第2話 亘一流される

 メガネとマスクで表情は分かりづらいし、人に話しかける事もないから教室の地味キャラだとばかり思っていた姫は意外と人気があった。


 席が近くになってグループ活動とかするとどうやら甚くいたく可愛い声で話してくれるとか。ウィットに富んだ返答をしたり、時々ツンデレ発動したりするからもう身悶えみもだえしちゃうくらい可愛いらしい。しかも皆、姫呼びしていた。どこか品が漂う所作をするからとか。


 修学旅行でもボッチ行動してソーキそばを食べている姿を発見した男子達がこっそり囲むように見守っていたとか。


 だから


「「なんだーお前もようやく姫の魅力に気づいたかー」」


と俺の一世一代の恋は皆に軽く流されてしまった。


 そして修学旅行から帰って席替えをしても俺が姫と近づく事は叶わなかった。焦っても女子達の冷ややかな目と苦笑が俺を怖気おじけさせた。だから姫を遠くから見つけるのは上手になってしまった。


 11月末になっても、俺はまた近くの席にすらなれなかったが、仲間が彼女の隣と前になるという機会が訪れた。俺は毎休み時間そこに通い昼ごはんもそこで食べる事にした。


 姫はあまり場所を動かないで、友達とわいわいよりはゆっくり自席で食べる派だ。ごはんの時はマスクを外すからずっと顔を眺める事ができた。筋の通った高めの鼻やぽってりとした唇でゆっくり咀嚼そしゃくしている様子は眼福だ。黙って眺めていると仲間にヤバイと何度か頭を叩かれた。休み時間、おしゃべりな俺の仲間と時折会話していて可愛い声を聴くこともできた。


 幸せだった。

 

 しかし俺は気づけばそのまま姫と一言も会話を交わす事もなく年を越していた。

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