*第31話 聖女の秘術

カーラン王国第三王子ミラーム。

国王セトルには五人の子が居る。

その末っ子だ。


性格は温厚で思慮深く、

声を荒げた所などついぞ見たことが無い。

きらめく様な美貌と、優雅な仕草。

すれ違う者は皆が見惚みとれてしまう。


だが・・・


「ネフェルぅ~~~。僕って魅力ないのかなぁ~?」


侍女の膝枕でゴロゴロ甘える。

これが彼の素顔である。

優等生を演じるストレスをいやして貰うのだ。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330667017131711


「殿下は世界で一番に魅力的ですよ。」

ミラームを独り占めしている幸せを、

優しく頭を撫でながらネフェルは嚙みしめる。


「じゃぁなんで断るのさぁ~

どうして良いのか分んないよぉ~」

国王からは引き続き努力せよとの指示が来ている。


「あの娘は頭が悪いのです。

紅玉こうぎょくと石ころの区別も出来ないのですよ。」

殿下からの求婚をそでにするなど正気の沙汰では無い。


「馬鹿なの?」

「えぇ、馬鹿なのです。」

「そんなの妃にするなんてやだなぁ~

ネフェルだったら良かったのになぁ~」


あぁ!殿下!殿下!殿下!

嬉しゅう御座います!


「まぁ殿下、おたわむれを。」

殿下の立太子さえ叶えば・・・


「聖女の秘術が手に入れば、ネフェルが聖人に成れるんじゃないの?」

「さぁどうでしょうね。」

そんな事が出来るだろうか?

もしそうなら・・・

あの小娘など必要が無くなる。


どうすれば手に入る?

聞いたところで教えては呉れまい。

なにせ”秘術”なのだから。


あの小娘は大聖女の数少ない友人の娘だから、

特別に教えて貰えるのだろう。


大聖女エルサーシア。

これまでに二度だけ対面した。

非礼を詫びに出向いた時と、

呼び出されて求婚を断られた時だ。


思い出すと背筋が凍る。

我らを見る時の、あの無関心な目。

例え目の前で死にかけていても、

平気で通り過ぎて行く目だ。


よくあんなのと友人に成れたものだ。


正攻法での入手は不可能だ。

やはり一族の力を借りる必要が有る。

ネフェルは本家に手紙を書いた。

”あの男”を派遣して欲しいと。


本家の当主、カヒ・ゲライスにて。


*********


精霊教総本山の大聖女執務室。

エルサーシアは御庭衆頭のマイクから、

カーラン王国に関する調査報告を受けていた。


「ゲライスが絵図を描いていましたのね。」


第一報でカーランの王宮にカヒが出入りしている事は聞いていた。

ミラームの求婚がそれと関係が有るのかを調べさせていたのだ。


「はい姫様、まず間違いないかと。」

王宮に潜入している者からの報告では、

ミラームから手紙が届くと、

必ずカヒが執務室に呼ばれている。


「侍女のネフェルはゲライス一族の者に御座います。」

ゲライスとカーランの深い繋がりを表している。

「王宮勤めの者達の噂ですが、シオン殿をお妃に迎えれば、

ミラーム王子が王太子に指名されると。」


下働きの者達の噂話を馬鹿には出来ない。

王室の細々こまごまとした内情やら、

時には国家機密のたぐいまで流れる。

調理場や洗濯場までは統制が行き届かないのだ。


「ちょっと小耳に挟んだんだけどよ。」

「ねぇねぇ、あんた知ってる?」

それが会話の始まりの定番だ。


「意図は分かりまして?」

シオンを王室に取り込もうとするのは何故だ?


「確証はまだ掴めておりませんが、

お嬢様方では無く、わざわざシオン殿に目を付けるとなると、

恐らく”聖女の秘術”が目当てではないかと。」


「まぁ!無駄な事ですのに。」


そう、シオンを手に入れても無駄なのだ。

方法が解っても大した効力は無い。

精霊言語が流暢りゅうちょうに話せても、

それはただ外国語が堪能たんのうになるだけである。

精々が魔法の発動効率が上がる程度だ。


人型精霊との契約が可能な程に精霊との親和性、

つまり精霊遺伝子を活性化させるには、

直接的に聖女か人型精霊から教練を受け、

波長を同期させなければならない。


圧倒的な影響力でもって眠っている遺伝子を発現させるのだ。

ルルナ達の本体である観念世界ではそれを、

直達正観じきたつしょうかんの法”と呼んでいる。


「何やら色々と画策している様です。引き続き調査を致します。」

「えぇ、お願いね。」


「ではこれにて失礼いたします。」

報告を終えたマイクが退室する。


「はぁ~、厄介なお方ですわねぇ。

のんびりと余生をお過ごしになれば宜しいのに。」


「なかなかの執念深さですね。」


「ねぇルルナ。やっぱり殺してしまった方が

手っ取り早いのではなくて?」


「もう少し道徳を身に着けましょうね。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る