*第56話 モンペvsモンペ
オバルト王国大法院
要するに貴族間の揉め事を処理する裁判所である。
裁判官は元老院議員と場合によっては
国王、あるいはその代理が出席する。
今回は国王が自ら
なにせ被告は大聖女エルサーシアだ。
原告はターラム大公家。
現国王アンドリアはすっかり当惑していた。
(頭が痛い・・・
勘弁してくれよぉ~
俺にどうしろと?
聖女に王権なんて通用しないよぉ~)
肋骨4本、左腕上腕、左ひざの骨折。
前歯3本破損、鼻骨陥没、むちうち。
全身
全治120日、リハビリも合わせて半年間の休学。
それが今のアーノルドの状態だ。
(なんで聖女に喧嘩売るかなぁ。
ヤバイんだってあいつらは~
サーシアなんか11歳で何十人も 人を殺してんだよぉ。
戦争でも大暴れしたしぃ。
その娘だよ?
まともなわけ無いじゃん~)
今回の審理に於いて審判長を務める
ナーバル選帝侯が開始を告げる。
やはり同じく気まずそうだ。
「ゴホンッ!あ~、ではこれより
ターラム大公家より告訴のあった、
傷害事件に関する審理を行う。
原告側の出席はターラム大公ルイスールに相違ないか?」
形式上、敬称を省略して
「相違御座いませぬ。」
「被告側の出席は後見人エルサーシア・ダモン・レイサン・
カイエント辺境伯夫人に相違ないか?」
こちらは大聖女の称号を持つので省略は出来ない。
身分は皇帝と同等の地位に在る。
「御座いませんわ、
オバルト王国では10歳で降霊の儀を終えると成人として扱われるが、
女性は14歳、男性は15歳に成るまで後見人が監督責任を負う。
「あ~、なおターラム大公家の代理人を王太子ナコルキン殿下が務められるが、
被告側に異存があらば、今この場で申し立てよ。」
「御座いませんわ、閣下。」
(あぁ~
なんで出しゃばるんだよぉ~
このバカ息子がぁ~
これじゃぁ王家と聖女が
対立してるみたいじゃん!
マズいんだよぉそれはぁ~
聞いて無いよぉ~)
元々ダモン家や聖女一家を良く思って居なかったナコルキンが、
事件の報告を聞いて
事前に相談もせずに審判の当日、代理人を申し出たのである。
ナコルキンが訴状を読み上げる。
「・・・であるからして、原告は被告に対して謝罪と賠償を
要求するものである!」
「被告に反論があらば------」
「お断り致しますわ。」
「あぁ~えぇ~・・・っと」
「なんと
王太子の威光を軽くあしらわれたナコルキンが額に青筋を立てて声を荒げる。
挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330669122042022
「売られた喧嘩はその場で買えと娘達に教えてありますの。
日が立つと鮮度が落ちるでしょう?
特に、ダモンを侮辱されたら言い値の倍を払えと。」
「何を言っているのだ!こちらは大怪我をしたのだぞっ!」
ナコルキンは分かっていない。
エルサーシアには罪悪感が無いのだ。
ましてや娘に非が有るなどとは、欠片も思いはしない。
「まだ生きているのでしょう?」
ほらね?
殺さなかったのだから、むしろ感謝して欲しいくらいに
思って居る。
「き、貴様!馬鹿にしておるのか!」
馬鹿にしているのでは無いのだよ。
関心が全く無いのだよ、ナコルキン。
(駄目だ!このままでは決裂する!)
「もう良い、
「父上!」
「此処は公の場である、控えよ。」
「ち!・・・はい、陛下・・・」
「のうサーシアよ、私の頼みを聞いて呉れぬか?」
公の場と言いながら、まるでお茶会であるかの様に
笑みを
「何で御座いましょう?陛下。」
こちらもニッコリと答える。
「元はと言えばアーノルドの無礼が発端であろう。謝罪はせずとも良い。」
「陛下っ!」
「下がれと申したであろう、太子よ。」
「・・・・・・」
「だが私は怪我をしたアーノルドが
見舞いの品なと送ろうと思う。
見舞金の名目で良いから賠償金を出せと言う事だ。
「承知致しましたわ、陛下。」
「それとな、半年も休学すれば随分と後れを取るであろう?
復学の暁には遺恨を水に流して彼に聖女の秘術を授けて欲しいのだ。」
これにはターラム大公が驚いた!
「陛下!それは!」
「不服か?」
「いえ、滅相も御座いませんが・・・」
不服どころか大歓迎だ!
孫が聖人になるかも知れない。
奴らは気に入らないが、
それとこれは別だ。
「どうであろうか?サーシアよ。」
(頼む!うんと言って呉れ!)
「宜しゅう御座いますわ、陛下。」
(助かったぁ~~~~~~!)
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