*第11話 命の対価

ケイコール夫婦が逃れた先は、テオルコイント首都の商家であった。

ジャンゴは低位の上級精霊契約者として首都の精霊院に入学していた。

その時の同級生が協力者だ。

ケイコールは売り子として、エダンは荷受け場の作業員として働いていた。


大怪我をしてはいるが、シオンはダモンの保護下で治療を受けていると聞いて、

ケイコールは安堵した。


「どへば恩がえすべか解がんねすだぁ。」


助けを求めたものの自分達には何も無い。

たった一度きりの思い出があるだけだ。

それでもエルサーシアは友人だと言って呉れた。

それにすがった。


「私のサーシアを馬鹿にしないで下さいね。

友人に見返りを求めたりはしませんよ。」

にっこりと微笑んで嬉しそうなルルナである。


「サーシアが待っていますよ、一緒にダモンへ行きましょう。」


村長からはたっぷりと慰謝料をしぼり取って来た。

ルルナが用意したのは、人が乗れるほどの大きな天秤量てんびんばかり。

その片方に村長を乗せ、同じ重さの金貨を要求した。


「もし釣り合わなければ、お前の体を削って合わせる。

順番に手足を切り落とす。」

おどした。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330665408522264


ルルナはやると言ったらやる。


貯め込んでいた金貨だけでは足りず、

教会から借金をしてようやく釣り合った。


金貨2000枚。

それが村長の命の値段だ。


「あれで優しいと思っているのかしら?」

「サーシアならとっくに殺してるよぉ~」

「・・・そうですわね。」


閉所恐怖症で馬車嫌いのリコアリーゼとハニーは先に飛んで戻る事にした。

ルルナが魔法で馬車を加速させるので通常よりも早く着くが、

それでも10日は掛かる。


とても耐えられない。


降り続く雪は当分の間は止みそうにもない。

上空を高速で飛行するのだから、並みの防寒具では役に立たないだろう。


「またあれを着るのね・・・」


**********


「ケイコちゃん!久し振りね!」

「エルサーシア様ぁ!」


ダモンの城で17年ぶりの再会をしたエルサーシアとケイコール。

互いの手を取り合い、過ぎ去った時間に思いをせる。


「ヨウコちゃんは息災そくさいかしら?」

「妹どば六年前ぇに・・・」


ケイコールの双子の妹、ヨウコールも踊り子であった。

17年前、谷の小さな音楽堂。

3人とルルナで”蝶々の舞”を踊った。

素朴な人達の輝く笑顔に囲まれて、スポットライトに照らされて。


元々、体の弱い娘だったヨウコールは、

大人になっても頻繁ひんぱんに熱を出していた。

六年前の冬に風邪をこじらせて肺炎を起こし帰らぬ人となった。


「そうでしたの、淋しいですわね。あの音楽堂は、まだ在りまして?」

「んにゃ、観光用さ演舞場なったでばぁ。」

「そう・・・」


それならそれで良い。

思い出がより美しくえるから。


「ねぇ、シオンを私に預けなさいな。」

「え?」

「アリーゼと一緒に精霊院に通わせるのよ!」


無茶を無茶とは思わないエルサーシアである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る