*第67話 マジか・・・

シモーヌの朝は早い。

夜が明ける前には身支度を整え、エルサーシアの部屋へと向かう。

筆頭侍女だ!

疾走痴女じゃないぞっ!

筆頭の侍女だ!


いやぁ~出世したなぁ~

最初はろくに魔法も使えなくて・・・

まぁ昔の話は止めておこう。


スカーレット・シモーヌ・カーミヤマン男爵。


男爵夫人では無いよ。

シモーヌ自身が男爵位を徐爵されている。

世界でも5人とはいない女性の爵位持ちだ。


とても希少な存在なのだよ。

エルサーシアでさえ戸籍上は辺境伯夫人なのだからね。


かつて、デカシーランド独立の為にレジスタンスとして活動していた

平民の娘だった。

旧姓はスカーレット・コバラ。

エルサーシアとの出会いが全てを変えた。

農民の若者たちで組織されたレジスタンス”白い恋人たち”

その書記長として・・・


いやいや申し訳ない・・・

つい昔話をしたくなる。

シモーヌには最近すこし気になる事があった。

以前は部屋に行くと、既にエルサーシアは起きていた。

さすがに着替えてはいないが、寝室から出て窓際に置かれた椅子に腰かけ、

朝日の最初の一筋を眺めていた。


しかし、昨年あたりから寝起きが悪く、待たされる事が多くなっている。

日中は相変わらず元気で我儘放題の何時もの大聖女様なのだけれど・・・


(どないしやはったんやろう?歳とっただけなんかいなぁ~?)


この世界の平均寿命は60歳前後だ。

成長が早い分だけ老いも早い。

それでもシモーヌよりも四つ若いのだ、

まだ老け込むような年齢では無い。


(どっか体悪いんちゃうやろなぁ。師匠が病気やなんて考えとう無いけど。)

一度、ルルナに相談してみようかと思案しながら歩いていたら・・・


「あっ!玄関まで来ても~た!」


***


カンッカンッ!バシッ!

ザッ!

カンカンカンッ!


カイエント城の中庭に、木剣で撃ち合う音が響く。


カーミヤマン男爵家の嫡男リョーマンと妹のサナが剣術の稽古をしている。

指導をしているのは父親のマイクだ。


マイクはレイサン家に仕える御庭衆の頭だ。


「痛い痛い!参った参った!」

「よっしゃぁ!ウチの勝や!」

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16818023212415186616


もちろん手加減している。

14歳のリョーマンが3歳のサナを相手に、

本気で打ち合いする訳が無いからねぇ。


「くそっ!なんで勝たれへんのやっ!」

マジかぁ~~~い!


「兄ちゃん弱いねん、隙だらけや。」

この子天才!


「なんや、また負けたんかいな。」

「強くなったわねサナ。」


ちょうど仕事から戻って来たエルサーシアとシモーヌが、

稽古中の中庭を通りかかった。


「あっ!お母ちゃん!サーシア様っ!」

「こいつがおかしいねん!ワイ、クラスでも強い方やねんで!」


この世界での3歳は、地球人の5歳くらいだろうか。

それにしても幼児には違いない。

この強さは尋常ではない。


「ねぇルルナ、もしかしたらサナは。」

「可能性は高いですねぇ。」

「何の話ですか?師匠。」


「ねぇサナ。」

「何ですか?サーシア様。」


「あなた、転生者ではなくて?」

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