第二章 恋の馬鹿んす

*第59話 そんなんじゃないから!

「シオンの時もそうでしたけれど、いったい何ですの?

精霊院の男子には、そういう伝統でもありますの?」


話を聞いたアルサラーラは呆れていた。

双子に無礼を詫びたアーノルドは、

ついとサラアーミアの前に歩み寄り、

片膝を付き騎士の礼を取ったそうだ。


「???」


意図を計りかねているサラアーミアの手をそっとすくい上げると、

その甲に接吻しこう言ったそうだ。


「私と結婚して欲しい。」


「ぎゃぁぁぁ~~~!!!」

人見知りの引き籠りで、カルアン以外の男性に触れた事など無い。

ましてや結婚など想像も出来ない。


「『ドカンッ!』」


恐怖のあまりに圧縮空気砲を打ってしまった。

”空気”と侮ってはいけない。

着弾と共に凄まじい勢いで膨張し、対象物を破裂させる。


魔子が咄嗟の判断でアーノルドを保護しなければ粉砕されていただろう。

見た目は地味だけれど、とっても優秀な精霊だ。

脳震盪のうしんとうで気を失ったものの、かすり傷程度で済んだ。

念のために療養所で一週間の静養となった。


「いい加減に出て来なさいよ!」

「来なさいよ!」

「お姉様!ここを開けてちょうだいな!」


パニック状態で城に逃げ帰って、衣裳部屋に内側から鍵を掛けて、

閉じこもっている。


************


「せ、せ、せ、接吻された・・・

て、手に・・・手にチュって・・・チュって・・・

け、け、け、結婚・・・結婚してって言われた・・・」

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330669519986183


まったく理解が出来ない。

どういうつもりだ?

大怪我をさせられた相手に求婚?

Mか?

ドMか?

超のつくマゾ野郎なのか?


「ど、ど、どうしよう?ねぇ魔子、どうしよう?」

「もうYOUたち付き合っちゃいなよぉ!」

「んなっ!つ、つ、つ、つきっ!」

「結構お似合いだと思うよぉ~」

「お!おにっ!おにっ!おにっ!」

「どっちにしてもさぁ、本気なのか確かめる必要があるよぉ。」


うん、魔子の言う通りだ。

良く出来た精霊だなぁ~。

他の子にも見習って欲しいものだ。

特にハニーとか!


「確かめる?」

「そう、本気で求婚してるなら、受けるにしても断るにしても、

ちゃんと考えてあげないと可哀そうだよぉ。」


うんうん。


「本気では無かったら?」

「一族皆殺し。」


前言撤回!

ろくなもんじゃねぇ~~~!!!


「わかった!」

わかるなぁ~~~!


「じゃぁ行こうか!」

「え?何所へ?」

「アーノルドのとこ。」

「むりむりむりむりむり」

「大丈夫!大丈夫!さっと行って聞くだけだから~」


「そんな・・・でも・・・」

思わず手の甲をさする。

アーノルドの唇の感触が残っている。


「あら?顔が赤いよ?え?え?え?

もしかしてぇ~?まんざらでもない?」

「そ!そ!そ!そんなんじゃないからぁ~!」


*********


「はぁ~~~」

療養所の寝台の上で黄昏たそがれている。


「サラアーミア・・・」


凄まじい衝撃に弾き飛ばされて壁に激突した。

あの目・・・

虫けらを見るような無感情の目。


しびれた~

れた~


あの可憐な指先から放たれた魔法に、心も体も射貫かれてしまった。

怪我の痛みさえ愛しい。


「あぁ、麗しの姫君・・・」

アーノルドは・・・


超が付くマゾ野郎でしたっ!

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