魔境の家、星のとどろき

あきたけ

魔境の家、星のとどろき


 四方を、薄汚れた壁に囲まれた部屋の中に、僕は生まれてからずっと住んでいた。


 天井が無く、野ざらしに近い状態であったのだが、雨などはほとんど降らない。


 ごく稀に、雨や雪が降る時がある。そういう日は、壁の出っ張りに身を隠して、雨や雪をしのいだ。


 日に一度、巨大な鳥が上空を通って、僕に食事をくれる。


 毎日、毎日、うまい具合に、巨大な鳥は僕の家の中に、食料を落としてくれるので、食べ物に困ったことは一度もない。


 巨大な鳥で、尾は長く、虹色に輝いている。


 くちばしは黄金で、猛禽類に近い鋭い目付きをした名も知らぬその鳥が、僕を養ってくれる親のような存在だった。


 ボスン、と銀色の弁当箱が、その鳥から落ちてくると、僕はがめつく。


 食事は美味しい。

 白米と、肉と、スープと、野菜などが一箱にぎっしり詰まった弁当箱。


 毎日、毎日、鳥は僕の家の上空を飛行する。


 夜になれば、満点の星空が見える。紺碧の広大な空は、あまりに圧倒的で、自分自身の未熟さを痛感するような、そういう悲壮感に包まれる日もあった。


 しかし、明くる日、あの美しい鳥が上空を通過し、僕に食事を運んでくれる頃になると、そんな悲壮感などどこかへ消えてしまうのだった。


 壁の出っ張りの下は階段になっている。降りるとトイレと風呂がある。


 どこから水を汲んでいるのか分からなかったが、風呂とトイレの間に、小さな蛇口があって、ひねれば水は無限に溢れた。


 その為、僕は水にも苦労したことは無かった。


 この生活が、永遠に続くことだろうと僕は直感していた。


 しかし、なんだか何時でも僕は憂鬱で、この固定化された日常に飽きてきた。


 鳥は美しいし、食料は美味しいし、星は美しいのに、この壁の外側に出て、もう少し広い世界を実感しなくてはならないような気がしていたのだ。


 ただ、同時に安定が崩れるのは恐ろしい気がしていた。


 ここでもし、壁の外側に出てしまえば、もう確実に引き返すことができないような気がして、それが堪らなく恐ろしかった。


 その自己の恐怖心が、今尚、外側へと駆り立てる探究心阻害していたのだ。


 しかし、もう僕は恐れない。何かあれば引き返せば済むことじゃないか。全く恐れることは無いぞ。


 ほら、あの鳥が僕に食事を落とす前に、飛び出すんだ。


 僕の心の内側は、未知なる探究心で溢れた。そして、今まで一度も飛び出したことの無い世界に向けて、


 内側から、扉を開け放った。

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