第5話
「ゲロ」5
ただ虚しいー。
北風に乗ってくる童は悲しげに俯くのである。
南風に揺られる老人は微笑みながら下界を眺める。
影に潜む虫たちは互いに貪り食い陽に当たる獣は獲物を分け与える。
夜に舞う蝶は闇夜の中で光りを求めて彷徨う。
女衒達はゲロを踏んでも気付かないで朧気な夢を高額で売り付ける。
無い物に支配されてきた人々は自らを見下しては他人を見下す事を繰り返す。真実よりも無い物に囚われていて己を鏡に映すことはしないで他人の肉と血を貪る餓鬼となる。
修羅の道を歩く者が求めるのは修羅の道である。極楽などに魅力を感じないのである。極楽とはその場に立ち止まる事である。景色も変わらず時が流れるままに身を任せる生き方が極楽なのである。変化のない生き方が極楽なのである。
地獄とはゲロまみれで心も身も腐った者が生きる世界である。
ビルからでも巨木からでも滝からでも何処でも良い。俺が選んだのは大久保にある雑居ビルだ。
遺書には「最初に見つけた人にあげる」とノートに書いて全財産の138万円が入った財布を上に置いてビルから飛んだ。
ただ虚しかった。
この世に何も無い事に気付いたからリセットすることにしたのだ。
地面に落ちる瞬間、自分の着地点にゲロがばら撒かれているのが見えた。
おわり
ゲロ 門前払 勝無 @kaburemono
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