなかった。


 もらった方としてはお返しをしなくてはならない。調べに調べた。マカロンは特別、キャンディは好き、クッキーは友達、チョコは同じ、マシュマロやグミは嫌い。一歩間違えるとホワイトデーのお返しは惨事だ。


 当日、朝から機会を狙ったのに美術部男子に先を越され、矢田と相井は気が利かない体だから返さないというし、あっちの佐藤は堂々と渡してるし。そうこうしているうちに放課後になり下駄箱で待機することにした。


声をかけようとしたが、イヤホンを耳にスマホをいじりながら早足で帰る姫に完敗だ。隙がなさすぎる。姫を下校時に捕まえるのは難しいと一緒に委員の仕事をした事のある矢田が愚痴っていたのを思い出し納得してしまった。


 部活で何にも考えられなくなるほど身体を動かして帰宅すると、機会を失ったチョコはリビングのテーブルに放り投げた。きっとそのうち姉ちゃんが食べてしまうだろう。


もう、春休みだ。 

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