*第18話 本気かしら?

「ミラーム殿下、お話が有りますの。少し宜しくて?」

翌朝、教室に着くなりにミラームはリコアリーゼに声を掛けられた。


「これはリコアリーゼ殿、私に御用とは光栄だ。

ちょうど私からも話したい事があるのだ。」


二人は同じクラスの同級生として、昨日に自己紹介を済ませている。

この組は王族と高位貴族で構成されている。


「シオンの事ですの。お分かりでしょう?」

「あぁ、私もその話がしたい。」

「あの子は我がレイサン家の家人ですの。」

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330666288241938


精霊院に通学するに当たり、

シオンはレイサン家の家臣に取り立てられ、

カモミ姓を授けられて貴族院の名簿に準々貴族として登録さている。


カイエント領内の農地を分け与えられて、身分は地主階級である。

リコアリーゼの侍女としての立場にある。

本人に自覚は無いが、シオンは既に平民では無い。

レイサン家一族郎党ろうとうの一員なのだ。


「な!そうであったか・・・

これは大変に失礼をした。

手順を誤ってしまった様だ。

謝罪する。」


単なる客人と家人とでは事情が違う。

家人への縁談は、まず主人に話を通すのが筋だ。

それをおこたるのは主家を侮辱したも同然なのである。


知らなかったでは済まされない。

下調べも満足に出来ないのであれば、

そもそも求婚などすべきでは無いのだ。


失態である。


「今日にでも正式に謝罪を致そう。

大聖女様の御都合は如何いかがであろうか?」


「左様で御座いますか、母にそのむねを伝えましょう。

追ってご連絡を致しますわ。

ですがその前に御聞かせ下さいましな。

何故なにゆえにシオンですの?」


返答次第では敵認定である。


「父上がシオン殿を御指名なされたのだ。

やがて聖人となる御仁ごじんゆえ、

妃と成して我が国にお迎えせよと。」


またえらく気の早い話だ。

修行を始めたばかりだと言うのに。


「ねぇハニー、シオンは聖人に成れるのかしら?」

「どうかなぁ~?理屈では成れるけれどぉ、個人差があるから~」

「だそうですわよ?」


それでも構わない。

聖女の秘術を授かった者で在る事が重要なのだ。


「可能性は有るのであろう?

例え聖人と成らずとも妃として

誠意を尽くしていつくしむ事を誓おう。」


「私が”夢の聖女”だと知った上で、御誓いになりますの?」

誓いを破れば報復するぞと脅した。


「無論である。」


このやり取りで判断する限りに於いては、

ミラームの人柄は誠実であるようだ。

一先ずは安心した。


「では後ほど母を交えてお話致しましょう。」

「あい分かった。」


*************


その日の夕刻、儀礼用の正装でエルサーシアの執務室を訪れたミラームは、

花押入りの謝罪文を読み上げて非礼を詫びた。


エルサーシアはそれを受け入れて、一件は落着した。

その後、応接間に場所を移して話し合いの場が設けられた。


「お話は分かりましたわ。

シモーヌ、シオンを呼んで来て頂戴な。」

「はい!師匠!」


程なくしてシオンが入室した。

恥ずかしいのだろう、俯いたままで

時折にミラームをチラ見しては、慌てて下を向く。


実に解り易い!


「貴方はどうしたいの?シオン。」

娘達に話す時と同じく、優しく包み込むように聞く。


「オ、オラ解がんねだぁ~」

もう泣きそう・・・


必要だと言われて正直に嬉しい。

でも信じるのが怖い。

裏切られた絶望を忘れた訳では無いのだ。


「えぎなりじゃったはんで。」

だが悪い気はしない。

美少年だし・・・


「そう、ではこうしましょう。

精霊院での2年間でシオンを口説き落としなさいな。」

「く!口説くっ!」

承知しょうち致しました。」

「しょ!承知ぃ!」


は・・・鼻血が・・・

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