*第17話 無理だびょん!

式典が終わり、シオンは割り当てられた教室へと移動していた。

リコアリーゼとは別のクラスになった。


午後からは担任の講師が院内を案内して呉れるそうだ。

それまでは自由時間なので、

自己紹介などをするようにと言われた。


「失礼いたします、シオン・カモミ様ですね?」

「んだす?」


誰だろう?

奇麗なお姉さんだな、職員さんかな?


「我が主が、貴方様にお話があると申しております。」

違った、誰かの侍女さんらしい。


「オラに?」

「はい、どうぞこちらへ。」


そう言うと侍女は渡り廊下から少し外れた先の、

小さなガゼボへと先導する。


人影がある。

同じくらいの年頃の男子だ。

立派な身なりをしている。

高位貴族だろうか?

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330666054447858


「呼び立てて済まないね、私はミラーム・カーランだ。」

「はぁ、オラさシオンだべさ。」


「シオン様、こちらのお方はカーラン王国

第三王子殿下であらせられます。」

この平民がと思いながらネフェルは告げる。

本来ならお前ごときが口を利ける相手では無いのだと。


「わいはぁ!王子様だべが!」

王族なんて初めて見た!

本当に居るんだなぁ~


で?

何で私が?


当然シオンには全く心当たりが無い。

言いがかりでも付けられたら嫌だなぁ~

とつい身構えてしまう。


「怖がらなくても良い。其方そなたに頼みが有るのだ。」


長い睫毛まつげうれいを帯びた瞳を飾り、

艶めいた唇が妖しくも美しい。


吸い込まれそうだ・・・


「な、何だべが?」

頼み事なんてされても、

私なんかに出来る事など無いだろうに。


「私のきさきに成って欲しいのだ。」


ん?キサキ?

友達の事か?

それくらいの事で大げさだなぁ。

王族ってそうなのかな?


まさか求婚されているとは思いもしないので、

シオンはそれが”お妃様”の”キサキ”だと気付かなかった。


疑問符に目鼻が付いた様な表情のシオンに、

業を煮やしたネフェルが言葉を重ねる。


「殿下と婚姻を結び、国母と成って頂きたいと仰せで御座います。」

あぁ・・・

その言葉を私に頂けたらどんなに幸せだろうかと

ネフェルは胸の奥で泣いた。


「ヨメゴさ成れっでが!!」

その”キサキ”かっ!

響き渡る程の大声が出た。

そりゃそうだ、吃驚びっくりもする。


「あ、あぁその通りだよ。」

声の大きさにミラームはひるんでしまった。


「そったごと無理だびょん!」


これだから貴族は嫌いなのだ!

いや聖女様達は別だ。

あの方達は大好きだ。


でも他の奴らは嫌いだ。

この人は王族だけど似たようなものだ。

いきなりヨメに成れだなんて、

馬鹿にしているのか?


「急な話で戸惑うのも無理は無い。

だが私には其方そなたが必要なのだ。

決して粗末そまつにはせぬ。

大切にするゆえ承諾しょうだくしては呉れぬか?」


心が揺らいでしまった・・・

だって美少年だもの・・・


「せ、聖女ん様さ聞がねだばまいねし聞いてみないと駄目です。」

「左様であるか、ふむ、あい分かった。

此方こなたからも聖女様に申し入れよう。

良き返答を期待する。」


そこからは終日ぼぉ~っとしていた。

午後からのオリエンテーションも記憶に無い。

城に戻ってからはエルサーシア親子のやり取りをぼんやりと眺めていた。


「で?どうでしたの?シオン。」


そう聞かれて思い出した。

そうだ!

エルサーシア様に相談しなければ!


************


シオンの話を聞いたエルサーシアは

御庭衆頭おにわしゅうがしらのマイクを呼び調査を命じた。

マイクはシモーヌの夫である。


当面は様子見をする事にした。


「どう思いますの?お姉様。」

「裏がありますわね。」

「シオンが心配ですわ。」


今は三姉妹会議の真っ最中である。

「明日、私が会って話を聞きますわ!」


リコアリーゼはお節介焼きだ。


その頃シオンは自室の中をぐるぐると徘徊はいかいしていた。


「オラが王子様さヨメゴ?

えやえやえや、無理だびょん。

んだばて必要だぁって・・・

えやえやえや、まいねまいね。

奇麗がんだなやぁ王子様・・・

大切さすて呉れるべが・・・

えやえやえや、無理だびょん。

無理だびょん、無理だびょん。」


真っ赤な顔でびょんびょんするシオンであった。

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