*第46話 狙いうち
「
偶然に聞いてしまった。
どうも変だなとは思っていたが、あえて気にしない様にしていた。
だが聞いてしまった・・・
どうしたら良い?
解らない・・・
シオンが谷を去って以来、観光事業は廃業同然になった。
大聖女の怒りを買った所になど、縁起が悪くて誰も寄り付かない。
たまぁ~に物好きが来るぐらいだ。
谷を捨てて出て行く住人も多かった。
何所へも行くあての無い者だけが残っている。
「お
「親父様どすべが?」
「はは・・まんず
「そったらごと・・・」
まんざら冗談でも無さそうだから、目の届かない所へは行けない。
かと言って収入の宛てもない。
八方ふさがりだ。
トリオゴ男爵が谷を訪れたのはそんな時だった。
「良が話すさあるべな。」
まるで何事も無かった様に涼し気な顔で。
「聞がへてけろねし。」
ユバルには思う所も有ったが、今は
クビーラ公爵。
シオンを愛人にしようとした奴だ。
その公爵閣下がウーグス谷の奥山にある温泉の権利を買いたいそうだ。
なんでも施設栽培とか言う方法で冬の厳しい寒さの中でも作物が育つらしい。
温度を上げる為に温泉の湯を使うそうだ。
さらに谷の住人を雇って呉れるらしい。
どうせ観光はもう駄目だ。
暮らしが成り立つならなんでも良い。
契約は成立した。
施設の建設には住人も駆り出された。
ちゃんと給金が支払われたから、みんな喜んで働いた。
正直に感謝している。
首を吊らずに済んだのだ。
それから一年が過ぎた。
まだ収穫は出来ない。
なんでも、しっかりと根が広がって充分な収穫が出来る様に成るには
5年程は掛かるらしい。
それまでは施設の維持費と人件費は垂れ流しだ。
採算は取れるのだろうか?
まぁ良い。
余計な事は考えないで置こう。
偉い人のする事なんて分からない。
昨日から公爵閣下が視察に来ている。
一緒に来た人物は共同経営者だそうだ。
対等に話をしている所を見ると、あの人も公爵様なのだろか?
「まんずオラにゃ関係ねだな。」
さぁ!仕事だ仕事!
配管の点検をして廻る。
漏れていないか?
温度が下がっていないか?
施設同士を繋ぐ、連結通路の下も潜り込んで点検する。
「今頃はさぞかし悔しがっておるじゃろうて。」
「うふふふ。セトルには気の毒な事をした。」
おや?
公爵様達だな。
わざわざ出て行って挨拶するのも面倒だ。
じっとしていよう。
「ここの収穫が始まれば通年での生産体制が整う。」
「精製工場の稼働率も上がるの。うふっ!」
「市場もだいぶ広がったのじゃろう?」
「あぁ、いくらあっても足りないよ。」
「大人気じゃなテロポンは。」
「うふふふふ。」
挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330668195196719
え?
気配が遠ざかる。
そぉ~っと這い出す。
誰も居ない。
「オラだつはぁテロンポさ、こすらえちょるだがやぁ。」
人の寄り付かない
さびれた谷の奥山に在る温泉。
なんて都合の良い場所だ。
狙い撃ちにされた。
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