第四章 堪忍すてけろ

*第28話 踊り子

野生の王国ハイラムでの体験は、

シオンにたくましさを与えた。

その気になれば虫でも食べられる!

しかも美味い!


あれから蜘蛛の巣をみるとよだれがでる様になった。


学生生活にも慣れて、仲の良い友達も出来た。

中休みのお茶会は恒例こうれいとなっている。


「ねぇ、まだ婚約しないの?」

クラスの中でも特に仲良しのエリーゼが

じれったそうに聞いて来る。

ミラームの求婚はみんな知っている。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330666837059903


「えんやぁ~まだ分がんねだよぉ~」

エルサーシアは、卒業するまでじっくり考えて、

それから決めれば良いと言うけれど。

さすがにそれは気の毒だ。


今年中には心を決めて返事をしよう。

どっちに転んでも自分の歩く道だ。

早めに答えを出したい。


「悩むなんて理解出来ないわ。

王子様よ?

しかもあの美貌びぼうよ?」


貴族の婚姻は家同士の政略で決められる。

夫婦は義務としての役目であり、

恋愛とは切り離されている。

互いが他所で愛人を作る事は珍しく無い。


「良が男過ぎで、オラにゃもったいねべさ。」


男爵令嬢であるエリーゼと、

平民出のシオンとでは価値観が違う。

殆どの意見は一致しない。


「もったいないくらいだから良いのよ。

王子妃なんて大出世じゃないの。」


だが、その食い違うところが面白くて、

一緒に居るのが楽しい。


「そったら出世さすたら、もうおどんねべさ。」

「何を言っているの?王子妃ともなれば

毎日の様に舞踏会へ行くわよ。」


その”踊り”では無いのだよ。

上流階級の社交的なダンスでは無く、

みんなの願いを精霊に届ける”舞”が、

シオンの踊りだ。


「デンスでねだよ、舞だべさ。」


そうか・・・

私は踊り子なんだ・・・


ハイラムでは晩餐の度にドンチャン騒ぎになった。

皆に乞われて舞を披露した。

エルサーシアの歌う精霊歌と手拍子に合わせて、

時には揺蕩たゆたい、時には情熱的に。


自分が自分である事の証明。

それが”舞”だ。


あっ!

答えが出てしまった。


「ありがんどねぇ。」

「え?何が?」


ミラームには申し訳ないが、

結婚の話は断ろう。

谷には帰れないが場所は何所でも良い。

踊り子として生きて行こう。


なんかスッキリしたなぁ~~~


「あぁ~!居た居たぁ~!」

「シオン~良い話があるのぉ~」

「おめでとうシオン、貴方が選ばれたのよ。」


怪し過ぎる~~~


平凡同好会の三柱がシオンを取り囲んで、

何処かへ連れて行こうとする。


「な、何だべがぁ~?」

怖い怖い怖い。

見た目が地味なだけに余計に怖い。

特にミサが怖い。


ヘコヘコアザラシの黒木ミサをコピーした精霊がミサだ。

校則通りのセーラー服に長い黒髪。

表情の読めない、やや釣り目の三白眼。


「”平凡の友”夏の特別号の表紙に貴方が選ばれたの。

袋とじで特集も掲載けいさいするのよ。」

ミサに言われると黒魔術の生贄に選ばれた様な気がする。


「じ、辞退するだぁ~」

「駄目よ、先週号で予告してるし、

予約も沢山入っているの。」

「さぁ!行くよぉ~!」


「ど、何所さ行くだ?」

「モスクピルナスだよぉ~」

「聖地のグラビア撮影が定番なのぉ」

「売り上げが伸びるのよね。」


「エリ~ゼ~~~」

「ごめんなさい・・・」


エリーゼが目を合わせて呉れない。


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