第7話 亘一 短絡おこす
ぢは完治した。母の愛のおかげで。
ただ、ドーナツ座布団以来、姫の視線を感じるようになった。嬉しい意味ではないのは重々承知で、もういろいろ切り替えていこうと思った。何事も治りが早いのが長所だ。幸い、バレー部の方が好調で、勝ち進んでいる。この一月末は近場の四校との合同練習試合があって中学時代の同級生と戦うのでかなり燃えていた。
その俺の燃え火がいい感じで消火されてしまったのは試合中盤でサーブを決めた後だ。
「やったね、亘一!」
とガッツに飛んだ母の声にやっぱり来てたかーと思いながら無視を決めこむ。恥ずかしいから帰れと意思表示を二試合目の前に示そうとした時だった。母のとなりにグレーのコートを着た姫が座っているのを発見してしまった。
よりによって一緒に観戦。かつ仲良く話している。そこにマネージャーまで話しに行っている。頭の中がショートした。そっからどう戦ったか覚えていない。チームは勝ったし「今日の亘一は切れ味最高だ」とか顧問が言ってたからミスはしてないらしい。
家に帰るとご馳走で、母が上機嫌だった。上機嫌な理由は俺の活躍ではなく、活躍したからご馳走とか言い訳していたが、女子高生の恋バナに参加できたかららしい。
これを亘一に話すのはまずいのかしらねーとか言いながら、反応が薄くても話したがりな母は話すのが常だ。
要約すると女子マネの上田さんは今日も来てたバレー部OBの渋谷さんの彼女で、デート現場を姫に発見された。親には内緒な関係だから口止め的に今日の試合に姫を呼び渋谷さんをどう思うか相談してたらしい。
「あれは、もうやっちゃってるね。」
突然の母の発言に口に入れたハンバーグを吐き出す所だった。ハンバーグソースまみれにむせる俺に
「あらまあ、汚い」
と言いながら、布巾を投げて寄越した。
「あらっ、ごめんなさい。亘一には刺激が強すぎたわねぇ。美咲と話そっと」
俺を見限った母はまだ、バイト中であろう大学生の俺の姉にSNSを送りはじめた。
そそくさと食事を終えると、自室に戻ることにした。今日は休日出張で父も帰りが遅い。汗臭いからと帰宅後すぐにいつも風呂に押し込められてるから、もう寝ちゃっても構わない。いっそ寝るか。あの母も面倒だ。
そして長かりし睡眠は俺に悪夢を呼び、ちっともスッキリさせてくれないのだった。
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