*第6話 青い山脈

コイントとオバルトの国境ラーアギル山脈。

大陸の北部地域を孤立させる白銀の峰々を悲しみと希望を込めて

人々は”青い山脈”と呼んだ。


この峠を越せばダモンの地に入る。

国境を守護する山岳民族ダモン。

エルサーシアの故郷だ。


気張きばっでけろ!もすこしだぁ~」

ついに追いつかれてしまった。


******


谷を出てから30日目。

国境近くの町パタオパンで食料を調達し宿屋に戻った時だった。


「こんぐれぇの娘だぁ、荷馬車の一人んびだべさ。」

間違い無い!

村長の所の若衆だ!


「んちにゃおらん、他所よそさ聞いでみれ。」

女将さんありがとぉ~~~

人の情けが身に染みる。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330665054499402


「追われちょるだが?」

「んだす。」

「わがだ、裏道さ逃げれ。」

女将さんの手配で息子が道案内を務める。


「達者でなぁ」

「ありがんどねぇ」


***********


町を抜け出したのが3日前、幾つも峠を越えてようやく国境まで来た。

そして日も暮れようとしている。

走り通しで馬はもう限界だ。


「仕方ねだな、ここらで休むべな。」


道端に荷馬車を停めて、馬に水と餌をやる。

”少しでも軽く”と荷物は殆ど置いて来た。

ぎりぎりの水と、馬の餌と、干し肉だけ。

本当は荷台も外したい所だが、乗馬などした事が無い。


荷台に潜り込んで、さっさと寝てしまおうと横になった時だ。

遠くかすかにひづめの音がする。


まさか!


慌てて飛び起きて音のする方に目を凝らす。

駄目だ、姿までは確認できない。


どうする?


迷っている場合では無い!

捕まったら終わりだ!


荷物を全て降ろして、再び馬を繋ぐ。

かにな、かにしてけろごめんね、許してね。」

泣く泣く鞭を入れる。


路銀と母の髪飾りだけを懐に抱いて、暗がり峠の細道を駆ける。


えだど!捕めれ!ドドドドドドゥッ!

見つかったぁ~


嫌だ!嫌だ!嫌だぁ~までぇ~!シオン~!諦めれぇ~!

ここまで来たのに~観念さねがぁ~!


ガタンッバキッ!!


荷台が跳ねた!

落石に乗り上げてしまった様だ。

体が宙に浮き、手綱に振られて放り出される。


空と大地がゆっくりと回転している。

あぁ・・・

後すこしだったのに・・・


悔しい・・・


*********


目が覚めたら天国だった。

ふかふかの布団の中に居た。

お姫様が寝る様な、天涯付きのそれはそれは立派な寝台だ。


私は死んだのか?

恐る恐るあたりを見廻す。


「すんげぇ~」

こんな豪華な部屋は見た事が無い。


寝台横にある小さな机の上に、路銀の入った銭入れと、

母の髪飾りが置いて在る。


「えがった、無事だぁ~」

体を起こそうとしたが激痛が走る。

「あ痛だぁ~!」

よく見ると包帯でぐるぐる巻きになっているでは無いか。


「あぁ~動いちゃ駄目だよぉ~」

え?誰?

「骨が折れてるからぁ~」


ふわふわと浮いている。

人の様で人では無い。


精霊か?


人型の精霊。

それは聖女と英雄四天王の契約精霊の筈だ。

それではここは?


ちょっと待っててねぇ~ヒュルルルル~~~


飛んで行ってしまった・・・

説明くらいして欲しかった。


荷馬車から落ちて大怪我をした様だ。

命だけは助かった。

今わかるのはそれだけだ。


若衆達はどうなったのだろう?

死んだと思って帰ったのだろうか?


「目が覚めましたのね。貴方がシオンかしら?」


お姫様だ・・・

すんげぇ~美人だぁ~


「私はリコアリーゼ。

お母様に替わって貴方を迎えに来ましたの。」


リ、リコアリーゼ様!

大聖女エルサーシア様の娘!

夢の聖女様!!!


「聞こえていますの?シオンですわよね?」


「しょ・・・」

「しょ?」

しょんべおしっこ漏れだよぉ~」


やってまっただぁ~

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