*第14話 精霊歌

聖女が民を祝福する為に歌う精霊歌。


だが精霊言語でうたわれる歌詞の意味を誰も知らない。

「どんな内容ですか?」と聞いても、微笑むだけで教えては呉れない。


人々にとって精霊言語とは魔法を発動させる為の呪文である。

ただひたすらに丸暗記して唱える。

発音も独特で、正確に唱える事が出来るのは聖女だけだと言われている。


メロディーに乗せて呪文を羅列られつしたもの。

それが民衆の精霊歌に対する理解である。


実は違う・・・


その正体は『日本語』で歌った替え歌である。

時にはアニメソングであったり、

またある時には昭和歌謡であったり。


エルサーシアがその日の気分で適当に歌っているだけだ。


行く先々でわれるままに披露して来たが、

本人はストレス発散のカラオケとしか思っていない。


その歌声に民衆は感動し、滂沱ぼうだの涙を流す。

精霊の祝福だと信じて・・・


**********


「お母様!新作が出来ましたわ!」


リコアリーゼが自作の替え歌・・・

精霊歌の書かれたノートを持って、

夫婦でお茶をたしなんでいるエルサーシアに駆け寄る。


「まぁ!これは”星の王女様”ね!」


フランスの小説家が書いた名作童話。

日本でもアニメ化されて大ヒットした。

その主題歌が標的にされたのだ。

ご愁傷さまである。


「入学式で歌おうと思いますの。」

「それは楽しみね!みんな喜ぶわよ!」


「私も楽しみだよ!アリーゼ!」

父親のカルアンは娘達を溺愛している。

リコアリーゼの全てを肯定する。


「どうせろくでもない歌でしょう?」

ルルナがうんざりしながら言う。


「貴方にはこの素晴らしさが解らないのね。

替え歌にもスキルが必要なのよ!

言葉の響きが重要ですの!」


「内容が下らないと言っているのです!」

殆どが下ネタである。


「これは違うわルルナ!親子の愛を表現したのよ!

ほら!見て頂戴な!」


リコアリーゼが自信作を見せる。


「どれどれ・・・」


苦虫を噛み潰し、カメムシを鼻の穴に詰め込んだ様な顔でルルナは言った。

「下らない。」

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330665693413665

**********


精霊教聖地総本山精霊院。

記念すべき第一期生の入学式が執り行われている。


世界中から王侯貴族の子息子女、

裕福な商人の跡取り等が、名誉と人脈を求めてつどった。


大聖女が学長を務め、栄えある一期生には”夢の聖女”、

長女リコアリーゼが居る。

新設された基礎教育科には、妹聖女も入学する。


多くの新入生が聖女とお近づきになり、

覚え目出度くあれかしと言い含められている。

小さな肩に重圧が掛かる。


エルサーシアが壇上に登る。

ざわめきが凍り付き、会場が静まり返る。


「皆様、頑張って下さいましな。」


それだけ?


それだけだった・・・ざわざわざわざわ

戸惑いが広がり再び会場がざわざわざわざわざわざわめき出すざわざわざわ


「もう少し言う事は無いのですか?」

ルルナが呆れている。

「え?ありませんわよ?」


「この目出度き日に~とか、うららかな春の日差しが~とか、

定番の式辞しきじがあるでしょう?」

「嫌よ、面倒臭い。」

「あぁ~また始まった・・・」


「アリーゼ、新入生代表の挨拶をなさいな!」

「はい!お母様!」


やるのか?

あれを歌うのか?


演台えんだい登壇とうだんしたリコアリーゼ。

大きく息を吸い、良く通る声で開口一番。


「精霊歌を歌いますわ!」


やっぱり~~~!


この歌を世界中の薄毛達にチャ~~~ララ~ラ~~~

また自分がフサフサだった頃をチャ~~~ララ~ラ~~~忘れがちなツルッパゲ達にチャララ~ララ~ラ~~~


そしてウブ毛だけでなくチャラララ~ラ~ラ~~~

頭皮の本当の輝きをチャララ~~~ララ~ラ~見つめる勇気を持ったチャララ~~~ララ~ラ~

すべての予備軍にチャララルンランラン心からの友愛をこめて贈りますチャラララ~ン


サン・ツルピカリ』


ズンタンズンタンピロリロピロリロ

ズンタンズンタンピロリロピロリロ


頭~の~ズンタッタ真~上~に~ズンタズンタッタ

ハゲが~あ~る~ズンズンズンッタズンタタタ


あれが~ズンタラ~ン

あれがボ~クの~タララズンタタ~ン

パ~パ~だ~よぉ~チャ~ラ~ラ~ラ~ン


アデールラァ~ンスピロリロリ~~~

アデールラァ~ンスピロリロリ~~~


ルルルルチャラララル~ル~ル~チャ~ラ~ラ~


あまり~に~ズンタッタ見~事~な~ズンタズンタッタ

ヅラだ~か~ら~ズンズンズンッタズンタタタ


誰も~ズンタラ~ン

ハゲてい~ると~タララズンタタ~ン

知~ら~な~い~チャ~ラ~ラ~ラ~ン


アデールラァ~ンスピロリロリ~~~

アデールラァ~ンスピロリロリ~~~


ルルルルチャラララル~ル~ル~チャ~ラ~ラ~


だけど~取るんだよぉ~あ~~~あ~あ~あ~

お風呂~の~と~き~は~あ~~~あ~あ~あ~


そのう~ち~ボクにも~ふ~~~るる~るる~

遺伝~す~る~よ~らら~~~ら~ら~ら~


ルルル~ピコピコル~ルピ~

ルルル~ピコピコル~ルピ~

ルルル~ピコピコル~ルピ~


ハゲの~~~♪ジャジャ~ンカ

お父様~~~ジャカジャカジャ~ン♪』


ジャァ~~~ン♪


「わ、私はハゲでは無いよぉ~!」


カルアンの魂の叫びが会場に空しく響く。

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