第4話
「ゲロ」4
粋がる。
嘘は誰でもつくものだ。しかし、嘘はスプリングのようなもので自分に跳ね返ってくる。
本当は弱いのに強がって見るのは粋がるとは少し違う。だが、弱いままでは前には進めない。強くならきゃいけないのである。弱いから強くなるのである。
粋がって強く見せて負けて負けて強くなるのである。
中学生の幹太はブラウン管に映るリングスの試合に見入っている。ヴォルクハンとハンスナイマンを足したら最強になるな…でも、カレリンに勝てるかな…俺はどっちのタイプだろうか立ち技か寝技か、そう考えると前田日明が最悪だな…。
前田日明になるにはまずはアイパーかけないといけない。見た目から前田日明にならないとだなー。
幹太は近所のパーマ屋で値段表を見るとパンチパーマ、アイパーは9500円と書いてあった。
「くそ、無理だな」
幹太は三千円をポケットの中で握り締めた。
六時まであと2時間である。
この日は六時に河川敷にて学校のナンバーワンを決めるタイマンがある。幹太は喧嘩自慢四人をタイマンで下して次がナンバーワンを決める対決なのである。その為に強くならきゃと思っている。
相手は空手を習っている安井君である。
作戦は数発安井君の打撃を受けた後に締め落とすと決めているが、幹太には技が無い。幹太は何も習っておらずリングスを見ながら友人に技の練習をしているくらいなので安井君に勝てる気がしていない自分が居るのである。
「よう幹太!何やってんだ」
溜息を付いていると先輩の香川さんが話し掛けてきた。香川さんはおかもちを持って白衣を着ている。
「バイトっすか?」
「おう!俺は美味いラーメン屋になるだ!今は修業中だよ」
香川さんは楽しそうに話している。
香川さんは前のナンバーワンである。3年の二学期に隣の学校のヤツとタイマンしてナイフで刺されて入院していたが喧嘩には勝ったという伝説を残している。
「香川さん!強くなるためには何が必要ですか?」
香川さんが少し考えてから
「喧嘩しないで耐えれる人間が一番強い人間だ」
「え?」
「喧嘩しないで相手と仲良くなって苦楽を共に出来る人間が一番強いと今は思ってるよ」
「それじゃナンバーワンは決められないですよ」
「譲れよ。ナンバーワンになる必要は無い」
「香川さんはナンバーワンになったからそう言えるんですよ!」
幹太は香川さんの横を素通りしてその場を後にした。
午後六時ー新河岸川の河川敷にて。
安井君と幹太は数人の不良少年達のギャラリーに囲まれていた。
「おう!幹太!覚悟できてるんだろうな」
「安井こそ泣くんじゃねぇぞ」
二人の殴り合いは始まった。
安井のパンチを数発受けて安井の学ランを掴もうとしたとき、鋭いレバーブローを受けて幹太は沈み込んだ。息が出来なくなり立ち上がろうにも膝に力が入らなかった。幹太は気力で四つん這いになりながら安井君へ向かった。
安井君は容赦なくパンチやキックをしたが幹太の怯まない姿勢に恐怖を覚えて心配になってきた。見ているギャラリーも心配そうに見つめている。
安井君は殴るのを止めて幹太の背中を摩った。
「幹太大丈夫か!息できるか?」
安井君とギャラリー達は幹太に寄り添ってデブで力持ちの高田が幹太をおぶって皆で学校へ向かった。
保健室へ幹太を連れて行き椅子に座らせると安井君へ幹太がゲロを吐いた。
その場に全員が連れゲロを吐いたー。
つづく
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