第二章 修行するだぁ~!

*第12話 入学準備

シオン親子はエルサーシア達の本拠地、

ムーランティス大陸のカイエント辺境伯領に移住する事となった。


元はニャートン帝国の首都を含む地域であったが、

戦勝の報奨としてレイサン家に下賜された。

”レイサン家”とはエルサーシア一家の家名である。


ケイコール夫婦は領都ノーベルンで屋敷を購入し、

新たな生活を始めた。


じぇぇんこさいらねがら、働がすてけろ。」


恩返しなど考えなくて良いとエルサーシアは言ったが、

それでは気が済まないと城で女中仕事をしている。

シオンの怪我も一応の完治をしたが、

長期間の療養生活で筋力が低下している。


当分の間はリハビリだ。


***********


「オ、オラが精霊院さ行ぐだべが?」


そんなの無理だとシオンは驚いた。

精霊院は上級精霊と契約している者が精霊師の資格を取る為に通う所だ。

たっぷりと慰謝料を受け取ったから費用面では問題は無いが、

精霊の事ばかりはどうしようもない。


「えぇ、そうよ。アリーゼと一緒に通いなさいな。」

「んだども、オラが綿っ子だべさ。」


”綿っ子”とは下級精霊が丸い綿状の形態をしている事から、

コイント地方で用いられている表現である。

”綿帽子”とも言う。


「暫くの間は、私の精霊を貸してあげますわ。

修行が進めば、上級精霊と契約が出来る様になるでしょう。」


「わいはぁ!そったら事が出来るだか!」

やっぱり噂は本当だったんだ!


精霊との親和性は生れつきで決まっていて、

生涯そのままであるのが普通だ。

ただし例外がある。

”聖女の秘術”と呼ばれる修行を積めば親和性が向上し、

より高位の精霊と共鳴する事が可能になると言われている。


あくまでもうわさであって、公式には否定されている。

しかし英雄四天王と呼ばれている者達の存在が、その噂を肯定している。


「ルルナを教育係に付けてあげますわ。」


魔法とは情報操作である。

精霊言語を用いて精霊に依頼する。


依頼を受け取った精霊は、この世界のシステムに実行を申請する。

申請内容に不備が無ければ魔法が発動する。

上位の精霊になるほど強力な魔法を扱う事が出来るようになる。


精霊との親和性はどの様にして決定されるのか?


人の細胞内に在るミトコンドリアDNAに組み込まれている

”精霊遺伝子”の発現率に依存する。

この発現率を向上させる手段が、”聖女の秘術”である。


修行内容は二つある。

まず精霊言語の習得。

単に暗記するのでは無く、意味を理解しなければならない。


次に最上位精霊との交流。

行動を共にして信頼関係を構築する。

前者が座学で、後者が実技である。


解り易く例えるならば、

この世界のシステムがOS。

精霊はアプリケーション。

精霊言語はプログラミング。

精霊遺伝子はコンパイラ。


精霊言語は暗記しているだけでは簡易スクリプトのレベルであるが。

意味を理解した上で、流暢りゅうちょうに話す事で、

マシン語のレベルとなる。


修行を継続すると精霊遺伝子は活性化する。


「まずは精霊の賃貸契約ですわね。」

そう言ってエルサーシアは一枚の魔法紙を取り出す。


「んぐっ!う、うちはちょっと用事を思い出しましたわ!」

何故かシモーヌが慌てて何処かへ行ってしまった。

なんか嫌な予感がする・・・


「そ、そえば何だべな?」

「契約書よ。」

「ど、ど、どへばえんずがや?」

「小指を出しなさいな。」


「は、は、針じゃねが?」

「えぇ、針ですわよ。」

「な、な、なすて針が・・・」

「うるさい子ねぇ、さっさと出しなさいな!」


「えやぁ、えっと待っでけろ~

おおおおグサッ!

痛だぁ~~~~~グリグリグリグリ

ぐりぐり止めでぇ~~~ズンッ!ググググ~~!

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330665557117665


魔法契約に必要な血液は、ほんの一滴あれば充分である。

エルサーシアは加減が出来ない・・・

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