*第47話 名産トキシラズ

それはまったくの偶然だった。

本来なら見過ごしていた。


密輸の手口で一番多いのは船便に紛れ込ませる方法だ。

大量の積み荷を全て検査するなんて無理だ。


だから抜き打ちで調べる。


この日、王都憲兵隊下士官のシザーエ士長は張り切っていた。

先週末に士長に昇格し港湾警備隊の第三班長に任命されたからだ。


「あれはコイントからの荷だな」

部下のヨーキナンに問う。

「そのようですね、調べますか?」

分かっていて聞くなよぉ~


「おいっ!止まれ!」

「え?なんすか?」

災難だったのは波止場人足のサンテだ。


「箱の蓋を開けろ!」

「只のトキシラズっすよぉ。」

「いいから開けろ!」

「へいへい・・・ったくよぉ。」


名状しがたいバールのようなものでバールだよ、どう見てもバールだよ蓋をこじ開けると魚の干物のこじ開けると言えばバールだよ

強烈な匂いが漂うバール以外にねぇ~よ


生臭~~~い!


大聖女エルサーシアの好物だとかで、貴族や金持ち連中が好んで食べるようになった。

結構お高い。


「中身を全部出せ!」

「えぇ~!勘弁して下さいよぉ~」

「さっさと出せ!」


油紙で巻かれたトキシラズを箱から取り出して地面に並べて行く。

20匹ほどが詰められていた。


「これでいいっすかぁ?」

「紙も取れ。」

「はぁ~ついてねぇ~なぁ」


大ぶりの見事なトキシラズだ。

実に旨そうだ!


「ふむ、トキシラズだな。」

「だからトキシラズだってぇ。」


「こんなもんに銀貨50枚だそうですよ。」

ヨーキナンがあごをシャクる。


「そんなにするのか!」

値段までは知らなかった!

半期分の給金じゃねぇかよ!


「さ、さっさとしまえ!」

ビビリましたぁ~~~


その時であるウニャアッ!!!!!!


やたらとデカいドラ猫が飛び出して来て、トキシラズをくわえて逃げた!


「うわっ!大変だ!」

サンテは顔面蒼白になった。

へたすりゃクビだ。


「捕まえろ!逃がすなぁ!」

さすがに気の毒だと思ったので、シザーエも追い駆ける事にした。


お魚をくわえたドラ猫を追いかけて、

ヨーキナン、シザーエ、サンテが走る。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330668298696237


大変だぁ~

 大変だぁ~

  大変だぁ~~~


見失った・・・


「責任取ってくださいよぉ!」

「俺達も仕事で検閲してんだよ!」

「じゃぁせめて親方に取りなしてクビにしないように言ってくださいよぉ!」

「あぁ、分かった分かった。」

「班長!あっちがえらく騒がしいですよ!」


沢山の猫が騒いでいる。

トキシラズの取り合いでもしているのか?


「行って見よう!」


異様な光景だった。

10匹ほどの猫が狂ったように暴れている。


ひたすら飛び跳ねるもの。

ぐるぐると回り続けるもの。

血だらけで噛みつき合っているもの。

目をいて痙攣けいれんしているもの。


トキシラズの腹から敗れた油紙がはみ出している。

中から白い結晶がこぼれている。


「班長、これは・・・」

「あ、あぁ・・・」


大当たり~!


「なんすかそれ?」

サンテは何も知らない。

下っ端の人足だ。


残りのトキシラズの腹にも入っていた。

おそらく他の箱も。

「取り合えず、証拠品を持って詰所に戻ろう。」

人員を揃えてガサ入れだ。


「お前も来い!」

「えぇ~」


新任班長の大手柄だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る